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 夏休みの間に、なんとか付いた肉を成敗しようと、ステッパーを買ってみた。

 内部進学がほぼ約束されているとはいえ、私も一応受験生なので、家で勉強しながら運動が出来ればいいなと考えたのだ。

 参考書を読みながら、足はステッパーを踏む。踏む。踏む。

 雑誌に載っていたスーパーモデルの、「私は飲み物からカロリーは摂らない」という言葉に目からうろこを落としまくり、大好きな甘いミルクティーと冷たいココアをやめてみた。

 毎日続けているうちに、徐々に痩せてきた。夏期講習で会った葵ちゃんからも、「なんだか体が小さくなったね」と言われた。よしっ!

 そんな葵ちゃんは国立付属の内部進学試験が相当大変らしく、今からかなり頑張っているようだ。体壊さないといいけど…。

 夏休み中、ずっとステッパーを踏み続けたおかげで、元の体重に戻すことが出来、その頃にはすっかり飽きてしまったステッパーは、フラフープと共に部屋の隅に放置状態になった。




 2学期になり久しぶりに登校すると、たった1ヶ月なのにみんなが少し大人っぽくなっている気がして驚いた。

 特に男子はにょきにょき背が伸びていて、ずいぶんと様変わりしている子もいた。

 私はとっくに身長は止まってしまったけど、男子はこれからもどんどん伸びていくんだもんねー。あれって夜、骨がきしむような鈍痛で、眠れないんだよね。大変だ。

 夏休みの間の出来事をみんなでおしゃべりしている時、今年の夏合宿には幽霊は出なかったらしいと聞いた。ホテルが夏合宿前にお祓いをしたのだそうだ…。心の底から申し訳ない。



 そして中間テストを無事クリアしたあとにやってくるのは、体育祭だ。

 体育祭は毎年経験しているけど、今年は今までとは違う。同じクラスに、皇帝がいるのだ。

 私はクラス委員として、坊主君と一緒にHRに各競技の出場選手の立候補を募った。

 無難な競技はすぐに決まっていき、最後にはやはり騎馬戦が残った。

 皇帝陛下は席に座り腕を組んで民草を見据えた。

 そして腕力、脚力に自信がありそうな男子をひとりひとり指名していった。

 選ばれた3人の顔からは悲壮な覚悟が見てとれた。うん、頑張れ。

 ほかにも力がありそうな男子はいたんだけど、夏休みの間に背が伸びすぎてバランスが悪いので、今回は外されたらしい。良かったね。成長期に感謝だ。

 選ばれし馬は、鏑木家で体育祭まで秘密特訓をするそうだ。知らなかった。毎年、どこで練習しているのかなって思ってたんだ。校庭にもいないし。

 練習内容や作戦は極秘だそうだ。皇帝をそこまで駆り立てる騎馬戦っていったい…。



 私はクラス委員なので、体育祭の準備で生徒会室に行くことが多くなった。

 生徒会長は同志当て馬。私はついつい好奇心で観察してしまう。やっぱり髪は根元から黒いな。

 同志当て馬はそんな私の視線に気づいて、不審な目で私を見てきた。


「なに?」

「えっ、いや~、水崎君も騎馬戦に出るのかな~って」


 確か去年は、皇帝と最後まで戦ったのは同志当て馬だったはず。もちろん皇帝の敵ではなかったけど。


「…それって探りいれてんの?」

「いえいえ、そんな」

「出るけど、それ以上は教える気ないから」


 あらぁ、警戒されちゃった。


「それと」

「はい」

「俺、相手がピヴォワーヌだからって、容赦はしないから」


 同志当て馬は強い目で私を見た。

 あー、この人は反ピヴォワーヌだったな。


「よろしいと思いますよ。頑張ってください」


 でも相手は同志当て馬が考えている以上の、騎馬戦馬鹿だからね。きっと今頃自宅で練習していることだろう。

 用事が済んだ私は、生徒会室を退出した。でもその前に、


「生徒会長、髪を銀色に染めたいと思ったことはありますか?」

「銀?ありえない」


 ですよねー。




 体育祭当日は皇帝の出陣にふさわしい快晴だった。

 皇帝は騎馬戦以外にも選抜リレーにも出るので、そちらの練習もあった。いかにバトンをタイミング良く渡すかがリレーの命だと、リレーの選手達は何度も練習させられていた。熱いなぁ。この皇帝のどこがクールなんだ。

 皇帝の馬の男子達は、この短期間にずいぶんと筋肉が付いていた。あんた達、いったいどんな目に合わされてたんだ…。目が爛々としてて怖いよ。

 しかし私もミスして皇帝の怒りを買わないように、気合入れて頑張らないと。

 私はスプーンリレーや綱引きをこなした後、玉入れに参加した。

 ステッパー効果なのか、足に筋力がついた気がする。拾っては投げの作業が去年より楽だ。

 その時、私の後頭部にべしっと玉が当たった。

 思わず「痛っ」と声を上げ、後ろを振り向くと、同じクラスの男子が「ごめんなさい!わざとじゃないんです!わざとじゃないんです!」と大慌てで弁解した。

 うん、わざとじゃないのなら別にいいから。そんなに怯えないでくれる?

 なんとなく、みんなが私に当たらないように玉を入れているように見える。被害妄想か?

 結局、私のクラスの玉入れの成績は良くなかった。おかげでクラスの席に戻ると皇帝の機嫌が悪かった。ほら~。


 そしてとうとうこの時間がやってきた。騎馬戦。

 王者の貫録で競技場に入っていく皇帝の騎馬と、捨て駒扱いのもうひとつの騎馬。彼らは秘密特訓には参加させてもらえなかったらしい。自力で頑張れ。

 スタートの合図と共に、騎馬が一斉に走り出した。

 皇帝は近くの騎馬をどんどん仕留めていく。ほかの騎馬達はなるべく皇帝から離れようとしているのか、遠くで団子状態だ。

 その獲物達を狩りに、皇帝が動く。久々に私の頭に“禿山の一夜”が鳴り響いた。毎年思うけど、女子で良かったー!

 そんな皇帝の前に1年生の騎馬が突進してきた。なんたる無謀!


「うおおおっっ!」


 1年生は果敢に攻めていったが、所詮は皇帝の敵ではなかった。腕を掴まれ髪ごとハチマキを毟られたあげく、地面に投げ落とされていた。


「くっそーーーっ!」


 いやいや、心意気は買うよ、1年君。土まみれでズタボロだけどね。

 馬上の皇帝はそんな1年君をふんっと鼻で笑い、いつの間にか最後の一騎になっていた同志当て馬と対峙する為に動いて行った。

 同志当て馬も気合十分。間合いをはかって両騎が同時に走り出した。

 去年よりも強くなっている同志当て馬。しかし馬になっている男子達の実力の差は歴然だった。

 馬上でふたりが戦っている間にも、馬同士で蹴り合ってバランスを崩させようとしていた。

 最後は皇帝が騎馬の蹴り合いのタイミングを見計らって、同志当て馬を騎馬ごとなぎ倒し、見事全勝記録を守り抜いた。



 そして皇帝はこの後、今日を最後に騎馬戦から引退をすることを表明。騎馬戦皇帝は伝説となった。



 って、騎馬戦から引退ってなんだよ……。

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