episode.66 本当のこと
レーシアと共に部屋から出た私は、まず、「リトナに会いにいくことにした」ということをカンパニュラに伝えた。カンパニュラはいきなりのことに戸惑いつつも、理解を示してくれた。彼にしては物分かりがいい、なんて言ったら、失礼だろうか。
その後、準備を済ませ、私はレーシアと共にリトナがいる牢へ向かう。
カンパニュラは同行してくれている。でも彼に助けを求めることはできない。なぜって、すぐ近くにはレーシアがいるから。カンパニュラに助けを求めるようなことを言ったら、彼女に何をされるか分からない。安全の保証のないこの状況で迂闊に動けばどんな目に遭うか、それすら想像できないほど愚かではない。
「しかし、また、どうしてこんなことになったんだ」
行きの車の中、カンパニュラは愚痴のようにそんなことを言ってくる。
制限があるだけに、返し方が難しい。
「レーシアさんが……リトナ王女に会いたいと仰ったので」
「そうか。だが、そんなあっさり従って良かったのか?」
カンパニュラの言葉がいやに心に突き刺さる。
彼は何も知らない。だから、すべてを察しての言葉ではないのだと思う。けれども、彼の言葉は、今の私に妙に刺さるもので。段々、彼は何もかもを知っているのではないか、などと思えてきてしまう。
真実を話せたら、どんなに良かっただろう。
それができたなら、どれほど心が楽になっただろう。
「……はい」
もういっそすべてを打ち明けてしまおうか。そんな風に思う瞬間もあった。
本当のことを話せば、カンパニュラならきっと力になってくれる。彼はなんだかんだで良い人だし、仕事ということもあるから、私を見捨てたりはしないはず。
けれど私は本当のことを言えなかった。
レーシアのことが怖かったのか? あるいは別の理由があって?……それすら分からないけれど。
「嘘だな。そうは思っていない顔だ。何か思うところでもあるのか」
「い、いえ。そういうわけでは」
「今日の王女はおかしいぞ。いちいち言うことがいきなり過ぎる」
「……ごめんなさい」
真実を話せないことがこんなにも息苦しいなんて。
そんな思いを募らせながら、リトナ王女がいるところを目指す。
「着いたぞ。目的地だ」
カンパニュラに言われ車から降りると、灰色の建物の前だった。
砦のような建物だ。
一番に降車しているカンパニュラに続き、私も降車する。その数秒後、レーシアも車外へ出た。
「着きましたね、レーシアさん」
「ふふ……そうですね」
レーシアは一応怖くない彼女に戻っている。だがそれは、カンパニュラに真実をばらさないためであって、完全に演技だ。私に対して良い感情を抱いてくれたから、ではない。
「カンパニュラさん、リトナ王女がいる場所は分かりますか?」
「あぁ。そこまで案内しよう」
「ありがとうございます。助かります」
三人揃って歩き出す。
早く目的地に着いてほしい。
前を行っていたカンパニュラが足を止めたのは、一枚の扉の前。
場の雰囲気に似合わない扉だ。銀の縁は薔薇のデザインで、他の部分にはベージュの高級感のある生地が貼られている。しかも、ベージュの部分は少し膨らんでいて、なおさら高級感が漂う。
「ここが小娘の部屋らしい」
リトナ王女はこんな美しい扉の向こうに……。
「ありがとうございます、カンパニュラさん」
「ノックしてから入れと言われている。そこだけは注意しろ」
「分かりました。気をつけます」
私は改めて扉の前に立つ。
胸の内に込み上げてくるのは、ようやくここにたどり着けた、という思い。生きたままここまで来られただけで奇跡だ。
一度だけ深呼吸。
それから扉を軽く叩く。
「……遅いですね」
ノックして待っていると、レーシアがそんなことを言い出した。
まずいかもしれない——と思いかけた、その時。
「はーい! はいはいはーいっ!」
高く大きい声と共に、扉が信じられないくらいの勢いで開いた。
私の位置が悪かったら開いた扉に激突されていたかもしれない……。危なかった……。ここまで来て気絶、なんてことになったら、救いようがないところだった……。
「セルヴィアさん!? えー! どうしてーっ!?」
リトナは私の顔を見るや否や叫んだ。
驚くのも無理はないか。敵国の王女がいきなり訪問してきたら、誰だって驚くに違いない。私が彼女の立場だったとしても、同じように驚いたと思う。
そんなことを考えていた時。
「リトナ!」
レーシアが突如そんなことを叫んだ。
そして、叫ぶのと同時に、リトナを強く抱き締める。
「無事だったのね……!」
「ふぇ? え? え?」
急に抱き締められたリトナは戸惑いを隠せていなかった。何が起きたのか理解できない、というような顔つきのまま、ただ抱き締められ続けている。
ただし、私もリトナと同じ気持ちだ。
「心配したのよ! リトナ!」
「え? いや、ホントに……ちょっと、これって……どういうこと……?」
「私よリトナ!」
「えっ。もしかして、姉様……?」
レーシアがリトナの姉? ……まさか。だが、リトナ自身がそう言っている。とても信じられない。だって、レーシアは、私の護衛兼従者を選ぶ会に参加していた人間なのだ。その人がリトナの姉だなんて、誰が信じる? 誰が理解できる?
「良かった……! リトナ、生きていて……!」
「姉様、どうしてこんなところに」
「怪我はない? あぁ、リトナ……」
これは感動の再会というやつなのだろうか。
「怪我とかないしー。姉様ったら心配しすぎ。ふっつーに大事にされてるからー」
「無事で……本当に、良かった……」
リトナを抱き締めるレーシアは涙を流していた。
彼女がリトナの姉だ何だという話は、正直まだよく分からない。でも、レーシアが本当にリトナを心配していたのなら、会わせることができて良かった。たとえこんな形だとしても。
「何だ? 何が起きている?」
この場において一番戸惑っていたのは、なんだかんだでカンパニュラだった。
「ごめんなさい、説明不足で」
「話が理解できん」
「後から説明します。だからどうか、今は許して下さい」
「はぁ……まったく」




