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体育祭明けの中間テストは、補習も受けて頑張ったおかげでなんとか16位まで復活できた。心底ホッとした。これで先生方からの信頼も回復できただろう。
しかし、鏑木と円城は相変わらずの安定ツートップだ。今回は1位が円城だったけど。
あれだな。鏑木の2位は騎馬戦の練習のしすぎだな。なにが彼をそこまで駆り立てるんだか。
次の授業が移動教室だったので、同じクラスの友達と歩いていると、女子がうつむいてひとり歩いてきた。
あれ?あの子確か補習で一緒だった子だ。名前はなんだったっけ。
するとその後ろから女子の集団が笑い声をあげながらやってきた。彼女はその声が聞こえると早歩きで去って行った。
「今すれ違った子、お名前なんだったかしら?」
「さぁ。顔は見たことありますけど」
「あやめさんと同じクラスの子ですね。ほら、大縄跳びで失敗した子」
「あぁあの子」
「大縄跳びで失敗?そういえばあやめさんのクラスは誰かがミスして早々と失格してましたっけ」
「かなり練習してたらしくて、あやめさんも悔しがっていましたよねー」
そっかあの子が失敗したのか。
後ろから来た子達、同じクラスみたいだったけど、肩身が狭いのかしら。
「望田さんですね。今あの子、クラスで孤立してますわ」
昼休み、学食で一緒に食事をしていた大宮あやめちゃんに、さっきの子のことを聞いてみた。
「孤立?なぜ?」
「みんなで練習した大縄跳びを、始まってすぐに失敗して終わらせたから反感買っちゃって。私達のクラス、大縄跳びにかなり自信があったので」
え~、そんなことで?
「私も直後は望田さんに頭にきてましたけど、さすがに今は怒ってませんよ。ただ望田さんはそれだけじゃなくて、二人三脚でも転んで足を引っ張ったんですの。しかも組んでた相手も巻き込まれて怪我させちゃって」
「怪我?」
「怪我といっても膝をすりむいた程度なんですけど、相手があの蔓花さんのグループの子で」
蔓花真希、ギャルのリーダーか。あのグループの子に怪我をさせたとは、それはまた運の悪い。
私も二人三脚に出たけど、私が組んだ子は「麗華様大きな声で掛け声ですわ!」と言って、ぐいぐい私を引っ張ってくれたので、最後まで順調に走りきることができた。
確かにあの時、トップ争いをしていたクラスが転んで、一気に順位を落としてたけど、あれは望田さんだったかー。
「あれから望田さん、蔓花さんのグループに睨まれちゃって」
「いじめられてますの?」
「そういうわけではないですけど。あの子のせいでとか、聞こえよがしに言われたりしてますね」
それっていじめじゃないの?
「たかが体育祭くらいで」
「そうですわねぇ。私達は鏑木様と円城様の活躍が見られればそれでいいですけど、蔓花さん達は運動神経がいいから、ああいった行事は張り切るのでしょ」
あ~、いるよね、そういう子達って。
みんなはそれから体育祭のツートップの活躍について熱く語り始めた。
「リレーの時のデッドヒート!」
「短距離走での円城様、かっこ良かった!」
「でもやっぱり一番は騎馬戦の皇帝よ。強かったわねー」
「騎馬戦と言えば、生徒会長も素敵でしたわね」
なんだと?!
「あぁ確かに。私、中等科の生徒会長があんな素敵な人だと知りませんでしたわ。友柄先輩ですよね」
「そう、友柄千寿先輩。中等科からの外部生で、成績は常にトップ3圏内に入ってるとっても優秀な方なんですって。バスケが得意なのよ」
「黙ってると少し怖そうだったけど、笑うと可愛かったわ」
「わかるわ~、その気持ち!」
なんということだ!
いつの間にかライバルが増えている!しかも私より先輩の情報に詳しい子までいる!
私がやったことと言えば、体育祭の後始末で生徒会室に行った時、またもやピヴォワーヌのサロンからもらってきたお菓子を貢いだくらいだ。
お礼を言う先輩の笑顔に胸をときめかせ、また何かもってこようと決意した私は、将来変な男に騙されて身銭をすべて貢いでしまう女になりそうで、不安だ。
体育祭での秋澤君女装写真を渡す為、久しぶりに桜ちゃんと会った。
なんと今日はおしゃれなオープンカフェでお茶を飲みながらのおしゃべりだ。カフェでお茶って、友達っぽくていい!
桜ちゃんとはメールや電話では頻繁に連絡を取っているけど、予定が合わなくてなかなか会えない。
夏休みに一度、桜ちゃんの家にまたお邪魔させてもらったくらいだ。
その時には秋澤君には内緒だと前置きして、先輩の話をしまくった。
「あれからなんの進展もないの?駄目ねぇ。せっかく体育祭で近づけるチャンスがあったのに」
「だって…」
近づくって、実際はなかなか難しいものだよ?
恋愛に厳しい桜ちゃんの説教が続きそうなので、話題を変えた。
「聞こえるように悪口を言うって、よくあることね」
「うん」
私は望田さんの話をしてみた。
あれから気になって望田さんを観察してみたけど、確かに蔓花さん達のグループから的にされていた。
あからさまないじめではないけど、すれ違いざまにボソッとなにかを言われたり、クスクス笑われたり。地味にダメージがくるようなことをされていた。
「私の学校にもあるけど、ああいうのはほとぼりが冷めるのを待つしかないのよねー」
「そっかぁ」
前世の私も、ある日突然無視されたことがあったなぁ。理由を聞いても教えてくれないし。でもしばらくすると、ターゲットが変わって何事もなかったように話しかけられた。
いつの時代も、どこの世界でもあるんだねぇ。
望田さんも可哀想だけど、クラスも違って全く仲良くもない私が助けに入るのも難しいんだよね。
でも今はちょっとチクチクやられてるだけだから、大丈夫かな。
桜ちゃんは私が渡した白雪姫の秋澤君の写真に大受けしていた。
カフェを出た後は、桜ちゃんと雑貨屋さんで可愛い小物を見たりした。
休日に雑貨屋さんめぐりって、友達っぽくていい!
するとその雑貨屋さんの近くに、縁結びの神社があって桜ちゃんが行きたいと言い出した。
私はあまり乗り気ではなかったけど、桜ちゃんがどうしてもおみくじが引きたいと言うのでつきあうことにした。
桜ちゃんは中吉だった。私は充分いい結果だと思ったけど、本人は「微妙ね。匠もいまひとつはっきりしないのよ」と渋い顔をした。
私は先輩の顔を思い浮かべて、おみくじを引いた。来い!末吉以上!
「ひっ!」
引いたおみくじはまさかの凶だった。凶なんて初めて引いた。本当にあるんだ…。
桜ちゃんは横から私のおみくじを覗き込んで、ザッと後ろに退いた。やめて!えんがちょしないで!
待ち人来たらず。失せもの出ずべし。縁談遠い。望みほぼ叶わず。
「え~っと、悪いおみくじって、左手のみで木に結ぶといいって聞いたよ?」
「………本当?」
「う、うん」
私は恐ろしい凶みくじを細く折って、桜ちゃんの言う通り左手のみで結ぼうとした。
しかしこれが思った以上に難しかった。
難しすぎて地面に落ちた。
お祓いをして帰るべきだろうか。




