表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルファズル戦記  作者: たつみ暁
第二部:神への挑戦者イリス
119/136

第3章:死の黒騎士(8)

 最終的には、会議に参加した全員が、イリスに賛同を示し、その内の幾人かは、出席を放棄した国や部族にも、話を取り成してみるとまで申し出てくれた。

「大役お疲れ様でした、イリス様」

 自室へ戻る途中、クラリスにそう声をかけられると、イリスはようやく脱力し、大きく息をついた。

「正直、疲れた。肩がこった。国家間の話し合いだから迂闊に物は言えないと思うと、物凄く息苦しかった! 母様の気持ちが、少しだけわかった気がする」

 確かにこれは、心身共に並々ならぬ疲労が溜まる。かつて、母の代理として出席して欲しいと頼まれた会議の数々に対し、のらりくらりとかわして逃れていたアガートラムの日々を、イリスは少しだけ後悔した。

「何をおっしゃいますか、十分ご立派でしたよ。グランディア王族として恥ずかしくない態度でした」

「あまり持ち上げるな、照れくさい」

 クラリスの賞賛を苦笑で受け流し、あてがわれた部屋に入ろうとしたその時。

「イーリースーさーまー!!」

 廊下の向こうから歓声をあげて疾走してくる者がいたので、イリスは怪訝そうに振り向く。直後、首っ玉に思い切り抱きつかれて、大きくよろめいた。

「イリス様、ご無事で良かったあ!」

 仮にも王女にこんな大胆な接触をできる知り合いは、思い出せる限り、一人しかいない。

「リディア、そっちこそ無事だったのか」

 目を真ん丸くして顔を覗き込むと、相手の少女――リディア・ユシャナハは、ぱっと笑みを弾けさせ、「はい!」と元気一杯の返事をした。

「イリス様が北方にいらっしゃると聞いて、わたし、もう、早くお会いしたくて! ユウェイン父様に頼み込んで、伝令として出させてもらったんです」

「ユウェイン、騎士団も無事なのか」

「はい!」

 リディアはイリスから腕をほどき、臣下の顔つきに戻ると、はきはきと報告する。

「アガートラムがアースガルズ軍に占領された時、エステル女王様が奴らの気を引きつけてくださり、騎士団と、幾らかの市民は、城下から脱出する事が出来ました。追撃を受けて離れ離れになった者もいますが、大半はカレドニアに辿り着き、今は、アルフォンス様と父の指揮の下、イリス様と合流する為の準備を整えております」

 母や大勢の民の安否はいまだわからぬものの、一部の者の消息や、叔父が助力の手配をしてくれている事を知り、イリスの心は幾分か安らぐ。

「……ですけど」

 しかしそれも、リディアが不穏な報せを告げるまでだった。

 アースガルズは大陸中に兵を放って、イリスとカレドニア軍の合流を阻もうとしているらしい。カレドニア国の郊外では散発的な戦闘が繰り返され、リディアがロックキャニオンに来るまでにも、各地で、駐留軍らしき濃緑の鎧姿を見かけたという。

「わたしは単騎で、しかも魔鳥アルシオンで空を飛んできたから、難はありませんでした。けれど、大軍の移動となると、カレドニアまでの道程は、険しいものになるかもしれません」

 それはイリスも想定していた事だった。このまま南下し、東方アルフヘイムからガルディア半島を迂回すれば、カレドニア軍と合流するまでの時間は相当かかる。かと言って大陸中央を突っ切るとなれば、現在の自軍と北方諸国から遣わされる連合兵だけでは、占領されているグランディアを奪回する戦力には到底足りず、本末転倒である。

 いずれにしろ、アースガルズの仕掛けた戦いをくぐり抜けなければならない事には、変わりが無い。まずは、この北方を、連合軍を率いて無事に脱する事ができるか、それが問題である。

「行くも戻るも、戦闘は避けられないか……」

 イリスの気持ちは底無しの暗い沼に沈む一方だ。顎に手を当て、答えの出てこない思案を巡らせる。すると、それまで横でリディアの報告を聞くばかりだったクラリスが、王女に向き直り、「では」と告げた。

「前途が多難ならば、せめて後顧の憂いを断っておくべきでしょう」

 守役が、騎士ではなく、策士としての笑みを見せる。それで、彼女は自分に連合軍盟主として最初の決断を求めているのだと、イリスも気づく。

 王女がそこに思い至るのを待っていたかのように、クラリスは、目を細めて、低く言い放った。

「叩きますか。アースガルズ皇国本土を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ