318.カレーなる日々
食事の時間前にサロンを出て部屋に戻る。
ベスタがテーブルの準備をしている。
未だカレーは到着していない様子だ。
書机に向かい、反省会を行なう。
停止したタイマーゴーレム三つを机に並べる。
やはり、時間の経過はダンジョンの方が早い。
これでは外に出ている間は、モンスターポップの時間が短いコトになる。
週末ダンジョンをやる心算だったが、あっと言う間にモンスタールームが出来上がってしまう。
放課後ダンジョン並みの頻度が必要に成る…。
安全地帯の結界魔法も定期的にメンテナンスしなければ成らない。
鎧の製造より先ずは結界の改良が必要だ。
技術的な問題は無い。
ミソッカス共の装備の面での強化を行なう必要がある。
まあ、どうせ初心者だ。
追々作っていけば良いだろう。
試行錯誤も経験の内だ。
しかし、武器屋の親父か…。
面倒事のようだ。
正直避けたいが目立つと困る。
近日中に出向く必要がある。
最後にエンリケ商隊だ、思ったより早く出発するコトになる。
緊急避難用の移動ポーンの解析が間に合わない。
今までの資料を見比べても解析にはかなりの時間が必要だ。
成功を期待して送り出すしかない。
旅とは本来はそういうモノだ。
別れは今生の別れに成るかも知れない、この世界。
イレーネの抱擁は意味のある物だ。
愛しい人との別れなのだ…。
リスクは有る。
俺もベスタの帰りを祈るしかない。
装備は充分に渡す。
無論、心配事は多々ある、だが、信じるのだ。
ステータスを上げて確率と言う運に任せるストラテジーゲームだ。
丁半ゲームだ、班長が1日外食でグルメレースするくらいの大博打だ。
まるで人生だな。
なんと言うクソゲー。
思案しているとマルカがワゴンにシチュー鍋と皿を載せてやって来た。
「お待たせしました。」
不安毛な顔のマルカ。
「うむ、暖かい内に頂こう。ベスタ用意を。」
「はい。」
「は、はい。」
寮のパンが並び、小皿にサラダと酢漬けのキャベツ。
大皿にルピア色のゲル状物質が並ぶ。
うむ、香りは良い。
ベスタがワインのお湯割を鉄のカップに注ぐ。
準備が整う。
「よし、では頂こう、豊穣の女神に感謝を。」
テーブルに着いたメイドさんズが黙祷する。
「では始めよう。」
「「はい。」」
パンを千切り大皿に浸す。
うん、ちょっとシャバっぽい、しかし帝国式はこんなモノだ。
ルピア色の液体を吸い込んだ炭水化物の海綿質体を口の中に入れる。
うん!何か足りない。
何が足りないのだ?
辛さは有る、味も悪く無い。
しかし、舌触りが粉っぽい、甘い後味だ。その後のパンチも有る。
「申し訳ありません、上手に出来ませんでした。」
まるでこの世の終わりの宣言を行なうマルカ。
なんだろうか?何かが足りない。
辛さが有るのに香ばしさが足りない。
「まあ、悪く無い。恐らく…。麦の粉を炒めるのが足りなかったのだろう。」
「あの…。狐色に成るまで炒めろと在ったのですが…。」
「狐色とは、このパンの裏の様な色だ。」
「あ、白色だと思ってました。」
ソレは、銀狐だ、高級品だぞ?
「何で炒めた?油の話だ。」
「あの、肉の脂身です。」
「そうか…。ラードを取る時は水を少々入れて沸騰させ脂身を少しずつ入れてカスを取ることはしたか?」
「い、いえ。してません。」
「そうか…。焦げるからそうしろ。バターを代用した方が簡単だ。香りも出る。」
「は、はい。」
泣き声になるマルカ。
俺は黙々と食べる。
「御代わりを。」
「はい、」
ベスタがシチュー鍋から大皿によそう。
「うむ、香辛料の使い方は悪く無い。だがエグ味が残る。恐らく…。粉末にした香辛料は炒めているのでは無いのか?」
「あ、そういう記述は有りました…。しかし、軽くで良いと…。」
「大概は焦げると苦くなる。そして火入れが少ないと味が強くなる、味を調節しているのであろう。恐らく時間の管理が重要だな。」
「はい。」
ベスタの皿が進んでない。
マルカもだ、おそらく辛いのだろう。
俺は問題ない、吹き出る汗が目に染みるが問題は無い。
「うむ、何か…。そうだな。果物や、蜂蜜を入れれば味の調整になるのであろう。スパイスを減らすと流石にぼんやりとした物になる。」
「あ、はい、そうですね。」
「御代わりを。」
空に成った大皿を指しだす。
「はい、解りました。」
ベスタが鍋をよそう。
俺は滝の汗だ。
辛いのがボディーブローの様に身体に突き刺さる。
貴族は焦らない。
こんな物どうと言うコトはない。
翔ちゃんのセクシーカレーは李将軍の30倍には負ける。
貴族は、この程度で泣き言を言うわけには行かない。
滴る汗を物ともせずスプーンを口に運ぶ。
ウォン俺は機関車だ。
「そうだな。タマネギ多めに微塵切りにしてあめ色に成るまで炒めてから食材を煮れば、味が落ち着くと思う。」
「そうなのですか?」
「まあな。お替り。」
「は、はい。コレで終わりです。」
「そうか…。マルカ、また作ってくれ。そうだな…。煮汁にホエーを使うという方法も有る。」
「え?はい解りました。」
黙々と大皿と格闘する。
溶鉱炉の様な俺の腹は遂に大皿を征服した。
フフフ、たかがカレー、この俺に掛ればドウと言うコトはない。
次の日、ケツが噴火した。
(´・ω・`)アッー!!




