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 放課後、ピヴォワーヌのサロンに向かおうと歩いていたら、前方に鏑木と円城、そしてその周りを囀る女子達が歩いていた。

 昔ならそういう子達は完全無視だった鏑木が、一応返事をしている。かなり適当だけど。

 本当に成長したねぇ。

 しかしマンガの中では、強引だけど俺様というより意志の強い人って感じだったから、あと3年でどこまであのマンガの皇帝に近づけるのかなぁ。


 ふたりはサロンの前まで来ると、そのまま部屋の中に入って行った。

 サロンはメンバー以外の生徒は基本立ち入り禁止なので、取り巻き女子達が付いていけるのはドアの前までだ。

 彼女達はしばらくドアの前で名残惜しそうにしていたけれど、諦めて元来た廊下を戻ろうとして、後ろを歩いてきた私に気づいた。

 私は彼女達とは親しくないので、そのまま横を通り過ぎてサロンに入ろうとした。


 あ、睨まれた。


 ひとりの女子が、通りすがりに確実に私を睨んだ。

 驚いた。

 自分で言うのもなんだけど、ピヴォワーヌのメンバーである私を、あんなにはっきり睨む女子がいたとは。

 ピヴォワーヌは学院内で特権階級だから、なかなか表だってケンカを売る人間は少ない。せいぜい生徒会の人間くらいだろう。

 前からグループ同士であまり仲が良くなかったけど、とうとう宣戦布告してくる気なのかな。

 うーん。ああいう派手なタイプの子達と仲良くしたいとは全く思わないけど、面倒事は嫌だなぁ。



 サロンでお茶をいただきながら、ボーッとさっきの出来事を考えていたら、愛羅様と優理絵様が私に声をかけてくれた。


「この前のテストは、麗華さん素晴らしい成績だったわね。おめでとう」

「麗華ちゃんは英語教室でも頑張っているみたいだものね」


 うわぁ、お姫様と騎士様そろい踏み。眩しいっ!


「ありがとうございます。でもまぐれなんです」


 愛羅様とはありがたくも仲良くさせていただいているけど、優理絵様とは残念ながら愛羅様ほどは親しくはない。

 それは偏にアイツが常にそばにいるからなんだけど…。

「優理絵」


 げっ!出た。


 案の定、鏑木がすぐに優理絵様の後を追ってやってきた。

 そして円城も。

 憧れの優理絵様とはぜひ親しくさせてもらいたいと思っているけど、いつも鏑木が近くにいるせいで、近づけやしない。

 今も、せっかく優理絵様とお話ししてたのに!


 私が鏑木を苦手としていることを、なんとなく察している愛羅様が私を見て心配そうな顔をした。

 愛羅様に心配かけるなんて、申し訳ない。

 ここは当たり障りのない対応を…


「そうだ、思い出したわ。麗華さん、修学旅行では鹿に襲われて大変だったのよね。あの写真見てびっくりしちゃって。怖かったでしょう?」


 …優理絵様、なぜ今頃その話を思い出しますか。

 貴女の隣にいる万年片思い男が、笑うのを必死で我慢していますが。


「…えぇ、まあ。でも怪我もありませんでしたし、平気ですわ」


 こいつ、いつまで笑ってやがる。

 悔しいっ。一矢報いたい!


「そういえば、この前お友達に聞いたんですけど、皇帝の名前は百合宮でも有名なんですって」


 鏑木がぎょっとした顔をした。

 ケッケッケッ。


「あらぁ。もう火消は無理そうね、雅哉」


 優理絵様がおかしそうに笑った。


「…別に、いい。もう諦めたから」


 鏑木がため息をついた。

 おや?


「俺が自分で言い出したことじゃないし。ナポレオンって呼ばれるより、ごまかしきくからまだましだ…」


 そう言いつつも、うんざりした顔をした。


「そうだよねぇ。街中で、あ、ナポレオンだ!なんて言われたらとんだ生き恥だもんね。でも街中で、皇帝って呼びかけられるのもきついよね。そしたら僕、思わず雅哉から離れて他人のふりしちゃうかも」

「秀介、てめぇ…」


 鏑木に射殺すような目で睨まれても、円城は平気な顔であははと笑った。


「雅哉はいつまで皇帝と呼ばれるかわからないけどさ。吉祥院さんは鹿娘とか呼ばれてないんだから、まだましだよ」


 全然慰めになってないよ。

 っていうか慰める気ないでしょう。目が笑ってるし。

 なんだよ鹿娘って。縦ロールよりつらいよ。そんなあだ名で呼ばれたら、私泣いちゃうよ。


「いつかお前にも、変なあだ名つけてやる」


 鏑木が悔し紛れに言った。

 そんなセリフじゃ全然ダメージ与えられてないよ、鏑木。

 円城、さらに笑ってるじゃんか。

 あぁでも、私も円城の弱みを見つけたい。

 見つけて塩すりこんでやりたい。

 ひとりだけ余裕なんてずるい。

 なにが鹿娘だ。


 そんな思いを沸々と滾らせていると、鏑木と目が合った。

 しばらく私をジッと見た後、鏑木は小さく首を横に振った。

 ん?いまのはなに?

 なんで残念な子を見るような目で私を見てるの?

 言っとくけど、残念レベルでいえば、今のあんたと私はどっこいどっこいだ!



「そういえば、さっきまた沖島(おきしま)先輩と生徒会長が揉めていたわ」

「あら、今度はなに?」

「さあ。あのふたりの揉め事はいつものことだから」


 話題が鹿から離れてくれたのでホッとしたが、それより


「ピヴォワーヌと生徒会はそんなに仲が悪いのですか?」


 沖島先輩とは、現ピヴォワーヌ会長だ。

 その方と生徒会長がよく揉めているとなると、かなり深刻なのかしら。


「ううん、そんなことはないわよ。もちろん仲は良くはないけど。あのふたりは特別。昔から個人的に仲が悪かったから。そんなふたりがピヴォワーヌ会長と生徒会長になっちゃったから、今代はわりと対立することが多いんだけどね。ピヴォワーヌと生徒会の関係は、その時の生徒会が穏健派か強権派かにもよるわね」


 ふぅん。

 中等科の生徒会は今のところはピヴォワーヌと揉めたって話はないから、あまり気にしてなかった。

 今年の高等科の生徒会は好戦的なのか。大変だな。


「でもね、今の生徒会長も学院のために尽力していて悪い方ではないのよ?普通に過ごしていれば別になにも言われることもないわ。私もこの前音楽室で偶然お会いしたけど、ドアを開けて譲ってくださったもの。会長同士が犬猿の仲だからって、私達まで揉めることはないと思うわ」


 それは美しい優理絵様だからではないでしょうか?

 隣で万年片思い男の眉がピクリとしましたよ?


「今の、沖島先輩が聞いたら大変ね」


 んんん?

 もしや、沖島会長は優理絵様が?!

 おぉ、万年片思い男の口が、完全にへの字になった。



 しかし生徒会かぁ。どんな人達なのかな。

 ちょっと気になってきた。


 そして私、なに普通に鏑木と馴染んじゃってんだ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 鏑木と円城たちが素で笑うの麗華さまが絡む時なんだな。
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