episode.53 倉庫へ行こう
ファンデンベルクが戻ってきたのは、翌朝のことだった。
昨夜は彼のことが心配で、色々考えてしまって、なかなか眠れなかった。もし彼が命を落としてしまっていたら、と考えて不安になって、ベッドに入っても落ち着かなかった。
でも、すべては杞憂で。
ファンデンベルクは健康だった。命を落とすどころか、怪我すらしていない。
「戻りが遅くなってしまい、失礼しました」
「いえ、いいの。無事ならそれでいいの。……良かった」
朝一番に彼の顔を見ることができて、私は安堵している。
昨夜心配だったからこそ安堵感も強いというものだ。
「ちょっとファンデンベルク! セルヴィア様に心配させるんじゃないですわよ!」
ファンデンベルクの顔を見るや否や、リーツェルは彼に絡んでいく。それも、とても攻撃的に。
「セルヴィア様に謝れですわ!」
リーツェルは、両手をそれぞれ腰にあてがいながら、刺々しい調子で言葉を放つ。まったくもって遠慮がない。遠慮の『え』の字すらない。
「分かっています。リーツェルは黙って下さい」
「はぁー? 何ですの! その態度は!」
「落ち着いて下さい。敢えて喧嘩する気はありません」
「ちょっと!」
リーツェルは迷いなく挑んでゆく。けれどもファンデンベルクは競っていかない。リーツェルに何を言われようとも、ファンデンベルクは冷静なままだ。
「王女。少しだけではありますが、鉱物に関する情報を集めることができました」
「本当に……!」
「例の鉱物は、倉庫に入っているようです」
「倉庫?」
「はい。しかしただの倉庫ではありません。警備付きの倉庫です」
警備付きの倉庫というのはあまり聞いたことがない。でも、大事な物を入れておく倉庫であるならば、警備が付属していてもおかしな話ではないのだろう。
「行ってみたいわね」
「セルヴィア様!? 一体何を!?」
私としては深い意味があって言ったわけではないのだが、リーツェルは物凄く驚いていた。
「鉱物を見に行ってみたい、という話よ」
「ですからセルヴィア様! 急にもほどがありますのよ!」
「では行ってみましょうか」
「ファンデンベルク! アンタも止めるべきですわ!」
リーツェルは鉱物を見に行くことに反対なのだろうか?
だとしたら、少し寂しい。
リーツェルとて、私のことが嫌いというわけではないはず。きっと、私のことを心配してくれているのだろう。それは理解できる。変に動いて危険な目に遭うことを避けさせようとしてくれていることは分かっているのだ。でも、それでも、すぐに反対されるのは悲しい気もする。
「行きましょうか、王女」
ファンデンベルクは淡々とした調子で言ってきた。
「……構わないの?」
「はい。貴女なら入れてもらえないということはないでしょう」
それはそうかもしれない。ある程度身分があるから。さすがに、頼みを強く断られるということはないはずだ。無論、何かしらの力が働いているとしたら話は別だけれど。
「同行してもらえる? ファンデンベルク」
「それは、もちろんです」
「ありがとう。じゃあ準備するから、少しだけ待っていてちょうだい」
「はい」
ファンデンベルクは鳥も連れて行くのだろうか?
ふとそんなことを思ったりした。
向かうのは、例の鉱物が収納されているという話の倉庫。
私はそこへ行ったことがない。が、ファンデンベルクが案内してくれるので、特に何も考えずに歩くことができる。私はただ転ばないように足を進めるだけだ。
ちなみに、倉庫へ行くことに反対したそうだったリーツェルも、しっかり同行してくれている。彼女は多少口うるさい時があるけれど、基本的には優しい——それを改めて実感した。
やがて到着したのは倉庫の前。
倉庫といってもかなり立派な雰囲気のものだ。ただの物入れではない。入り口は鉄製の扉になっており、かなり重そうだ。女性一人で開けるのは無理だろう。しかも、大きな鍵がかかっている。さらに、厚い扉の前には警備の者が二人立っていて、怪しい者が近づいてきていないかを観察している。
「倉庫に入れていただけませんか」
先頭を歩いていたファンデンベルクが警備員に言う。
唐突に声をかけられた警備員は戸惑っているようだった。だが、少ししてファンデンベルクの背後の私に気づいたらしく、ハキハキと述べてくる。
「女王陛下! こちらの倉庫にご用ですか?」
警備員はファンデンベルクに対してはあまり良い顔をしなかった。なのにこちらには自ら挨拶してきた。それも、とても良さげな感じで。その対応の差に、私はただ戸惑うことしかできなかった。
「中に入らせていただけますか?」
取り敢えず返してみる。
「何のご用でしょうか! 念のためお伝え下さい!」
「鉱物の確認をしたいのです」
「例のアレですね! 承知致しました! では扉をお開けしますので、しばらくお待ち下さい」
不思議なのは、なぜこちらの警備員しか喋らないのか、というところ。二人並んでいるのだから、普通、もう一人も話に参加してきそうなものなのだが。もっとも、ただ無口なだけかもしれないけれど。
「やはり王女にお任せする方が話が早いですね」
扉を開けてもらえるのを待っていると、ファンデンベルクがそんなことを言ってきた。
ちなみに、彼の肩には今も黒い鳥が乗っている。
「お待たせしました! どうぞ、女王陛下!」
「ありがとうございます」
妙にハキハキと物を言われることには慣れない。もう少し低めのテンションで喋ってもらえる方が、私としては接しやすいのだが。
取り敢えず、私は足を進める。
倉庫に入っていく。
「貴方は少し待ってくれ。キャロレシア人以外には、ここへ入る資格はない」
私が数歩倉庫内に踏み込んだ時だ、そんな言葉が聞こえてきたのは。
驚いて振り返ると、倉庫へ入ろうとしたのに止められているファンデンベルクの姿が見えた。
「外で待機しておくように」
「困ります」
「黙れ! いいな、ここで待機していろ」
ファンデンベルクの肩にちょこんと乗っている鳥は、翼を大きく広げ、くちばしも豪快に開けている。今にも噛みつきそうだ。とはいえ、可愛い容姿ゆえに怖さはない。
「何を仰るのですか!?」
「も、申し訳ありません……。しかし、この倉庫の決まりなのです」
「彼は信頼できる人です。通して下さい」
「ですが……決まりは決まりですので……」




