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 葵ちゃんと久しぶりに会うことになった。葵ちゃんとは春休みに会って以来だったので、とっても嬉しい。

 残念なことに葵ちゃんとは高校に入って塾が別になってしまったのだ。おかげで今までのように定期的に会うことがなくなってしまった。私の心のオアシスだったのに。

 でもメールや電話でまめに連絡を取っているので、この友情はずっと続くと思っている。逃がしませんよ、葵ちゃん!


 葵ちゃんとやってきたのは、ケーキが評判のカフェ。確かに種類が豊富だ。

 バナナのタルトおいしそうだな。でも紅茶のシフォンケーキも捨てがたい。ロールケーキはお土産で買って帰ればいいかな。

 あれこれと悩んで、結局ミルクショコラケーキにした。あ~、ケーキはひとを幸せにするねぇ。


「葵ちゃん、春休みに会った頃よりも顔色が良くなっていますわね。良かった」

「うん、ありがとう」


 受験勉強でやつれていた葵ちゃんも今はすっかり元通りになって、入試直前にはげっそりしていた頬もふっくらしている。


「高校は慣れた?」

「入学直後にいきなりテストがあったの。せっかく受験勉強から解放されたと思ったのに」

「へぇ~」


 さすがは進学校だなぁ。


「でもしばらくは勉強はいいや。部活に入ろうかなって思ってて、今いろいろ見学してるんだ」


 部活かぁ。中等科では結局帰宅部だったな。私もなにか入ってみようかな。そしたら新しい出会いがあるかもしれないし!


「どうせなら運動部がいいと思ってるんだ。バレーとかバドミントンとか。私、中学の時はバスケ部だったから」


 運動部か。体を動かすのもいいな。なにより痩せるし。


「私も入ってみようかしら。運動部」

「麗華ちゃんが?うん、いいと思うよ!そうだなぁ、麗華ちゃんならテニス部が似合いそう!」

「テニス部以外でお願いします」


 テニス部にだけは絶対に入りたくない。全くの初心者なのに、なんとなく最初からやたら上手いと誤解されそうな気が凄くするし。

 これはあれだ。翼という名前の男の子が、サッカー部で過剰な期待をされるのと同じだ。

 高確率で夫人というあだ名を付けられそうで怖い…。


「私も今度、見学に行ってみますわ。ただどんな部活があるか詳しくは知らないの。一応部活の一覧表はもらったんですけどね」

「そうだね。実際自分の目で見てみないとわからないもんね」


 葵ちゃんは楽しそうに笑いながら、紅茶のシフォンケーキを一口食べた。

 やっぱり、紅茶のシフォンケーキもおいしそうだな。もうひとつ頼んでしまおうか…。


「葵ちゃん、受験勉強が終わって毎日楽しそうね。良かった」

「うーん…、悩みはあるよ。学校関係じゃなく、家のことで」

「家?」

「うん。お兄ちゃんが突然ギターに目覚めて、毎日家族の迷惑を顧みずにベンベンベンベンかき鳴らしてるの。うるさくってしょうがない」

「あらら」

「しかも最近は歌まで歌い始めて、もう最悪。ベベンベンベンあ~あ~あ~って、下手なギターと奇声がご近所中に響き渡ってるの。この前ね、お母さんがお宅のお兄さんギター上手いわねぇって言われたんだって。これ完全に嫌味でしょ!」


 温和な葵ちゃんが珍しく声を荒げている。


「ちなみにふたりいるお兄様方のうち、どちら?」

「…筋肉」


 筋肉でギター。火山のふもとで歌っちゃう系かな?


「本当にもういい加減にしてほしい。恥ずかしくて外歩けない」

「大変ねぇ」


 うん、と葵ちゃんが頷いて大きなため息をついた。

 でも葵ちゃんには悪いけど、その筋肉お兄さん、一度お会いしたい。


「私、一度そのお兄様に…」

「ダメ」


 そうですか。


「ごめんね、変な話をして。筋肉の話はもういいよ。麗華ちゃんは学校どう?」

「そうねぇ。私、周りから近寄りがたいと思われているみたい。特に男子が」

「確か前にもそんなこと言ってたよね?あの時は補習の時だっけ」

「あぁ、ありましたわね。さすがにあの時よりはいいですけど」


 あの時の補習は、結局最後まで無人島生活だったもんなぁ。


「やっぱり私、意地悪顔なのかしら。なんかね、怯えたように目を逸らす子もいるのよ?」

「え…。でも、仲のいい友達もいるんでしょ?それにほら、男子だって同じ塾の友達がいるって」

「ええ、まぁ」


 秋澤君か。


「その男の子に頼んで、麗華ちゃんの良いところをみんなに広めてもらったら?それに女子の友達にも頼んで。そしたら麗華ちゃん、友達いっぱいできるかも」

「それって自作自演ぽくない?バレた時、死にたくなるほど恥ずかしいと思う。それにまず、私の良いところを広めてって頼むのが恥ずかしくてできないわ」

「まぁねぇ…」


 そこまで追い込まれているとは思いたくない。


「だったらやっぱり部活だよ!きっと新しい友達も出来るよ!」

「そうね。さっそく今度見学に行ってみるわ!」


 そうだ。部活に入れば新しい友達も出来て、もしかしたら素敵な先輩とのラブロマンスもあるかもしれない!

 なんの部活に入ろうかなぁ。



 私が部活に入ろうか考えているという噂を聞いて、テニス部が勧誘に来た。だからテニス部だけはムリ。 

 テニポン部ってなに。それもテニスでしょ。しかもマイナーすぎる。瑞鸞にそんな部あったんだ。

 テーブルテニス?むしろはっきり卓球と言ってくれ。おのれの部活に自信を持て。

 そんなに私にラケットを握らせたいなら、折衷案でバドミントンなんてどうだろう。葵ちゃんも入ろうかなって言ってたし。前世で子供の頃友達とよくやって楽しかったし。うん、いいかも。


 気楽な気持ちでバド部を見学に行ったら、シャトルの速さに戦いた。これはダメだ。当たったら凄く痛い。それにかなり激しい走り込みがあるらしい。う~ん、走るのはちょっと…。私、走ると口の中で血の味がするときがあるんだもん。走るのに向いていないと思うんだよね。

 友達を誘っていろいろな運動部を見学して回ったけど、その厳しさにどんどん心が離れて行った。

「せっかく見学に付き合ってもらったけど、私には無理そうだわ。ごめんなさいね」と友達に謝ったら、みんながそうだろうなという顔をした。すみません。

 あまりの自分の軟弱さに、私がちょっと落ち込んで歩いていたら、偶然出会った委員長に文芸部に誘われた。委員長、あんたはまだポエムを書いていたのか。

 ポエムはともかく、文化部のほうが私には合っているかもしれない。優しい友達が出来るかも。明日は文化部を見学して回ろうかな。そうだ、そうしよう。



 結局、私がのんびり楽しそうでいいなと惹かれた料理部や手芸部は、私が見学に行ったらやたら緊張されてしまったので、遠慮することにした。

 編みぐるみ、作ってみたかったんだけどな…。

 部活のハードルって高いなぁ。 

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