272.三日目4
若枝が集ったので火の付いた囲炉裏と馬房の暖炉に枝を突っ込み小屋内部に白い煙が充満する。
落とし戸は閉めてあるが隙間から煙が漏れる。
皆、外の軒先で座って待つ。何もすることはないのでパンと梨と干し肉で軽い食事を行なう。
薫煙が終われば総出で小屋の中を掃除だ。
マダマダ休憩できない。
ベスタと娘は馬櫛で馬に付いた水を払っている。
薫煙が終わり小屋の中が温まるとやっと中に入れる。
空気を入替えオシリスキーが結界を張る。
魔力不足で何度も失敗したので一部魔力を供給しながら直径40mの結界に成功した。
全員でウェスを固く絞り床に積った埃と灰をふきあげる。
ベスタと娘は馬房の方で手一杯なので居ない。
ザーバも手伝っているが馬を入れたら草原の草を刈る仕事が残っている。
もう既に恒星が地に着いている。
皆黙々と仕事を…。
「くそっ!何で俺が…。こんな事を…。」
オシリスキーがボヤいている。
「モーガン。軍に入ったら下っ端の内はこんな仕事毎日だぞ?姉さんが言ってた。」
「…。」
ダーク少年の言葉で黙るオシリスキー。
モーガン?軍に入る心算なのか?
室内が拭き終わりウェスが洗い終わると。
皆やっと一息付ける。
防水ポンチョと濡れたブーツを室内に干し。
お湯を沸かしている囲炉裏に皆集る。
身体を温める為だ。
このお湯は女性陣が身体を洗うのに使う。
可笑しな話だが小屋の中にテントが張ってある。
女性陣からの強い要望だ。
なお。テントの乾燥に成るので実用上は問題は無い。
設営したのも女性陣だ。
面白いのはコノ小屋の中は中二階が在り窓とキャットウォークがある。
監視所だ、最上部と他二箇所で全周囲をカバーしている。
光が漏れないように布まで付いている。
今は設営班の手の空いた者が監視警戒している。
シェールとクーリョ、キーファだ。
金髪ショートと赤目白髪、緑のお下げ。
全て女性陣だが…。上からだと丸見えだからな。
お湯が入った桶を使い女性陣が身体を拭く衣擦れの音が聞こえる。
背を向けて無我の心で燃える炎を見据える男達。
何故か外の監視を行なっているハズのクーリョが矢をつがえている。
俺達を監視しているのだ。
緑のお下げの29番が汚物を見る様な目だ。
それに反して楽しそうな顔の10番金髪ショート。
目の前には嬉しそうな顔で鍋をかき回す炊事班班長のソレット。
黒髪ロング布頭巾が囲炉裏の光りに映える。
寝る前に暖かいスープが出来そうだ。
ザーバとベスタ。娘が帰って来た。
「オットー様、馬は馬房に入りました。今のところ異常は在りません。」
「そうか。ご苦労、休憩してくれ。」
「馬ってやること多くて大変ですね。」
「そうね、トリーニア。でも、居ると心強いのよ。」
「うむ、将来馬が欲しいと思っていたから勉強になった。」
「ほう?冒険者殿も馬を?」
「うむ、荷物持ちは豪いのだ、馬が居ると心強い。」
「うーん、馬車が在ると遠征が楽だし。輸送任務も受けられるからなあ。」
リーダーのアジルが呟く。
「やべぇ、兄貴が仕事を換える気だ。」
「そうだな、一生冒険者と言うワケにも行かないからな。」
神妙な顔のムロ。
「うむ、金を溜めて馬か牛を買って故郷に帰るのだ。」
「やべぇ、兄貴?村にかえるのか?」
「妹よ、お前は嫁に行くだろう。」
「やべぇ、あたいの人生決められた。リーダーはどうするの?」
「俺は…。今更、土もいじれない、宮使えも出来ない。コレしか知らない。」
剣を見せるアジル。
「なるほど…。そういう男は知っているが今は武器屋をやっている。素人にソコソコの…。使い捨ての剣を売る店だ。」
「武器屋ですか…。」
「まあ、元冒険者としての経験を売っているのだ。そういう商売もある。意外と気が付かないだけで金儲けの種はソコラ辺に転がっている。続くかどうかは知らないが。」
「う~ん。」
「まあ、世の中をよく見るコトだな。未だ冒険者として食えるのだ。焦らなくても良いが次を考えながら仕事をするのも悪く無い。」
「さあ、できましたよ。暖かいスープを召し上がれ。」
黒髪ロングのソレットがオタマを持って笑顔で答える。
女子が交代して全てが終わるまで後ろを振り向くコトは出来なかった。




