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 愛羅様と優理絵様も無事、希望の学部への進学が決まって、あとは卒業を待つばかりとなった。

 高等科を卒業すれば優理絵様がサロンに来ることもなくなるので、鏑木は一見平気なフリをしているが、実は密かに落ち込んでいる。それ以上に、来年度は大学生と中学3年生という、さらなる立場の差も追い打ちをかけているようだ。

 しかし年の差ばかりは頑張っても縮めることは出来ないからねー。

 そんな鏑木を気遣って、優理絵様はなるべく一緒の時間を作るようにしていると愛羅様から聞いた。

 それでも用事があって優理絵様がサロンに来られない日などは、鏑木は窓の外を見てそっとため息などをついている。

 あの様子では、そのうち鏑木もポエムを書きはじめるのではないか?花占いを教えてあげようか。

 あ、私いい縁結びの神社を知っていますよ。おみくじがとっても当たるんです。鏑木様もぜひどうぞ。



 ポエムといえば、委員長はあんな大胆な片思いアピールをしておきながら、あれからも全く美波留ちゃんとの進展はない。

 私はてっきりあの後告白をするのかと思っていたのに、委員長に動く気配がないので、こっそり聞いてみたら、恥ずかしくてとても出来ないと言われた。

 委員長の恥ずかしいの基準がわからない…。

 じゃあなんであんなことをしたんだと聞いたら、島崎藤村に影響されて思わず…だそうだ。怖いね、中学生の病って。

 委員長としては、あのポエムで美波留ちゃんに自分の気持ちに気づいて欲しかったらしい。

 美波留ちゃんの名前にちなんで、海の絵のポストカードを使ってアピールしていたようだけど、そんなので気づくか!

 同じクラスだったり、元々仲が良かったりするならまだしも、あれだけで、これって私のことかも?と思ったら、むしろちょっと自惚れ屋さんだと思うし。

 これからどうしようと相談されたので、バレンタインに逆チョコでも渡せばと適当なアドバイスをしたら、本当に気合の入った高級チョコを用意してきた。

 しかも自分で渡すのは恥ずかしいから、私に渡してほしいときたもんだ。あんたはどこまで乙女なんだ。

 せめてカードに恋のメッセージを添えればと言ったのに、やっぱり勇気がないから無記名でと言い出した。今こそあのポエムの出番だろうに。それとも敬愛する藤村にあやかって、林檎の絵でも描いておくか。

 結局なぜか、私から美波留ちゃんへの友チョコとして渡すことになり、突然渡された美波留ちゃんもびっくりしていたけど、私だって困った。こんな気合の入ったチョコを、それほど普段仲良くしてるわけでもない女の子に渡したら、誤解されて変な噂が立ちそうじゃないか。

 ただその誤解は私の考えていた方向ではなく、本当は好きな人にあげたかったんだけど、勇気がなくて渡すことができなかったので、美波留ちゃんにあげたということになっていた。

 美波留ちゃんは、私はわかっているといった顔で頷き、「来年は頑張ってくださいね」といらない励ましをされた。

 どうしてくれるんだ、委員長!

 そして美波留ちゃんは私が誰を好きだと思っているんだ!

 そんな委員長は後日、ホワイトデーに私が美波留ちゃんからもらったお返しをあげたら、感動に酔いしれていた。

 委員長の乙女化がどんどん加速している気がする。もう女友達扱いでいいかな。




 そんな時、芹香ちゃんが蔓花さんの情報を持ってきた。


「蔓花さんの耳に、ピアスの穴が開いているんです」

「えっ」


 中学生がピアス!?なんという不良!

 ピアスなんて校則で禁じられてるんじゃないの?って巻き髪の私が言えた義理じゃないんだけど。


「ほかの子の耳にも開いていましたわ」

「信じられない。許されないわ」


 菊乃ちゃん達も話題に参加してきた。

 瑞鸞は良家の子女が通う学校というブランドイメージを大事にしているので、身だしなみに関しての校則も厳しい。

 カラーリングも基本は禁止だ。それでもこっそり自然に見える程度に茶色く染めている人もいるようだけど。

 私だって巻き髪だしね。

 しかしピアスかぁ。中学生が病院に行ってピアス穴を開けてくださいと頼んでも、親の承諾がないとやってくれないんじゃないかな。そしたら親公認?

 案外、ピアッサーで自分で開けてたりして。

 それにしても大胆だな。パーマやカラーはともかく、ピアスというのは古い家では眉をひそめる方々も多い。私のお母様もピアスはダメよと言っている。

 蔓花さん達は学院内でどんどん幅を利かせてきている。今は私達のほうが上だけど、逆転される日も近いのかもしれない。

 芹香ちゃん達はピアスの件を学院にチクってやろうかと姑息な相談をしている。

 それはやめておけ。私の巻き髪など、こちらにも弱みはいろいろある。


「もう少し様子を見ましょうよ。私達が先生に告げ口するのはあまりいいとは思えませんわ」


 なんとかみんなを宥めてはみたけど、両者の対立は3年に上がったら益々激しくなるのかもしれない。

 やだなぁ。妙に買い被られているけど、本当の私は女子同士の対決なんてことになったら、一番に逃げるタイプよ。だって怖いじゃん。



 そんな中、鏑木が高等科の卒業式に大きな百合の花束を抱えてお祝いに行ったという話を聞いた。

 委員長といい、鏑木といい、男子のほうが乙女思考で平和でいいなって、ちょっと羨ましくなった。

 しかし百合の花か。あいつ、私が初等科の卒業式にお兄様からうららをもらったシチュエーションに、実は憧れていたのではないか?

 サマーパーティーで優理絵様とワルツを踊っていたこともあったしな。

 鏑木はお兄様はともかく、伊万里様あたりに弟子入りしてみてはどうだろうか。

 この前、久しぶりに家に遊びに来た伊万里様にボックスフラワーをいただいた。なんておしゃれ!さすが伊万里様!

 鏑木、バカの一つ覚えのように花束ばかりじゃダメらしいぞ!



 満開の桜が散り始める頃、私達も3年生に進級した。



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