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高等科に入学して数日経ったが、特にトラブルはない。若葉ちゃんもなにかをしでかしたって話は聞かないし。
こっそり若葉ちゃんのクラスを覗いてみたけど、一応数人の友達ができて、なんとかやっているようだ。
この調子なら今のところは放っておいて平気だろう。
なので私は、これから自分のクラスの親睦を深めるべく動きたいと思う。
新しいクラスに外部生はまだあまり馴染めていない。内部生同士でも中等科時代に接点がなければ、探り探りだし。
ここはひとつ、親睦会的なものを開くべきだと考える!そして親睦会といえば食だ!
「クラス全員でお昼を食べる?」
「ええ、一度みんなでランチを一緒にして、親睦を深めたらどうかと思いましたの」
私はさっそくクラス委員の相方、佐富行成君に提案してみた。
休み時間だけじゃ、なかなか仲良くなりにくいと思うのだ。だったら一度みんなでお昼を一緒に食べて、いろいろおしゃべりしたらいいんじゃないかと考えた。
話題だってランチなら「これおいしいね」とか、当たり障りのない導入から入れるし。どうだろう?
「う~ん。いいアイデアだとは思うけど、食堂でクラスの人数分の座席を固まって確保できるかなぁ」
確かにね。大体はみんな、空いている席に座ってしまうから、約40人分の席を纏めて確保するのは相当難しい。
だがしかし!佐富君は重大なことを忘れている!
「大丈夫ですわ」
シャキーン!
私は制服の赤い牡丹を佐富君に見せつけた。
「あぁピヴォワーヌ。えっ!まさかピヴォワーヌの専用席を使うの?!」
「さすがにそれは無理ですけど。でもあらかじめ、食堂にクラス分の座席を予約させていただくことくらいは出来ると思いますわ」
最初は中庭あたりにシートを敷いてみんなでお弁当でも食べようかと思ったけど、万が一雨が降った時のことを考えると、食堂が一番問題なさそうだと思ったのだ。
「いきなり新入生が食堂の一角を占領したら、先輩方からの風当りがきつくないかな」
私は再び牡丹の花をキラーンと光らせた。
「私がすべて仕切っていることだと言えばいいですわ。それと生徒会長にも話を通しておきましょう。たった1日のことなのですから、きっと皆様大目にみてくださいますわ」
「おおーっ、さすが吉祥院さん」
佐富君がパチパチと拍手をした。
ホッホッホッ、文句があるならピヴォワーヌへいらっしゃい!
…あれ?これはロココの女王のセリフではなかったっけ?
食堂と生徒会長である友柄先輩の了解も取り、私達のクラスは無事ランチ親睦会を執り行うことができた。
友柄先輩には香澄様の名前をちらつかせてお願いしたら、苦笑いでOKしてくれた。
脅しじゃないよ、お願いだよ?
あまりいい席を占拠するのは申し訳ないので、すみっこのなるべく目立たない場所を使わせてもらうことにした。ど真ん中で注目浴びるのも嫌だし。
「ではみなさん、いただきましょうか」
学食のランチを食べる子もいれば、お弁当持参の子もいる。お弁当でも食堂を使っていいのだけど、気後れしてまだ一度も食堂に来たことのない子もいたので、今回は食堂を使ういいきっかけになったかも。
最初はぎこちなく会話もあまりなかったクラスメート達も、食事が進むにつれ徐々に周りの子達と楽しく話し始めた。
内部生が外部生にいろいろ学院のことを教えてあげてたりして、いい感じだ。
「でね、あっちの奥の席、あそこはピヴォワーヌの方々の専用の席だから、絶対に一般生徒は座ってはいけないのよ」
ひとりの内部生の子が外部生に教える声が聞こえてきた。
うん、一応専用席はピヴォワーヌのプレートが置いてあるから、たぶんわかると思うよ。
ちなみに私は滅多に使わない。中等科時代から、ランチはほとんど芹香ちゃん達と一緒に食べている。専用席を使うのはたまにピヴォワーヌの方に誘われた時くらいだ。中等科の1年の時には香澄様に時々誘われたりしていた。主に香澄様から友柄先輩ののろけを聞かされる時などに。
大体、お昼は一番おしゃべりが盛り上がる時間なのだ。その時にいないと後でみんなの話題についていけなくて、だんだん取り残されるはめになる。女子のグループにとって、お昼を一緒に食べるというのは、結構重要なことだ。
鏑木と円城はお昼は常に専用席だ。そこならファンの女の子達も入ってこられないからだろうけどね。さすがに彼らもお昼くらいは静かに食べたいよね。
食事が終わる頃には、みんなだいぶ打ち解けてきたようだ。私の周りには、同じクラスになったいつものグループの子達が座っていて、新たな友達作りはあまり出来ていないけど…。
まぁいい。それでも何人かの女子は話しかけてきてくれたのだから。これから増やしていけばいいさ。
しかし、男子生徒が私と目を合わせないのは気のせいか?私はクラス委員なんだから、わからないことはなんでも聞いていいんだよー。
こんなに私はウェルカムなのに、なぜみんな佐富君にばかり聞くか。
ランチ懇親会の後から、クラスの子達の仲も縮まった気がする。良かった良かった。
「吉祥院さんのアイデアのおかげで、前よりもみんな仲良くなれたみたいだね。さすがは吉祥院さん」
佐富君にも褒められた。
そういえばこの佐富君はほかの男子と違って、私に最初から普通に話しかけてきてくれているな。
「私は男子達に怖がられているような気がするのですが、佐富君は平気なのですね」
「えっ、怖がられている?!あー…、え~っと、どうなのかなぁ。吉祥院さんはほら、高嶺の花みたいに思われているんじゃない?」
……どうだか。
「でも俺の場合は秋澤と友達だから、吉祥院さんの話はあいつから時々聞いてたんだ」
「佐富君は秋澤君と仲が良かったんですか?!」
それは初耳。そして秋澤君、私のどんな噂をしているのか?
「吉祥院さんとは初等科の頃に同じ塾に通って、仲良くなったって聞いたよ。それで今は秋澤よりも秋澤の幼馴染の女の子と仲がいいって。あの子、確か名前は蕗丘さんだっけ」
「桜ちゃんを知っているんですの?」
「うん。前に秋澤の家に遊びに行った時に会ったよ。清楚でおとなしい、いかにも百合宮のお嬢様って感じの子だったなぁ」
騙されてるよ、佐富君!桜ちゃんは外見は和風美少女だけど、中身はガミガミ妖怪で、口には毒蛇を飼っているんだよ!
しかし桜ちゃんの猫かぶりも相当なものだなぁ。
私も桜ちゃんをぜひ見習いたいものだ。




