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episode.78 最後の最後に勘違い発生

 プレシラはロクマティスへ戻った。


 報告もなしに密かにキャロレシアへ行ったことを、彼女は明かさない。


 ただ、キャロレシアへ行く前と後で、プレシラの心は大きく変化していた。キャロレシアが悪とは思えなくなっていたのだ。キャロレシアは戦うべき相手ではないかもしれない——そんな想いが、彼女の胸には芽生えていた。


 けれども、そんなことを口にするわけにはいかない。


 ロクマティス王は厳しい人だ、たとえ王女であっても余計なことを言えば容赦しない。場合によっては、罰を与えもするかもしれない。プレシラとて馬鹿ではないから、それは理解している。それゆえ、プレシラは、胸に置いている思いを気軽に述べることはできない状態だ。


 だが、そんな状況の中でも、プレシラの心境の変化に気づいている者が存在した。


 エフェクト・ロクマティスである。


 ロクマティス王族の証たるブルーグレーの髪と青く染め上げたような瞳を持つ王子。他者と関わることはあまり好まない性質の持ち主ながら、その瞳は深海を映し出す鏡のようでもある。


「お帰り。姉さん」


 すれ違いざまに、エフェクトは発した。

 勝手な行動を察知されていたのかと思ったプレシラは、半ば無意識のうちに表情を固くする。

 実際には、エフェクトはすべてを知っていたわけではない。ただ、プレシラの行動を少し不自然に感じ、彼は敢えて試したのだ。


「やっぱり。……そうだったんだね」


 エフェクトはほんの僅かに片側の口角を持ち上げる。


「そうだろうと思ったよ」

「……エフェクト、何のつもりなの」


 怪しい笑みを浮かべられたプレシラは、警戒したような顔つきで言葉を返す。

 エフェクトは唇にうっすらと笑みを浮かべたまま。責めるでも声を荒らげるでもなく、動揺しているプレシラをじっと見つめている。


「べつに。何でもない」


 ふっと笑みをこぼしつつ、エフェクトは右手で耳もとの髪を触る。


「そんな話をいきなり持ち出して、取引でもするつもり?」

「まさか。べつにどうでもいいよ……他人の行動なんて。じゃ、ボクはこれで」

「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」


 歩き出そうとしたエフェクトをプレシラは引き留める。

 手首を掴むという物理的な方法で。


「どこまで知っているのかしら」


 プレシラの目つきは険しくなっている。直前までとはまた違った鋭さをはらんだ目で、彼女はエフェクトをじっと見つめていた。しかし、そんな目で見られても、エフェクトは欠片ほども動じない。それどころか、相手の顔色を見て楽しんでいるような雰囲気すらある。


「どこまで? 何の話かな。ボクはただ……お帰りって言っただけだけど」

「えぇそうね。でも、察してはいるのでしょう」

「姉さんの話はよく分からないよ。面倒だから……もう離してもらっていいかな」


 プレシラとエフェクト、二人の自然が重なり合う。


 二人は互いをじっと見つめ続ける。ほんのひと時も目を逸らしはしない。ただ、その絡み合う視線に熱はなかった。二つの視線はまるで敵同士のものであるかのよう。


 今、見えぬ刃を突きつけあっている。


「そんな目で見ないでほしいな。……同じ国の、王子と王女なのに」


 エフェクトは口ではそんなことを言う。しかし、プレシラに対し心を開くような態度を取っているわけではなく、言葉がただの言葉でしかないということは明らかだ。どちらかというと、彼の態度は挑発的なものであり、お世辞にも良い態度とは言えない。


「リスクがある以上、見逃すことはできないわ」


 通りかかる者はいない。プレシラとエフェクトは完璧に二人きりなのである。二人の関わりを邪魔する者は誰もいないが、それは、逆に言えば制止する者もいないということ。考えようによっては、危険な状況とも言える。


「なるほど、ね。そんな大層なことを……やらかしたってことかな」


 エフェクトは粘着質さを感じさせる笑みをこぼす。


「念のため言っておくけれど、ロクマティス王女の位に恥じるようなことはしていないわ」

「誰もそんなことは言っていないよ」

「ならどうしてわざわざ絡んでくるのかしら。絡んでくるのは、疑っているからではないの?」

「ボクはべつに何でもいいけど、王をあまり怒らせない方がいいよ」


 少し俯き、目を伏せて、プレシラは呟く。


「……そうね」


 彼女の心は彼女にしか分かりようのないもの。ただ、その瞳には、どことなく切ないような色が滲んでいた。彼女の瞳は、今、雨降りの空を映し出しているかのようだった。



 プレシラはエフェクトと別れ自室へと向かう。

 その時の彼女の表情は、決して明るくないものだった。

 エフェクトとの先ほどの交流によって生まれたものが、重くのしかかっているのかもしれない。もっとも、その答えを知る者はこの世にはいないのかもしれないが。


「あ! プレシラ王女!」


 プレシラがあと数秒で自室に入るタイミングで、通りかかったムーヴァーが声をかけた。


「あらムーヴァー」

「戻られていたのですね!」


 ムーヴァーは、プレシラの姿を目にした瞬間、急に明るい顔つきになった。喜びの感情を隠すことはせず、彼はプレシラに駆け寄る。


「ご無事で何より……!」


 無意識のうちにプレシラの手を掴んでしまい、ムーヴァーは後から顔を赤くする。

 プレシラは特に何も文句は言わない。


「心配させてしまって悪かったわね」

「い、いえ! 心配するのは当然のことですから!」

「ありがとう」

「そ、そんなっ……は、恥ずかしいです……」


 顔を赤く染めるムーヴァーに対し、プレシラは真剣な顔で述べる。


「ねぇムーヴァー」

「えっ」

「もし私が己の道を行くと決めたら、貴方は共に来てくれる?」


 言葉選びは意味深だが、プレシラの面持ちは真剣そのもの。冗談や気まぐれで述べているとはとても思えないような言い方である。真面目なプレシラが真面目な顔で言うのだから、ふざけての言葉とは捉え難い。


「プレシラ王女……なぜそのようなことを?」


 ムーヴァーは目をぱちぱちさせながらもプレシラを見つめる。


「私はロクマティス王女。それは変わることはないわ。けれど、王女だからといって、上の言いなりになるつもりはない。生き方、進む道は、私が決めるわ」

「な、なんか……急に難しいですね……」

「王女だからこそ、踊らされるだけでいては駄目なのよ」

「そうすね……」

「ムーヴァー。できるなら、私と共に来て」


 それを聞いたムーヴァーはその場で飛び上がる。


「ひぇっ!? ぷ、ぷ、ぷっ……プロポーズッ!?」

次回、登場人物まとめになります。

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