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 今日は香澄様に誘われて、ピヴォワーヌ専用席でランチ。最近、ちょっと甘いものばかり食べすぎている気がしないでもないので、ヘルシーな春野菜とベーコンのパスタにしておく。


「この前はクラスのランチ懇親会を企画したんですってね」


 香澄様が悪戯っぽい目で聞いてきた。

 これはきっと友柄先輩から、私が香澄様の名前を出してお願いしたことを聞いてるな~。


「ええ。食堂や生徒会長からも快い返事をいただけまして。楽しくみんなで食事をすることが出来ましたわ」

「まぁ」


 香澄様がふふっと笑った。

 すると私達の会話を聞いたほかのメンバーが、話に加わってきた。


「生徒会にわざわざ話を通す必要はなかったのでは?それではまるで、あちらが上みたいに思われるわ」

「そうだな。あくまでも瑞鸞ではピヴォワーヌが最上位なのだから」


 ありゃ~。面倒くさい話になってきたな。

 ピヴォワーヌ至上主義の方々は生徒会を毛嫌いしているから。

 香澄様が気まずそうに下を向いた。その生徒会の長と付き合ってるなんて、これじゃ絶対言えないだろうなぁ。

 中等科ではそこまでではなかったピヴォワーヌと生徒会の確執が、高等科ではずいぶん激しくなっていた。

 生徒会の持つ権力が、高等科の方が大きいせいもあるのだろう。まぁ今の生徒会長なら、全面対決なんてことにはならないだろうけど…。


「私は新入生ですし、スムーズに事が運ぶように、生徒会にも事前連絡をしておいたほうがいいかと思ったのです。でももし私の行動が不快にさせたのでしたら、申し訳ありませんでしたわ…」

「あ、いやっ、麗華さんは悪くないよ。すまないね、気にしないでいいよ」


 哀しそうな顔でか弱い私を演出してみたら、わりとすぐに折れてくれた。うへへ。

 この話はそこで終わり、その後の食事はなごやかに進んだ。鏑木と円城も時々会話に参加した。ふたりは部活には入らないそうだ。運動部からの相当な勧誘があったみたいだけど。


「麗華様はどこか入りたい部があったの?前に見学に行ったと聞いたけど」

「ええ。でもまだ決めかねていて…」


 本当は文化部で入りたい部はいくつかあったけどね。そのどれもが部員がおとなしそうな子達ばかりで、突然の猛獣登場に怯えるうさぎちゃん達みたいだったんだもん。あれは絶対歓迎していない。


「茶道部や華道部はどう?」

「小さい頃から教えていただいている先生がいらっしゃるので、わざわざ部活に入りたいとは思いませんの」

「そう。ほかに希望はあるの?」

「最初は運動部を希望していたんですけど…」


 その瞬間、鏑木と円城がちらっとこちらを見た気がした。なんだよ、私が運動部希望じゃおかしいかよ。

 私は遠足の山登りでは、いつもあまり芳しい成績ではないけれど、体育の成績は人並みだ!体育祭ではそこそこ活躍しているじゃないか!

 私は別に運動神経が悪いわけじゃない。ただ根性がないだけだ。


「瑞鸞の運動部はわりと練習がきついと聞くわよ。麗華様にはつらいのではないかしら」

「ええ。見学して無理そうだと思いましたわ」


 鏑木と円城が小さく噴き出すのが聞こえた。ムカッ。


「あれ~、こっちの席空いてるよ~」


 その時、若葉ちゃんがお弁当を抱えながらこちらにやってきた。

 うそっ、なんで?!

 お昼休みになってからずいぶん経っていたので油断していた。授業が押してたのか?!

 プレート!ピヴォワーヌ専用席のプレートは?!ないっ!誰だ、どかしたのはっ!

 そのまま無邪気な笑顔でやってきた若葉ちゃんに、ピヴォワーヌの先輩方の空気が厳しくなった。これはまずい…。至上主義の先輩方が今にも怒りそうな雰囲気だ。


「あ、あのっ、こちらの席は私達の専用の席なので、一般の生徒は座れないのよ?」


 私は思わず立ち上がって、若葉ちゃんに注意した。

 若葉ちゃんはきょとんとした顔で私と目を合わせた。そして自分の後に続いてこない友達を振り返り、その友達の顔色を見て、自分の行動がまずかったのを悟ったみたいだった。


「すみませんっ。私気づかなくて。申し訳ありませんでしたっ」


 若葉ちゃんは思いっきり頭を下げて、大急ぎで友達の元に戻って行った。セーフ!


「なんだ今のは。外部から入ってきた新入生か。後で名前を調べて正式に注意しよう。示しがつかない」

「あの子、あまり瑞鸞の生徒っぽくないわね。もしかして特待生枠なんじゃないかしら」

「それなら余計に問題だな」


 げげっ!


「あのっ、なにもそこまでしなくても。きっとまだ慣れていないのですわ。今回は大目にみてはいかがでしょう?」

「しかし…」

「もちろんこのままというわけにはいきませんから、私から彼女のクラスの、クラス委員を通じて注意をしておきますわ。その時にピヴォワーヌのこともしっかり教えますわ。ね、お願いします」

「…では今回だけは麗華さんに免じてということで」

「…そうね。麗華さんがそこまで言うなら」

「まぁ、ありがとうございます!」


 怖い~っ。ピヴォワーヌ、怖い~。

 たかが席に座りそうになったくらいで、そこまで怒るなよ~。

 それと若葉ちゃん、迂闊すぎ。一緒にいた友達はしっかり気づいていたのに。友達も教えてやれよ。青ざめて突っ立ってる場合じゃないよ。

 そして今の小さな騒ぎの間も、鏑木と円城は全く気にせず普通に食事を続けていた……。


 でもこれって、君ドルで吉祥院麗華が「身の程知らず!」って若葉ちゃんを怒鳴っておおごとにする、あのシーンだよね?

 マンガでは食堂が静まりかえり、若葉ちゃんが入学早々悪い意味で注目される、一番最初のトラブルだったけど。

 一応、回避したってことなのかな?つい衝動的に立ち上がって注意しちゃったけどさぁ。だってあのままじゃ、物凄く厄介な展開になりそうだったんだもん。

 あぁ、でも本当にマンガと同じことが起きるんだ…。うっ、なんだか胃が痛くなってきた。

 でもパスタはしっかり食べるよ。春野菜は体にいいからね。



 若葉ちゃんのクラスのクラス委員には食堂での話をして、それとなくピヴォワーヌへの注意事項を教えてあげるようにお願いした。

 いっそピヴォワーヌ対策マニュアルでもあるといいんだけど。友柄先輩に相談してみようかな…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 運命の日、が来るまで77話。壮大。 だけど安心の高クオリティ! 作者に感謝!
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