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328.ダンジョンで昼から黒毛和牛丼を求めるのは間違っているのだろうか? その1

大量の失敗品の残骸の上に出来た完成品は三つの水銀柱気圧計、5の工口麩毛湿度計、4つのアルコール温度計と3つの水銀温度計が出来た。

困ったコトは出来た水銀温度計の幹は毛細管と言うにはかなり太ましい。

その為、膨張変化量が解り難い。

温度変化は判るのだが変化量に乏しい。

コレでは測定精度が出ないであろう両刃の剣。

ガラス工芸は素人にはお勧めできない。


なお、製造法は間違っていないハズだ。

コレはもう、専門家に任せよう。

アルコール温度計は元の膨張率の高さで自信ニキだ。

問題は、目盛りが振れない、融点や沸点が50℃以下の物質で安全な物は無い。

リンとかセシウムなんて論外だ。

やはり人体の温度で計るか…。

この世界の人類はホントに平熱37℃なのだろうか?

取り合えず、人の核心温度と氷水の間で目盛りを振っておいた、その上の目盛りは予測値だ。

精度は悪いのは承知だが、振り分けた目盛りで判読すると。

水に氷を入れ放置したコップ上部は0を示し。

底の温度は概ね4を指した。

気温計としては悪く無いのかも知れない。

現在は18を指している。

温度増加量が比較的良く似ている二個を選ぶ。

木の板に並んで固定し、一個にガーゼを巻きその下に水を入れた小瓶に浸す。

乾湿計の出来上がりだ。

残りは通常温度計として使い、一つは銅の黒球の中に入れる心算だグローブ温度計だな。


今後の課題は膨張率の高い油を探そう。

あと…。腕の良いガラス細工職人。


出来上がった測定器具を収納して…。

未だ、昼前だ。

どうすべきか…。

時間が余った。

選択肢を…。

いや、やるべきコトをやろう、山刃を出し腰に固定する。

暗い赤色のフード付きコートを着る。

皮手袋をはめ、ポーンを使用してダンジョンへ飛ぶ。


あの、埃っぽい安全地帯だ。

作った結界の銅版を壁にセットして動作させる。

動作には問題が無い。

コレでこの部屋の結界はメンテナンスフリーだ。

以前の結界魔法のサークルを撤去する。

さて、どうするか…。

部屋の扉を少し開け外の様子を窺う。

誰も居ない様子だ、坑道に出てみる。

薄暗い坑道の先は見えない。

紫外線メガネを掛ける。

微弱な紫外線を増幅して暗闇の先を見る事が出来る。

足元も判る。

但し、色が付いていない、しかし、壁の表面が光って見える。

悪魔の紋章だ…。

恐らくこの坑道全体に書き込まれているのだろう。

同じ文字列が続いている、隙間が多い。

一つを書き写す。

コレは何等かの…。ダンジョンを維持するための紋章であろう。

解析が必要だ。

先に進むと、例の大部屋だ、塞いだ土塀もそのままだ。

熱は以前より弱くなっている。

「未だ、回収は不可能か…。」

恐らくこの壁の向こうには炭に成ったミノ太が…。魔石が沢山転がっているであろう。

しかし、扉を開けたら新鮮な空気と混ざり爆発するかもしれない…。又は人体に危険なガスが発生しているかもしれない。

『ヴモォォー!ヴモォー!ヴモォォー!ヴ、ヴモォォー!ヴモォォォォォ!!』

突然、土壁の向こうで苦しむミノ太の叫び声。

まだ、やっているのか?ココのダンジョンマスターは放置坊か?

まあ、良い。未だ開ける事の出来ない扉だ。

先に進む。

何者かの息吹が微かに聞こえる。

いた、単独だ。

バットを持ってぼんやり立っている。

未だコチラに気が付いていない。

俺はノーモーションで胸の前に両手のひらを合わせて電位差の魔法を組む。

ミノ太と視線が交差した。

やはり、魔法の発動に鋭敏だ、そのまま肩幅まで合わせた手のひらを広げる、間には眩しいアーク放電でイオン化した大気が集っている。

そのまま2本の魔力チューブを走り出そうとするミノ太に合せる。

放電がミノ太に着弾、三歩目を踏み出す前に全身が痙攣し、糸が切れた人形の様に崩れるミノ太。

未だ死んでいないが痙攣により、呼吸も心臓も止まっている。

助けるには人工呼吸とAEDが必要だろう。

無防備なミノタウロスの背中…。首の頚椎に山刃を突き立てる。

「一丁あがり。なるほど、電撃の魔法なら比較的安全の部類だな。」

一人呟く。

しかし、前衛を巻き込みそうな呪文だ。

敵の数が多いと対応できない、

「奇襲なら…。いや、中距離で敵の数を減らす事が出来るだろう。」

ミノ太を収納して呟く。

外傷も少ない、高く売れる。


先に進むと二股の道があり、下の階層に向かっている。

未だ、下の階層はお楽しみだろう、止めておこう。

別の道を進む、三匹のミノ太が歩いて此方に向かってくる。

前に一匹、後ろに二匹、迎え撃つか?一人では数が多い。

壁窪みに身を隠す。

奇襲で数を減らそう。

出来うる限り動いて相手を翻弄するのだ、一対一の状況に誘い込む。できるのか?

呼吸を整え待つ、計画していた攻撃開始地点の手前で三匹の足が止まる。

バレたのか?息を吸い込み停める。

鼓動が早くなる。

攻撃するか?未だ遠い。

三匹は振り向き元来た道を戻って歩き始めた。

背中が見えなくなり、肺の中の空気を吐く。

三匹が転換した場所まで注意して進む。

無数の足跡がこの場で止まっている。

恐らく、この場で折り返しをしているのは間違いない。

ならば話は簡単だ。

ココで折り返した後、背中を攻撃すれば良い。

ミノ太の探知外まで戻る。

暫く待つと、前に二匹後ろに一匹、戻って来た。

同じ場所で止まるとそのまま振り向き戻っていく。

背中に向かって駆け出す、電位差の魔法を展開して背中を向けた二匹を順番に倒す。


残った一匹が振り向き俺を確認した、二つのケダモノが雄叫びを上げる。

「ウェーーーイw」

「ヴモォォー!」

振り上げたバットを持つ手にイシツブテを投げる。

「ヴモォォォォォ!!」

小石では貫通はしなかったが肉をえぐりバットを取り落とすミノ太。

手首を押さえ苦悶の叫び声を上げる。

右の胸に乳首の下に山刃を刺す。

肋骨の間をうまく抜けたらしい、肉を貫く感触が革手袋越しに伝わる。

そのまま引き抜く。

山刃は抜けた。

刀身の半ばまで血と脂が付いている。

内臓に達した。

切り口からの出血は少ない。

「ヴモ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ!!」

ミノ太の叫び声がこもる。

涎に血が混じり、時期に口から泡の混じった血を吐き出す。

よっし!!肺をやった。

コイツは確実に死ぬ、時間が問題だ。

苦しむミノ太から距離を取る。

血走った目で俺を睨むミノ太。

「どうした?掛って来い。」

立ち上がったミノ太は素手で突進するが、三歩目で力なく倒れた。

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