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episode.62 選考の幕開け

 今日はとても天気が良い。空は晴れわたり明るくて、見上げるだけで元気を貰える気がするような色をしている。漂う雲は真っ白で、言葉にならないくらいすがすがしい気分になる。毎日こんな空なら文句なしなのに、なんて、贅沢なことを少し思ってしまう。


「本日の候補者は五名になります。まもなく一人目の者がやってきます」

「あ……はい。承知しました。ありがとうございます」


 私は今、城内の一室にいる。ここで候補者の選考を行うのだ。既に選ばれた者が、今から一人ずつここへやって来るらしい。その者たちの中から、新しく雇う人を決めなくてはならない。


 ちなみに、選考に参加するのは私一人ではない。


 カンパニュラ、リーツェル、ファンデンベルク——彼らも参加する。


「良さげな方がいれば良いのですが……」


 まだ候補者のいない室内でそんなことを漏らしたのはファンデンベルク。彼は、右肩に乗せた黒い鳥のくちばしを指で触りながら、控えめな溜め息をついている。


「ファンデンベルク! ちゃんと見るんですのよ!」

「……分かっています」

「見定めるんですのよ!」

「はぁ……もう分かりましたから」


 そうこうしているうちに時間が来て、一人目の候補者が入室してくる。

 一人目のその人は少年だった。少年と言っても十代後半くらいにはなっていると思われる。健康そうな肌の色をした、陽に強そうな人物だ。素朴な雰囲気をまとっていて、悪人には見えない。


「ほ、本日はっ……よろ、よろしくお願い致しまっす!」


 悪い印象はない人物だが、いざという時に緊張してしまうタイプのようだ。立ち姿勢も言葉の発し方もかなり固くなっている。


「初めまして。よろしくお願いします」

「あっ……は、はいっ! よろしくお願ふぃ、あっ、す、すみませんっ……!」


 挨拶だけでこの状態。先が心配でしかない。こんなことを言ったら失礼かもしれないが、この少年がまともに話せるようになるとはとても思えない。顔も既に真っ赤にしているし。


「なーんだか、パッとしませんわね」


 突如はっきりと言い放ったのはリーツェル。

 彼女の言葉は何も間違っているものではなかった。が、かなり遠慮がなく、はっきりしすぎている。そのため、言われた本人からすれば傷つくようなものだったに違いない。


「いきなりそれはさすがに酷いな」

「文句があるんですの!?」

「いや、べつに間違ってはいないが」

「他人に酷いと言いつつ自分も暗に酷いことを言うとは、上級テクニックですわ……」


 カンパニュラもリーツェルの意見と同じ意見を持っているようだ。


 事実、この少年はパッとしない。


 善人なのだろうということは見た目からも伝わってくる。いやらしさはないし、汚さも特に感じない。人として見れば、それなりに魅力もある人なのだろう。だが、この少年が頼りになるかどうかとなると、話は別だ。実力は知らないが、頼りになりそうという印象ではない。


「それで、なぜ応募してくださったのですか?」


 取り敢えず質問してみた。

 すると少年は顔面を真っ赤に染めたまま答える。


「じっ、実はですね……実家が、お金に困っていまして……」

「はい」

「そ、それで……! ここで活躍して、家族を楽にしたいとっ……!」


 私は隣の席のカンパニュラと顔を見合わせる。

 深い意味ではないけれど。


「よし。分かった、もういい」


 少し顔を見合わせた直後、カンパニュラが改めて口を開いた。


「これで終わりにしよう」


 カンパニュラは真剣な顔をしている。そして、その瞳は少年をじっと捉えていた。硬く冷たい金属のような視線を向けられ、少年はますます硬直してしまう。


「えっ……?」


 少年は手の先端を震わせながらカンパニュラを見る。ただし、直視はできていない。方向を少しずらすようにしながらの、やや情けない見方になってしまっている。


「もう帰ってもらって結構、ということだ」

「そ、そんなっ!」

「言葉は必要ない。少し見つめられただけで圧倒されるようでは駄目だ。向いていない」


 カンパニュラの発言が少年の心を突き刺していく。


「ですけどっ……その、話を聞いていただきたく……」

「向き不向きは見れば分かる」


 今のカンパニュラに躊躇などというものは欠片ほども存在しなかった。

 彼は隣の席のリーツェルの肩をぽんと叩く。


「この娘の方がいくらかよく睨むぞ」


 突如話に巻き込まれたリーツェルは、驚いたような顔をしてカンパニュラを見ていた。


「他人を護るためには、それなりの度胸が要る」


 カンパニュラは真剣な顔つきのまま淡々と述べていた。

 どうやら彼は全力で少年の心を折りにいっているらしい。でなければ、考えをここまではっきり押し付ける必要なんてないはずだ。もう少し柔らかいもので包んだような言い方をすることだって、不可能ではないはずである。


「この娘でも迫力が足りないくらいだ。我々は、そのくらいの力強さを欲している」

「何なんですの!?」

「度胸が不足している。もう帰ってもらって構わない」


 こうして、一人目の少年は不合格となった。


 少年に続いてやって来た二人目も、一人目と似たような雰囲気を持つ素朴な少年であった。一人目よりかはしっかりした話し方をできていたが、どうしても平凡の域を出ない。


 その人物もさらりと不合格になった。


 次に入室してきた候補者三人目は四十代くらいの女性。ハキハキした喋り方が特徴的な人だった。彼女はこれまでの二人より頼もしそうに思えた。しかも、武術に長けているという。


 けれども、彼女もまた不合格で終わった。


 その原因は、女性の鳥嫌いにあった。会話中のある発言から女性が鳥を苦手としていることを察したファンデンベルクが、即座に不合格と決めたのだ。一度決まった彼の心を変えられる者など、ここには一人もいなくて。判定が覆ることはなかった。

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