297.ダンジョンでステーキ丼を求めるのは間違っているのだろうか?
オットー、ダンジョンの前に立つ。
入り口は内側から破壊された木の格子戸の残骸が転がっている。
なかなかの太さの木で作った格子戸だ。
打撃で破壊されている。人の手ではできないだろう。
「オットー様。」
「うむ。」
耳を澄ませば中から風に乗って牛の雄叫びの様なモノが微かに聞こえる。
気のせいかも知れないが…。
うし君大集合だろう。
中は暗くて見えないが…。
人の背丈程の高さは有る。
背の高い者は背を丸める程度だ。
「中に入るのですか?一旦戻って装備を整えた方が良いと思います。」
「そうだな…。」
しかし、まあ、先っちょだけなら。
先っちょだけ。
「未だ日没までに時間がある。入り口付近を捜索して戻ろう。」
「はい…。」
不安そうに答えるベスタ。
皮手袋の感触を整え左右のポケットに鉄球を入れ。
腰の大ナイフの位置を直す。
タイマーゴーレムを胸ポケットに入れる。
洞窟の中は時間の感覚が狂うからな。
収納から改造大ハンマーを出してグリップの感触を確かめる。
鎧が要るな…。
何か作るか…。
「行くぞ。」
「はい。」
ベスタと共にダンジョンの中に入った。
中に入ると入り口から20mが狭いだけで中はサイクロプスでも暴れまわれる様な広さの洞窟だ。
おかしい、到底坑道の構造ではない。
何か…。空気が異質だ。
まるで他人の結界の中に居る様な感覚だ。
ココは人では無い何者かの結界の中なのだ。
恐らくコレがダンジョンと言う物なのだろう。
中は妙に広く感じる。
歩幅で計っているので間違いないハズだ。
警戒して進むと通路の壁に木のドアーが有った。
初ダンジョンの初小部屋だ。
きっと宝箱かミミックが…。
慎重に開ける。
埃っぽい室内には木の机と椅子。書棚。カップが置いてある部屋だった。それ以外は何も無い。
生活の場と言うより、どちらかと言うと事務所だ。
恐らく鉱山の時に使われていた事務所だろう。
「特に何も有りません。」
「その様だな。」
ダンジョンの気配が薄い。
ココは未だダンジョンに呑まれて無いのかもしれない。
結界を張って置く。
結界を維持するために魔力を充填した魔石(中)を置く。
コレで10日間は結界の効力が続く。
ココをダンジョンの橋頭堡にしよう。
ポーンで一瞬にダンジョンへようこそ、だ。
急いで丹田を廻し魔力を保持する。
自動魔力吸収型の結界魔法装置が欲しいな、あと自動迎撃装置。
今まで色々予測して考えたが、現地に来ないと必要なモノは解からない物だ。
トライ&エラーは大事。
安全地帯と化した小部屋(事務所)を出る。
酔っ払いから貰った地図を見る。
ダンジョンの中は薄暗いが足元と手元が見える程度の明るさだ。
文字が読める明るさではない。
光源が有るわけでは無いので不思議だ。
ただ、薄暗いカクテルライトの様に不自然な影が地面と壁に映る。
ダンジョンの壁が光っているのかもしれない。
まあ良い、都合の良いコトだ。
チェレンコフ発光で無いのなら文句は言わない…。
ガイガーミュラー管ってどうやって作るんだったかな?
手元が暗いのは地図が読めないので。
「光よ。」
光源を出して手元を照らす。
壁に映る俺とベスタの影。
「入り口から。そうだな、さっきの部屋はコレだな。縮尺が解からんが…。この先、左手に大部屋があるのか…。その先に分岐。」
「オットー様、この地図は?」
「ああ、昔、鉱山に入っていた者の書いた地図だ。この地図がこの鉱山か?を調べたい。まあ、入ったと言った者も数年の話だから…。」
『『『ヴモォォーーーーー。』』』
「なんだ?」
ダンジョンの奥から何か空気が振動してくる。
暗闇の先を見る。
かすかに光が…。無数の光りになって。足音が…。
「敵です!多い!」
剣を抜くベスタ。
俺も迎撃の為にポケットの球を握る。
無数の光りはミノ太の光る目だった。
「くそっ数が多すぎる!下がれベスタ俺の後ろに!」
ポケットの中の初弾を全て打ちだす。
前の数体が血飛沫を上げて倒れる。
ソレを乗り越えるミノ太。
全員バットを持っている。
有翼弾を収納から取り出しセット。
ATフィールドが自動発動して何かを弾く。
「くっ!遠距離こうげ…。え?」
全てのミノ太が血に濡れて骸を晒している。
いや、数匹未だ死んでいないが。
無くなった手足を押さえて悲鳴を上げている。
戦闘力は無くなっている。
「何が…。」
足元に転がる、歪な鉄球。
ああ、そうか。
「岩に当たって跳弾したのか…。狭い所で質量兵器は危なくて使えないな。」




