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episode.51 どうして?

 医務室を出て、城内警備隊の隊員が待機する部屋へと向かう。


 今回の目的地はあまり馴染みのない場所だ。それゆえ、道順が正しいのかどうか、若干不安になったりする。脳内に存在する僅かな記憶と知識を頼りに目的地を目指すというのは案外難しい。


 だが、何とか無事到着することができた。


 掲げられた銀のプレートに『城内警備隊にご用の方はこちら!』と書かれている受付のようなところで、私は、待機している女性に声をかけてみる。


「すみません。城内警備隊に用があるのですけれど……」

「女王陛下!?」


 対応する案件がなかったらしくテーブルの上の書類を揃える作業を行っていた女性は、話しかけられたことに気づくや否や物凄く驚いていた。


「あっ……も、申し訳ありません……」

「いえ、気にしないで下さい」

「城内警備隊に何かご用でしたでしょうか?」


 思えば、こんなところへ来る機会は今まであまりなかった。こういう表現が相応しいのかは分からないが——とても新鮮だ。


「オレイビアさんという方はこちらにいらっしゃいますか?」


 取り敢えず、尋ねたいことをそのまま尋ねてみた。


「人をお探しなのですか?」

「はい、そうです。もしいらっしゃるようでしたら、会わせて下さい」


 いきなり「会わせて下さい」なんて言って良いのか、そこはよく分からない。けれども、直球で言うことができないなら、ここへ来た目的をどう伝えれば良いのか。それもまた分からないから、直球でいくことにした。


「承知しました。しばらくお待ち下さい。確認して参ります」


 心なしか勇ましい目つきをした受付嬢は、落ち着いた調子でそう言って、受付の奥へ歩いてゆく。

 取り敢えず、受付の前で待つ。


「会えるかしら……」

「セルヴィア様は女王ですもの! きっと会えますわよ。それに、もし駄目と言われたなら、脅せば良いんですのよ!」

「脅しはさすがにまずいわよ……」


 女王の地位にあるからといって何をしても許されるわけではない。


「大人しく待つことにするわ」

「それが良いですわね」


 それからも、私とリーツェルは受付嬢が帰ってくるのを待った。


 受付のテーブルの近くに立っていても、特にすることはない。それゆえ、ただぼんやりしていることしかできない。ふと壁を見ると、壁の高い位置に木製の時計が掛けられていることに気づいた。けれども、それに気づいたからといって何かが変わるわけではない。ただ、何をするでもない時間が流れてゆくのみ。


 退屈さを感じつつ、待つこと数分。

 受付係の女性が戻ってきた。


「お待たせしました。オレイビアという方のところへ案内致します」

「ありがとうございます……!」



 案内されたのは、受付の奥にある部屋。

 私とリーツェルが入室した時、オレイビアは既にそこにいた。


「あ……セルヴィア女王……」


 室内に置かれた革製のソファ。そこに腰掛けていたオレイビアは、私に気づくや否や、物凄く気まずそうな顔をした。

 ちなみに、彼女は一人ではない。

 城内警備隊の隊員と思われる青年一人に見張られている。


「調子はいかがですか、オレイビアさん」


 気まずそうな顔をされると、こちらも気まずさを感じずにはいられない。


「え、えっと……その……平気です。元気……ですよ……?」


 なぜそんな怯えたような顔をするのか。

 私は魔王ではない。


「あの、カンパニュラさんのことで話がありまして」

「……ごめんなさい」


 今からようやく本題に入る、という段階で、既に謝られてしまった。

 先々行動されると、どうしても調子が狂う。

 ただ、謝るということは、カンパニュラを刺したことに多少の罪悪感を抱いてはいるのだろう。何も感じていないのなら私に謝罪したりはしないはずだ。でも、悪かったと思えるような精神状態にあったのなら、なおさら「なぜ刺したのか?」という疑問が膨らむ。


 衝動的にやらかしてしまった、というパターンだろうか……?


「ご迷惑、お掛け……しました……」

「なぜあんなことを?」


 直球で尋ねると、オレイビアは音を立てず俯く。


「もう……耐えられ、なくなって……」

「え?」

「息子が……ティマトが、危険な目に遭っているのでは……ないかと。そう心配することに……もう、疲れて……しまいまして……」


 オレイビアは俯いたまま述べる。

 その時、瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちてきていた。


 これは演技? それとも本気? 責められないようにするためにこんな演じ方をしているのだとしたら、いろんな意味で恐ろしい。けれども、もしこれが本心からの行動であるとしたら、彼女はかなり反省しているのだろう。


「殺すつもりで、やったわけでは……ないのです。そこは……どうか、理解して……下さい」


 もとより、オレイビアがカンパニュラを殺す可能性など考えていない。そんなことは「あり得ない」と言ってもおかしくないくらいのことだ。けれども、刺しただけでもかなりの驚きである。愛する息子を傷つけるなんて、おかしな話。


「でもどうして。もっと他の方法があったのでは」

「男の子に……相談したのです。息子が心配過ぎて……どうしようもない、って……。そうしたら、怪我させれば……取り戻せると……教えて、もらいまして……」


 オレイビアはもう私を見ない。ずっと俯いている。口を動かしている時でも、面を持ち上げることはしない。


「だから刺したのですか!?」

「……そう、です」


 息子を傷つける方法を教えるなんて、おかしいとしか言い様がない。いや、そんな言い方は良くないのかもしれないけれど。でも、自然なこととは捉えられない。大切にしている人を傷つけるよう助言するなんて。


「そこまでして。どうして。言葉で思いを伝えれば良かったではないですか」

「……まともな、思考など……ありはしなかったのです」

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