291.炭鉱の町3
さて、生徒達は教授に任せ冒険者と俺、ベスタと共に冒険者ギルドにやって来た。
まあ、旅の途中の経過報告だ。
冒険者ギルドは西広場に有った。
初めに潜った南広場より広い。王都に続く街道への出発点らしい。
大店の商店が通りを埋めている。
ソコから路地に入って直の所に有った。
この通りは酒場通りらしい。
午前中で殆どが店を閉めているが開いている店も有るようだ。
「やべぇ、昼間から酒だ。」
「妹よ、未だ任務中だ。」
「そうだ。」
「リーダー。そういえばこの前ムロが夜営中に酒呑んでた。」
「おい、本当か?」
おかしな方向に行く前に言い訳をする。
「すまんな隊長殿。夜風が強い日に身体を暖めるためワインのお湯割りを出した。」
「そうだぞ、依頼主様の振る舞いだぞ?モーサもお菓子とお茶を頂いただろ。」
「そういうことなら…。」
「うむ、夜風は身体に悪いのだ。悪霊を追い払うのにはワインが一番なのだ。」
ココで言う悪霊とは病魔のコトだが。
農家の民族伝承に近い。
身体を冷やすと悪いと言う事だな。
「ギルドの用事が済めば一旦解散、と言うか休暇だ。日没までに宿に戻ってくれ。」
「やべぇ、やった!休暇だ!!」
「あの、宜しいのですか?護衛は?」
「ああ、隊長殿、大丈夫だ。配下の者が居る…。そうだな。すまないが町の情報を収集してくれ。コレは依頼料だ。」
山猫団のリーダー、アジルに金貨4枚を渡す。
「こんなに沢山!」
「やべぇ、大金持ち!」
「そうだ、町の情報だ。武器屋でも雑貨屋でも…。酒場でもだ。一日廻って、この町の噂話を集めてくれ。個人的な依頼だ」
「うむ、責任重大だな。」
「いや、ザーバ、酒飲む気だろ。」
眉を潜めるムロに真面目な顔のザーバ。
「コレは依頼なのだ。」
真面目な顔だが嬉しそうだ。
よし、山猫団は宴会モードに突入した。
引き攣った笑いのリーダー。
団員に呆れているのだろう。
「解かりました、この依頼をお受けします。」
冒険者ギルドに入ると…。
受付はオッサンだらけだった。
顔に刀傷のある者も居る。
良かった。コレこそ、胡散臭いヤツラが集う場所だ。
「クククク」
思わず嬉しくなる。ゲームっぽい。
ギルド職員が手を止め入り口に立つ俺に注目している。
イカンな入り口を塞いだら、他の冒険者に因縁を付けられてしまう。
受付カウンターに進む。
ココで騒ぎを起こしたらギルド長が出て来て力比べのお約束だ。
腕が鳴る。
指の関節を鳴らし、板の間のギルド内に鉄鋲のブーツの音が響く。
おう、今日もぐんくつの音がする。
「冒険者のオットーだ。任務の認定に来た。」
冒険者カード(クラス:なし)をだす。
俺の冒険者カードに書かれたフルネームを見て受付のオッサンが対応する。
「あと、チーム山猫団です。同じく任務の認定です。」
「はい、了解しました。山猫団の方はコチラにどうぞ。オットー様はギルド長が御会いしたいそうです。」
「ほう、そうか…。ククククク」
やはり力比べだ。
ムキムキの初老の引退冒険者か…。ロリババアのようじょ工口フか…。
ゲームでは炭鉱の町のギルド長は出てこなかった。
やっと巡ってきたおやくそくだ。
何が出るのか楽しみだ。
ベスタと共に、応接室、と言うか商談室に案内された。
3m四方の部屋だ。
中央に机と椅子5つ。
会議室にしては狭い。
机や椅子は良いモノを使っている。
入室したドアとは別のドアがノックされ。
日焼けした初老の小男が入ってきた。
歩き方が武術の心得の無い者だ。
口髭が動く。
「オットー・フォン・ハイデッカー様、ようこそ御出で下さいました。私がこの冒険者ギルド長を勤めさせております。グランと申します。」
「始めまして。ハイデッカー家三男のオットーだ。こちらは俺の配下の者だ。」
一礼ダケするベスタ。
「さて、本日はどの様なご用件でしょうか?」
恐らく俺が来るのは知っていたのに尋ねてくる。
なるほど…。商売人か政治家か…。
「先ずは依頼中の任務の認定だ。魔法学園の課外授業の護衛依頼だ。書類を。」
「はい。」
ベスタが収納からギルドの書類を出し、俺に手渡す。
俺の書類も一緒にグランに渡す。
「拝見させていただきます…。初めて見る形式ですが…。」
「そうだな、俺も調べたが課外授業でココまで来た記録は無かった。」
「では、形式どうりに。」
「うむ、お願いする。」
書類に目を通しサインする、グラン。
これでメインの仕事は終わりだ。
用紙を受け取る。
「確かに。ソレで尋ねるが、街道を閉塞していた熊にはどんな報酬が掛っていた?」
「はい、金貨120枚でございます。」
なるほど…。即答した。
コレで代官代理と冒険者ギルドは何らかの形で情報のやり取りを行なっている事は解かった。
「代官代理殿に肉と毛皮を売ってしまったが、名誉は売っていない。聞いているか?」
「はい、その様に聞いております。」
額に汗が滲むギルド長。
「よし、ではその報酬を頂こう。俺の口座に入れて置いてくれ。」
「は、はい!!承りました。」
安堵の表情の小男。
「うむ、急な支払いが今のところ無いので王都で下ろす。」
「はっ。」
さて、コレで、何か代金を吹っ掛けるとギルドの口座から大金を下ろすぞと脅しが出来た。
「では、最近の依頼について話しよう。」
さあ、情報収集だ。




