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芹香ちゃんから別荘お泊り計画の連絡があった。嬉しい!
実は少しだけ心配していたんだけど、ちゃんと私も頭数に入っていたみたい。良かった。疑心暗鬼になっちゃったよ。
私の家の別荘を使ってもいいよと言っておいたんだけど、違う子の別荘に行くことに決まったみたい。 あぁ、楽しみだなぁ。
「吉祥院さん、今日はずいぶんご機嫌だねー」
塾に行くと、梅若君が私の顔を見てそう言ってきた。どうやら私はひとりで笑っていたらしい。
「ええ。友達と泊まりに行く約束をして」
「へーっ、いいじゃん!海?」
「いえ、避暑地ですわ」
「おぉっ!さすがお嬢様。海は行かないの?夏といえば海でしょう!」
「そうですねぇ。梅若君は海が好きなんですか?」
「もちろん!今年も言ったよ、海!ビキニの女の子達サイコー!」
「…あぁそうですか。梅若君はスタイルの良い女の子が好きなんですか?」
「まぁね!男のロマン、ボンキュッボン!俺のベアたんが人間の女の子だったら、絶対小悪魔セクシー系悩殺美少女になってるね!吉祥院さんもそう思うだろ?」
「そうですね」
「だよなー。どっかにいないかな?ベアたんみたいな女の子!」
…あんた、私がベアたんにそっくりだと言っていなかったか?髪か、髪型のみか。私は小悪魔でもセクシーでも悩殺美少女でもないか。
せっかく犬の形の可愛いチョコレートを見つけたから持ってきてあげたのに、絶対にこいつにはやらない。
へらへら笑う今日の犬バカ君の耳には、シルバーの骨が光っている。
トイレに行くと、ショートカット達が後から入ってきた。犬バカ君と仲良く話すようになってから、余計に私を見る目がきつくなってきている。この塾には夏期講習が終わってからも通おうと思っているので、このままでは少し面倒だ。そろそろどうにかしないといけないかな。
「吉祥院さんってすっかり梅若と仲いいねー。てか梅若としかしゃべんないけど」
来た。
「私は人見知りでなかなか自分から話しかけられなくて。本当は森山さん達とも仲良く出来たらなって思っているんだけど」
「へぇ~」
森山さんとはショートカットの名前だ。
ショートカットは私の言葉を全く信じていないらしい。
鏡越しに疑わしげな目で見てきた。
「瑞鸞でも友達は女子ばかりなので」
「へーそうなんだぁー。私はてっきり吉祥院さんは梅若を狙ってるとばかり思っていたけどぉ~?」
お、直球できたか。
「まさか。私、好きな人いますし」
だから貴女のライバルではありませんよ。
「えっ!そうなの?!誰?誰?瑞鸞の人?」
ショートカットが餌に食いついた。
誰?……誰にしよう?
もちろん好きな人なんていない。私が犬バカ君を好きでもなんでもないというアピールのために、適当に言っただけだ。
誰ってことにしておこうかな。あまり身近な人をイメージすると、どこで横のつながりがあるかわからないし。もちろん鏑木、円城なんて論外。
「兄の友人なんです。私が一方的に憧れているだけなんですけどね」
「へぇっそうなの!どんな人?」
「大人でとっても素敵な人なんです。私の家に遊びにきた時は可愛いブーケを持ってきてくれたりして。小さい頃からの憧れの人なんですわ」
「へぇーっ」
「なになに、吉祥院さんは年上がタイプなの?」
もうひとりの女子、榊さんも食いついてきた。
「ええ。優しくて落ち着いた、包容力のある人が好きです」
たとえばお兄様のような。
「そうなんだ。吉祥院さんは年上がタイプかー。じゃあ梅若とは全然タイプが違うじゃん。あいつ落ち着きないもんねー」
ショートカットの態度が軟化した。
「梅若君はどちらかというと弟タイプですものね」
「そうそう。あいつは本当に世話が焼けるからさー」
「吉祥院さんの好きな人ってことは、やっぱりセレブ?」
「セレブというのかわかりませんけど…、ある企業のご子息ではありますね」
「うわー、やっぱりお嬢様が相手にするのはセレブ男子だよね。梅若じゃ話になんないよね~」
ショートカットの中で私へのライバル疑惑がかなり薄れてきたようだ。
「それに梅若君はボンキュッボンの小悪魔美少女がタイプみたいですわ。私にもどこかにそんな女の子がいないかなって言ってました」
「何、あいつそんなバカなこと言ってんの?でもそっか。ボンキュッボンね」
ショートカットは私の全身をジッと見て、にっこり笑った。
「梅若も本当に失礼だよねー。吉祥院さんもあいつに困ったら私に言って。助けてあげるから」
「ええ、ありがとう」
どうやら私のささやかな体型に安心したらしい……。
自称サバサバ女は、自称姉御肌であったりもするので、こちらから頼ると結構簡単に転がってくれる。女子の誰かと揉めたりした時には、結構な戦力になってくれたりもするし。ただし揉めた相手が男子だとすぐに裏切って男子側に付いちゃうけどね。
「私、おいしいチョコレートを持ってきているんです。良かったら食べません?」
「あ、私チョコ好き」
「私もセレブチョコ食べたい」
まだまだ綱渡りだけど、とりあえずショートカットのライバル認定を外すことに成功。
戻って架空の私の好きな人の話をしながら女子だけでチョコを食べていたら、犬バカ君が「ベアたんチョコ!」と騒いできたので無視した。
ダメ押しで「私の髪型が梅若君の愛犬にそっくりなんですって。いつも愛犬と比べられているの。梅若君の愛犬のほうが毛艶がいいって言われたわ」と話したら、「なにそれ。ちょっとー梅若!吉祥院さんに失礼でしょ!」とショートカットが嬉々として犬バカ君に絡みに行った。
チョコを食べていた榊さんがニヤリと笑って「吉祥院さん、やるね」と言った…。
やってきましたよ、軽井沢!
参加メンバーは私を入れて6人。別荘は菊乃ちゃんの家の物だ。
私は大宮あやめちゃんと同室になった。窓を開けると東京より湿気がなくて涼しい。
きゃあきゃあはしゃぎながら荷物を整理すると、リビングに行ってこれからの計画を話し合った。
食事は朝は管理人さんが持ってきてくれるそうなのでそれを食べて、それ以外は自炊と外食をすることに決まった。
その後、みんなでメイン通りに遊びに行って、ジャムなどのお土産を買ったりスイーツを食べたりして楽しんだ。
夕食も外で済まして帰ってくると、リビングにお菓子を用意してのおしゃべり大会だ。
学院の噂話などをしていると、当然話題はあのふたりのことになる。
鏑木様と円城様、貴女はどっち派?
「私は当然鏑木様よ。初等科からの生粋の鏑木様派」
「私は優しい円城様のほうがいいかなぁ。でももちろん鏑木様も好きよ!」
「ちょっと、図々しいわよ!」
「でも最近、中等科上がりや高等科上がりがおふたりに近づこうとしているのが腹立つわ」
「そうよ。私達のほうがおふたりを好きな歴史は長いのに」
さっき買ってきたブルーベリージャム、食べちゃおうかなぁ。でも夜だから我慢したほうがいいか。でも一口なら…。
「麗華様はどっち派?」
「えっ、なにがですの?」
「やだ、聞いていなかったんですか?鏑木様と円城様ですよ。麗華様は鏑木様ですわよね」
「あら麗華様は円城様と仲がよろしいわよ」
「それだったら鏑木様とも親しげですわ」
とんでもない誤解だ!
「私はどちらの方とも特に仲は良くありませんわよ。妙な誤解をなさらないで」
「あらだって、円城様に時々呼び出されていますでしょ。ほかの女子にはそんなことしませんもの」
「…あの、私、麗華様が鏑木家のお茶会に招かれたって聞いたんですけど本当ですか?」
どっからの情報だ!
みんながきゃーっ!と騒いだ。
「素敵!鏑木家公認ですわね!」
「麗華様!私悔しいですけど、麗華様なら応援しますわよ!」
「ちょっ…!」
「麗華様ったらなんでそんな大事なことを隠していたんですの?」
恐ろしいことを言うのはやめてくれ!
「みなさん落ち着いて!変なことを言わないでくださいな」
「え~っだって~」
「ねぇ」
「鏑木様には心に決めた方がいらっしゃるでしょう?」
「あ…」
みんなが互いの顔を見合わせた。
鏑木が優理絵様を長年好きなのは公然の事実だ。
みんながなんとなく静かになったので、今日はそのまま部屋に戻って寝ることにした。
次の日の朝、あやめちゃんに「麗華様、塾に通われているそうですけど、勉強は大変ですか?」と聞かれた。
え、突然なに?




