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episode.61 珍しく

 険悪な空気は一向に消えてくれそうにない。いつまでも、どこまでも、息苦しい時間は続いていく。いつになればこの険悪な時間に終わりが来るのか。いろんな意味で不安しかない。


 カンパニュラとリーツェルの睨み合いは続く。


「何ですの? その目つきは」


 リーツェルは腕組みしながらカンパニュラに鋭い視線を向ける。


「睨んできているのはそちらだろう。私は無害だ」


 カンパニュラは落ち着いている。リーツェルに何を言われようと気にしない、というような表情を保ち、冷静さを欠いてはいない。睨んでくるリーツェルに対し多少睨み返してはいるが、暴力行為に走るつもりはなさそうだ。


「小さいことでいちいち騒ぐな。耳が疲れる」


 鳥と戯れていたファンデンベルクは、その頃になってようやく、私たちがいる方へと視線を向けてきた。彼は隠れていない一つの瞳でこちらをじっと見つめている。何を考えているのか相手に悟らせないような目つきだが、彼がこちらを見ていることは確かだ。


「何ですの、その言い方……!」


 リーツェルの声は震えている。


 止めるべきなのだろうか。……でも、止めるとしたらどちらを? リーツェルを止めるのか、カンパニュラに引き下がらせるのか、どちらが良いのだろう。あるいは両方に同時に制止の言葉をかける? この悪い流れを断ち切るためには私が言葉で制止するのが早いのだろうけれど、簡単な話ではない。


「王子を護れなかったことを後悔しているのだろう。なら、なぜ強くなろうとしない」

「は? ……何ですのいきなり」

「こんなことを繰り返していては、また失うことになる。それは確かなことだ。幸運が続けば良いが、それも簡単なことではないからな。失いたくないのなら、現状を改善する必要がある」


 カンパニュラは淡々とした調子でそんなことを述べた。

 その内容は大きく間違ってはいないと感じる。そして、そう思っているのは、私一人ではなかったようだ。リーツェルも私と同じように、多少納得しているようであった。


「それは間違いとは言いませんわ。でも……わたくしには戦闘の才はありませんわ」


 リーツェルは少しばかり大人しくなっている。


「小娘には期待していない」

「はぁ!? 何ですの、その言い方は!?」


 大人しいリーツェルはあまり長続きしなかった。


「別に誰かを雇えばいい」

「や、雇うんですの……?」


 一度は騒がしいリーツェルに戻りかけていたが、またしても大人しめのリーツェルになった。カンパニュラの話を少しは聞こうと思えたのかもしれない。


「そういうことだ。彼女は女王なのだから、もう一人くらい加えても問題ないだろう」


 おぉ、珍しくまともなやり取りになっている……!


 カンパニュラとリーツェルがまともに話せているのは珍しい。なんせ、いつもリーツェルが攻撃するから。二人のまともな会話なんて、百年に一度くらいしか聞けないかもしれない。


「で、でも、大所帯になりますわよ。段々動きづらくなりますわ」

「使い分ければいい」

「そんな感じで良いんですの……?」


 リーツェルは眉をひそめて訝しむような顔をする。

 恐らく、カンパニュラの発言の内容が理解しきれなかったのだろう。


「そういうことだ、王女。どうする?」

「え」


 いきなりこちらに話を振られたので戸惑わずにはいられなかった。


「まさか、聞いていなかったのか?」


 カンパニュラは、じっとりとした視線をこちらへ向けながら、低めのねっとりとした声でそんなことを言う。


「いえ! そんなはずがないでしょう、聞いていました!」


 私が慌てて返すと、彼は片側の口角を僅かに持ち上げた。


「冗談だ」


 いやいや冗談て。思わずそんなことを言いたくなってしまう。カンパニュラのような厳つい面持ちの人が唐突に冗談を言っても、冗談には聞こえない。何の迷いもなく、言葉そのものの意味であるように捉えてしまう。それに、本人から冗談だと言われたとしても、とてもそうは思えない。あぁそうなんだ、とはならない。


「……本気で仰っているのですか?」

「何だ、その顔は。まぁ……知っている。私は冗談が下手だ」


 でしょうね。

 冗談なんて言いそうには見えないもの。


「もういい。今のことはもう忘れてくれ」

「はい」

「で、誰かを新しく雇う話だが」

「そうでしたね」


 ファンデンベルクは相変わらず鳥と戯れている。彼は一体何をしているのか。自由にもほどがある。もっとも、そういう部分も嫌いではないのだけれど。


「どうする。なんなら私が誰か探してきてもいいが」

「……探せそうですか?」

「いや、まだ分からん。それは、実際に探してみて初めて分かることだ」


 何げに大雑把。行動してから考えるタイプか。


「募集、してみましょうか」

「その気になったのか?」

「はい。今でも不自由はしていませんけれど……カンパニュラさんに負担をかけ過ぎるのも良くないと思うので」


 カンパニュラは強いしそこそこ有能だが、それでも、若さが炸裂しているような年代ではない。無理はしない方が良いだろう。それに、彼一人にすべてを任せるというのは、多少罪悪感がある。


「年寄り扱いか」

「まさか。私、そんなことは言っていません。ただ、貴方にすべてを押し付けるのは良くないと考えただけです」



 その後、新しい従者兼護衛を見つけるため、募集を出すことになった。


 いきなりそんな募集を出しても応募があるのだろうか? と若干不安に思っていたのだが、意外にも応募はあったらしい。応募の理由に多いのが「安定した給料を得られるから」というものだというから少々虚しいけれど、でも、それも一つの考え方なのだろう。穏やかな生活には、安定した給料を得ることも欠かせないのかもしれない。


 そうして集まった大量の応募から、一段階目の選考が行われる。


 その時点では私はまだ無関係。というのも、応募者が多過ぎて、私が選考に参加できるような状態ではないのである。そのため、まずは誰かが選考を行ってくれるのだ。


 やがて、選考を勝ち抜いてきた者が集まる日がやって来る。


 その日が私の参加する選考の初日だ。

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