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 2年生に進級した。

 今年は私自身の進級よりも、私にとって重大な出来事があった。

 従妹の璃々奈が瑞鸞学院中等科に入学してきたのだ。

 あの子、中等科の外部入試に合格できるほど、頭良かったんだ…。

 我がまま放題だから、勉強もしていないだろうと見くびっていたのは秘密だ。

 しかし、あの璃々奈が入学してきたとなると、平穏な生活も怪しくなってきたな。

 厄介ごとに巻き込まないでくれるといいんだけど。

 あの性格で、まともに友達ができるのかな。 

 と思っていたけど、強気で強引な性格で手下を増やし、あっという間に派閥を作り上げてしまったようだ。

 入学して浅い外部生なのに、我が物顔で学院を闊歩する姿は、ある意味感心した。

 凄いぞ、璃々奈。



 そしてもうひとつ、強運を誇っていた私のクラス替え運にも陰りが出たらしい。

 円城と同じクラスになってしまったのだ。

 クラス表を見て、がっくりと膝をつきそうになった。終わった…。

 でもまだ鏑木じゃなかっただけマシじゃないか。円城は親友の敵にさえならなければ、害はないはずなのだから。

 そう、害はないはず。


 ───大ありだった。

 クラスがうるさい。同じクラスの女子だけではなく、ほかのクラスからも取り巻きがやってきて休み時間ごとに騒いでいる。まだ本調子じゃない朝から、女子のキンキン声を聞かされるのって、地味にダメージ受けるものなんだな。

 今まで一度もふたりと同じクラスになったことがなくて、平和で比較的のんびりしたクラスしか知らなかったので、これはなかなかにきつい。

 円城自体は騒ぐ女子達を適当にあしらい、男子の友達と一緒にいるのがほとんどだけど、少しでもそばにいたい女子達は、彼らの周りできゃあきゃあ言いながら様子を窺っている。

 このうるささは、部外者の私にとっては迷惑でしかないけれど、円城も特に女子に騒がれているのを喜んでいるようには見えないので、モテすぎるのも大変だねと少し同情した。

 たまには静かに過ごしたい時もあるだろうに。あぁ、だからピヴォワーヌのサロンに来るのか。

 私よりも出席率高いもんな。

 私も静かなサロンに逃げ出したい…。


 先生からは今年も学級委員を打診されたけど、断った。

「委員長がダメなら副でいいから」と言われたけど、その手にはもう乗らない。絶対ムリ。

 今までの平和なクラスであれば引き受けたかもしれないけど、今回のクラスは私の手には負えない。苦労するのが目に見えている。

 円城と同じクラスだと、何かひとつ決めるのも大変だ。

 席替えだけで大騒ぎ。くじ引きへの気合が違う。今までのクラスでは、後ろの席がいいとか仲の良い子の近くがいいとか、その程度の騒ぎだったのに。

 委員会や係決めもそうだ。女子は円城と同じものをやりたいので、なかなか決まらない。

 しかし残念。円城はなにもやらなかった。騒いでいた女子達はがっかりだ。

 そうなのだ。忘れていたけど特権階級のピヴォワーヌのメンバーは、積極的に学級委員やその他の委員などをやる人は少ないのだ。生徒達に尽くす側ではなく尽くされる側なのだから。

 なのになぜ、私はいいように使われていたのか…。

 でも円城は初等科の時に体育祭の実行委員をやってたな。先生も頼み込めば学級委員も引き受けてもらえたんじゃないか?

 むしろ騒ぎの中心の円城が学級委員をやったほうが、すべてがスムーズに運ぶ気がする。

 私の代わりに学級委員になったふたりが、4月の時点ですでにぐったりしている。

 去年は美波留ちゃんが円城と同じクラスで副委員長をしてたけど、あまりの苦労に円城熱も冷めたんじゃないか?今が狙い目、乙女委員長頑張れ。


 あぁ、前途多難な1年になりそうだなぁ…。



「秀介と同じクラスはそんなに大変なんだ」


 愛羅様は私の話を聞きながら、楽しそうに笑った。


「まぁ直接的な被害はないんですけど、騒がしいのに慣れなくて…」


 今日はサロンに例のふたりが来ていないので、こんな話も愛羅様にできるのだ。

 愛羅様達は3年生で今年は受験生なので、今までより勉強で忙しくなる。きっとサロンに顔を出す時間も減るかと思うと、少し寂しい。

 それは鏑木も同じで、優理絵様とは校舎は違えどサロンでは一緒に過ごせる貴重な最後の年だけど、優理絵様の受験勉強の邪魔もしたくないというジレンマで身悶えているらしい。

 昔よりは感情を上手く隠せるようになったのか、そこまで葛藤している姿は表に見せないけど。

 まぁそのかわり、いそいそと予備校まで送ったりしている。尽くすなぁ。

 そんな話をしていたら、円城がサロンにやってきた。鏑木がいないのに珍しい。


「秀介、今日はひとり?」

「そう。雅哉は優理絵を送っていったの、愛羅も知ってるだろ」


 そう言って、円城が私達の元にやってきた。うげっ。


「秀介がひとりでサロンに来るなんて珍しいと思ってね。雅哉がいないならさっさと帰るかと思ってたわ」

「ちょっと今日はこの後用事があって。それまでの時間潰し。教室にいるとなにかと煩わしくて」

「聞いたわよ。麗華ちゃんと同じクラスなんですってね」


 うわ、変なことは言わないでくださいね、愛羅様。

 円城は私を見てにっこり笑った。


「うん。でも吉祥院さんとは同じクラスだけど、ほとんど話すことはないよね」

「そうですわね」


 話す用事もありませんから。


「秀介、麗華ちゃんにあまり迷惑をかけないでよ。貴方達の取り巻きの女の子達は元気な子が多いみたいなんだから」

「注意してもなかなか聞いてくれないんだよね。だからよっぽど目に余る時以外は放置。吉祥院さん、彼女達なんとかしてくれない?」

「は?なぜ私が?」

「だって女子を仕切ってるの吉祥院さんでしょ。吉祥院さんがガツンと言えば彼女達もおとなしくなるんじゃない?」


 ひとを大奥総取締のように言うな。

 それに一番騒いでいるのは蔓花さんのグループだ。私達のグループの子の騒ぎ方は節操がある。たぶん。


「私にはそんな力はありませんわ。円城様がはっきりおっしゃればいいじゃありませんか」

「言ってるんだけどね。雅哉みたいにあまりきつく言うと、泣き出したりする子もいるから面倒なんだ」


 円城は少しうんざりとした顔をした。

 やっぱり喜んではいないんだな。


「そういえば、吉祥院さんの従妹だっけ?その子が最近雅哉の周りに近づいて、2,3年の女子と揉めてるみたいだけど」

「ええっ!」


 璃々奈!あの子はなにやってんだ!

 私の足を引っ張る様な真似だけはしないでくれ!


 胃がぎゅーっと痛んだ。

 今年はいろいろ厄介らしい。


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