episode.57 キャロレシアの王女
鍵をかけられてしまっているため、私たちには外に出るすべがない。
命の危機からは何とか逃れたのに、またしても問題が発生してしまった。早速苦難の連続だ。
「鍵のこと、忘れていましたわ……」
「まずそこからなのよね。でもあまり猶予はないわ。鳥を助けるためにも、早く何とかしないと」
何をどうすれば早くここから出られるのか。作戦を考えなくてはならないのだが、私の脳には無理だ。そもそも、私は賢くないし策士でもない。作戦を考えることに長けてはいない。
どうやって倉庫から出るか考えようとしつつ途方に暮れていた時、突然倉庫の入り口の扉が開いた。外の光が入ってきて、倉庫内が一気に明るくなったように感じる。
「女王陛下! いらっしゃいますか!?」
聞こえてきたのは、さらりとした少年のような声。
入り口の方へ視線を向けると、十代終わりくらいの年齢と思われる人物がこちらに向かって歩いてきていた。
「はい。います」
取り敢えず簡単に返事をしておく。生きていることを示すために。
「良かった! ご無事で何より!」
あまり知らない人だが、防具をつけているので警備系の者かもしれない。取り敢えず、私たちに対して敵意を抱いてはなさそうだ。
「襲われましたけど」
「え! そうだったんですか!」
「はい。あの……医務室へ行きたいです」
「承知しました! 同行します!」
一時はどうなることかと不安にもなったが、今回も無事に生き延びることができた。それは多分、とても幸運なことだったのだろう。もっとも、鳥は心配だが。
その後、医務室へ行き、私とファンデンベルクは手当てを受けた。
私は右腕を少し斬られただけなので、すぐに処置が終わった。だが、ファンデンベルクは数カ所に傷を負っていたため、処置に時間がかかっていた。
ファンデンベルクの鳥はというと、医務室では対応できないと言われ、別の場所へと搬送された。鳥に詳しい医師がいるところへと運ばれたみたいだ。
手当てを受けた後、私たちは一旦王の間へと戻る。
ファンデンベルクはあれからずっと心ここにあらず。一応それなりに動いてはいるのだが、常にぼんやりしている。
「ねぇリーツェル。彼……大丈夫なのかしら」
「わけが分からないですわね」
思えば、ファンデンベルクはよく鳥と語らっていた。少し時間に余裕がある時には、大抵、鳥を可愛がっていたように思う。彼はあの黒い鳥をよほど可愛がっていたのだろう。
「ちょっと叱ってきますわ!」
そう言ってファンデンベルクに接近していこうとするリーツェルの手を掴む。
「待って、リーツェル」
彼は多分弱っているのだ、何より大切な鳥と離れることになってしまったから。そんな彼に追い打ちをかけるようなことはしたくない。だから私はリーツェルを止めた。
「え?」
リーツェルは振り返り、きょとんとした顔を向けてくる。
「今はそっとしておいた方が良いかもしれないわ」
「……でも、あの態度は駄目ですわ」
「疲れているのよ、きっと。仕方ないわ。色々あったんだもの」
私だって疲れている。ただ鉱物を見に行っただけなのに、あんなことになったから。襲われ、負傷し、疲れないはずがない。ファンデンベルクの場合は、それらに加えて鳥の怪我のこともあったのだ。私よりももっと疲れていることだろう。
「今はそっとしておきましょう?」
「セルヴィア様……。でも、あの状態で放っておくわけには……」
「いいのよ。そっとしておきましょう」
「そう……ですわね。セルヴィア様がそう仰るのなら」
しばらくそっとしておいた方が良いかもしれないとは思うけれど、放置しておくのも心なしか心配だ。
こういう時、どう接すれば良いものなのだろう?
誰かに聞いてみたいが、聞けそうな人は私の周囲にはいないし……。
「しかし、成果がほとんどなかったのは残念だったわね……」
「どういう話ですの?」
「鉱物のことよ。箱は見られたけれど、本体を見ることはできなかったわ。結局、ね」
思いきって行動したわりには成果がなかった。その点は、少し心が痛い。つい、何度も、もう少し何かできたのではないかと考えてしまう。
「それは仕方がないことですわ。あんなことになったら」
「……ありがとう、リーツェル」
「まさか! お礼を言われるようなことはしていませんわ!」
「いいえ。私、リーツェルが傍にいてくれて嬉しいの」
◆
白ブラウスと紺のロングスカートを着用したプレシラは、一人の男性と顔を合わせていた。
男性との関係は何ら特別なものではない。もちろん深いものでもない。というのも、二人が顔を合わせている理由は真面目な用事があるからなのである。
「それで、送り込んだ刺客は仕留められたのですね。とても……申し訳ないことをしてしまいました」
そんな風に言葉を発するのはプレシラ。
「いいや。貴女は何も悪くない。やつがしくじっただけで」
プレシラと向かい合う男性は濃厚な知り合いではなかった。が、赤の他人というわけでもなかった。これまでも顔を合わせることは時折あったのだ。男性がロクマティス王の側近だから、である。
「それでも、罪悪感はあります。人が一人死んだのですから……」
プレシラは両手を体の前側で重ねた。
その瞳には、悲しげな色が滲んでいる。
「護衛が減っているにもかかわらず暗殺一つもできないとは、正直、やつの能力が低かったとしか言い様がない」
「……そう、ですか」
辺りに漂うのは、ただ言葉を発することすら難しいような空気。
「しかし、多少の成果はありました」
漂う空気を変えようと考えてか、男性はそんなことを話し出す。
「そうなのですか?」
ハッとしたようにプレシラは男性の顔を見る。
「キャロレシアの王女の能力について、判明したことがある」
「……能力?」
「手に宿る不気味な力があるらしく」
「待って下さい。意味が分かりません。手に宿る力……とは……?」
男性はすぐには答えない。唇を閉ざし、一旦会話の流れを止める。プレシラは怪訝な顔をしながら男性をじっと見つめる。
「触れたものの脳に影響を与える能力だとか」
「それは……どういうことですか」
「つまり、キャロレシアの王女は特別な力を持っているということで」




