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遠足後にはすぐ中間テストだ。
私は死ぬ気で勉強した。
葵ちゃんから、本当の進学校の生徒の勉強量は私の想像以上のものだったと学び、ひたすら勉強しまくった。
夜中にわからない問題が出てきたら、お兄様の部屋に突撃して聞いた。
あまりの必死さに、家族から心配された。
でも“さすが麗華様”の評判を、今更落とせないんだよ~!
詰め込むだけ詰め込んで臨んだ中間テスト。
2日間のテスト期間が終わった瞬間、脳みそから単語や数式がぼろぼろと零れ落ちていく感覚があった。
もうムリ。燃え尽きた……。
そして今日は、そのテスト結果が貼り出される日だった。
順位なんて全然気にしていませんわという体を装いながら、お友達のみなさんと掲示板に向かう。
内心はドキドキだ。
神様、神様、どうか私の努力の成果を!お慈悲をー!
掲示板に張り出された順位表を必死に目で追う。
…………。
あ。あった。
18位 吉祥院麗華
「まあっ!麗華様、凄いわ!」
「18位ですわ!麗華様!」
「おめでとうございます、麗華様!」
18位。
周りの子達が手を叩いて祝福してくれる。
……やった。
やったよ、私!
夢にうなされる程、頑張った甲斐があったよ!
「ありがとう」
思わず安堵の笑みがこぼれる。
でもここで死ぬほど勉強したということは絶対言わない。
ガリ勉のレッテルは遠慮したい。
はぁー、これで“さすが麗華様”の立ち位置はなんとか死守できたようだ。ホッとした。
約200人中18番なら、私にしては相当頑張ったよね。
あー、良かった。
みんながきゃあと歓声をあげた。
「見て!鏑木様と円城様!」
1位 鏑木雅哉
2位 円城秀介
「外部生を押さえての1位2位なんて、さすがだわ!」
「なんでもお出来になるのね~」
…ホントにね~。
女の子達はまたもやうっとりだ。
私と違って必死で勉強していたようには見えなかったのに。元々の出来の差か。
普通は一番最初のテストは、受験戦争を勝ち抜いてきた外部生が上位を独占するというのが常なのに。
いや、もうさすがです。
所詮ハリボテの私とは比ぶべくもない。
3位以下は知らない名前が多いので、外部生が大半を占めてるのかな。
あ、知ってる名前発見。
ふーん…。
きょろきょろと該当人物を探すけど、黒髪の中からは見つけることが出来なかった。
そりゃあ、あいつも銀髪のわけないか。そんな髪色、面接で落とされるわ。
…ま、いっか。
今日は蕗丘さんのおうちにお呼ばれした。
ちゃんとした友達の家に遊びに行くのって初めてかも。嬉しい!
蕗丘さんはお嬢様学校に通うお嬢様なので、お母様チェックも難なくクリアした。
そういう上流意識で娘の友達の選別をするのは、良くないと思うけどね…。
そんなお母様から手土産に持たされたのは、一見さんお断り、完全紹介予約制の洋菓子店のクッキー。 吉祥院家の定番お土産アイテムだ。
蕗丘さんのお母さんにご挨拶した後は、蕗丘さんの部屋に案内された。
「そのソファに座ってくれる?」
「はぁい」
蕗丘さんの部屋は、女の子らしい可愛い部屋だった。
私は、指示された可愛い小花柄のソファに座らせてもらった。
「会うのは久しぶりね。元気でした?」
「元気よ。メールや電話で何度も話してるじゃない」
蕗丘さんはクスクスと笑った。
まだ数ヶ月しか経ってないけど、蕗丘さんも中学生になってなんだか大人っぽくなった気がするなぁ。
「そういえば匠から聞いたわ。テストの成績、とっても良かったんですってね。おめでとう」
「ありがとう。でもまぐれなのよ?」
秋澤君はそんな話まで蕗丘さんにしているのか。
さっき窓から見せてもらったけど、秋澤君の家は蕗丘さんの斜め向かいだった。本当にご近所さんだ。
今日は秋澤君は陸上部の練習でいないらしい。
「蕗丘さん、部活は入りました?」
「筝曲部か吹奏楽部に入ろうかと思ってたんだけど迷い中。吉祥院さんは?」
「私も結局何も入ってないの。特にやりたいこともないし、放課後は結構忙しかったりするし」
「そうなのよねぇ。私もバイオリンの練習があるから」
ふたりでうんうんと頷く。
「でも吉祥院さんは瑞鸞のなんとかって会のメンバーなんでしょ?名前忘れちゃったけど」
「あぁ、ピヴォワーヌ」
「そう、それ。選ばれた人しか入れない特別な会なのよね。私の学校でもよく話題になるわ」
「えっ、なんで?」
「だって瑞鸞でも特に大きな家の人達がメンバーでしょう。うちは女子校だもの。よその優良男子生徒の話には敏感なのよ」
「へーぇ」
瑞鸞の上級生の男子生徒の何人かの名前をあげられたけど、知らない方もいた。凄いな…。
「なかでもやっぱり私達の代では瑞鸞のツートップがダントツで人気」
「あぁ…」
名前を聞かなくてもわかる。
「鏑木家の御曹司は皇帝って呼ばれてるんでしょ。百合宮でも皇帝って呼んでる人達がいるわよ」
「ええっ!もしかしてその名前の由来は…」
「え、確か匠が運動会の後からそう呼ばれ始めたって言ってたけど」
うわぁ、大変。
騎馬戦皇帝の名前が他校にまで知れ渡ってるよ。本人、そのこと知ってるのかな。
なんかちょっと同情してきた…。
「どうしたの?」
「いやぁ。騎馬戦で活躍したから皇帝って、由来としてはどうなのかなって」
「あらそんなの。イケメンだったらなんでも許されるのよ。最初の由来なんて関係ないわ」
「そういうもの?」
「そういうものよ。現に私の学校の子達は皇帝なんて素敵って嬉々として呼んでるわよ」
「ほー」
そういうものか。
確かに私も君ドルを読んでる時、由来なんて考えもせずに「皇帝、かっこいいー!」って言ってたもんな。
「ところで、私の呼び方なんですけど」
「はい?」
「蕗丘さんじゃなく、桜子でいいわよ」
そう言うと、蕗丘さんはぷいっと横を向いた。
おぉ!蕗丘さんがデレた!
「えーっと、じゃあ、桜ちゃんで」
「…わかったわ」
なんか唇が得意げだなぁ、ツンデレ桜ちゃん。
「でも、だったら私も麗華で!」
「そう。じゃあ麗華さん」
えーっ!そこは“ちゃん”には“ちゃん”で返すべきなんじゃないのぉ?!私だって友達には麗華ちゃんって年相応に呼ばれたいんだよ。
私が不満そうにしているのがわかったのか、桜ちゃんはひとつため息をつくと、
「わかったわよ、麗華」
えっ、いきなり“ちゃん”飛び越えて呼び捨て?!
お宅訪問で、急速に桜ちゃんと仲良くなれました。




