142.ブック
何とか立ち直った俺は。
体を綺麗にして体裁を整える。
クリーンの魔法は偉大だ。
作業場も片付けた。
取り合えず。
あの本を確認する必要がある。
未だ昼までに時間が有る。
取り合えず、イネス教授の…。エロフの魔窟へ向かう。
GUIには一人だけだ。
このダァー☆の向うにエロフが居る。
ゆっくりノックする。
「はい、どなたでしょう?今、手が放せません。どうぞ。」
うん、イネス教授の声だ。
「オットーです入ります。」
ドアを開けると。
イネス教授が床に壷を並べてねるねるしている最中だった。
「あ?ふぇ?オットー様。」
「お忙しい所申し訳有りません。」
姿勢を正すイネス。
ワンピース着て胡坐をかいて、何かを擂り粉木している最中だった。
「あ、いえ。今、儀式の薬を作っています…。」
何故か顔を赤くするエロフ。
それよりフトモモのフラッシュが目の毒だ。
なんでソンナにヤル気マンマンなんだ?
「教授。前借りた辞典が見たいのですが…。」
「申し訳ありません。ソコラ辺に片付けました。」
床を確保する為にさらに積み上げられたダークタワーを指差す魔窟の主人。
やれやれ、探すか…。
しかし、片眼鏡をかざすと一瞬で見つかった。
本と目が合った…。
ダークタワーから引っ張り出した魔物辞典には目と鼻と口があった。
幾つかある目はギョロメで瞳がぐるぐる回っている、口は乱杭歯と歯茎を見せつけ激しく打ち合わせている。
コイツ…。生きているのか?
本は激しく左手親指の指輪に反応している。
嫌がっている様子だ…。
まあ、良いだろう。
指輪の効果は有るのだ…。
本に左手をかざし魔力を通すと。
手中の本が痙攣して動かなくなった。
片眼鏡を通して見ても最早タダの本だ。
サーチすると表紙の皮の装丁の裏に何らかの紋章がある様子だ。
一部を焼き切って動作を停止させるのに成功したらしい。
外見と内部は全く以前と相違は無いが…。
コノ本、表紙の皮は何の皮なんだろう…。
そう考えるとあまり触りたく無いな。
回りを見渡すと羽が生えた本が有った。
亜人辞典だ。翻訳本は普通の本だ。
何故かコイツは魔物辞典とは違う様子だ。
目と鼻は無いが口と鼻の穴はあり静かに呼吸して羽が生えている。
口は閉じたままでまるで眠っている様にも見える。
ホラーにしか見えない。
なんだよこの。ブックちゃん達。
俺、こんなにキモイのインストールしたのか…。
変なアプリ入れるのには気を付けよう。
タダより怖いものは無い。
「コノ本をお借りしたいのですが…。」
「はい、どうぞ。」
「あと…植物図鑑もお借りしたいのですが…。」
「あの、植物図鑑は予備の新しい物が在りますので。差し上げます。」
「よろしいのですか?」
「はい、書いた方を手伝った折何冊か頂いたので…。」
本は結構高い。
貰えるのなら良いが金額を考えると心苦しい。
でもタダなので貰ってしまう。(懲りてない)
GUIに光点が現れ近づいてくる。
ココを目指して居る様子だ。
警戒して待つ。
ドアが優雅にノックされる。
襲撃では無い様子だ。
「はい、どなたですか?」
イネスが声を掛ける。
再度、片眼鏡を装着する。
「私。デービス公爵家に御使えする者で。コノ学園に通うメアリー・デービス様の執事を務めております。ロバートと申します。申し訳ありません。イネス・ペレグリ教授はお見えですか?」
カリアゲ鬼畜メガネだ、何でこんな時に…。
イネスが一瞬コチラを見るが貰った植物図鑑を持ったまま頷く。(もちろん意味は解からない。)
「どうぞ。今、手が離せないので入ってください。」
「失礼します。」
鬼畜でメガネのオニーヤンが入ってくる。
今日も隙の無いカリアゲメガネだ。
コチラを一瞬見たが本から目を放さず軽く会釈を行なう。
「何か御用でしょうか?今、手が放せなくて…。」
一目見たら解かるだろうが床には多くの壷とねるねるしている最中のエルフが居る。
「申し訳ありません。私めは、デービス公爵家の執事を務めております。ロバートと申します。我が主メアリー様より魔物の資料を集める様申し付けられておりまして。イネス教授が希少な魔物図鑑をお持ちだと聞き及び、ぜひお借りしたいと思いお伺いしました。」
「…。」
慇懃無礼にさり気無く頭を下げるMr.R。
何故かイネスが俺の方を見る。
「も、もちろん、ソレ相応のお礼は用意させていただきます。」
珍しく焦るMr.R
仕方がないので口火を切る。
「ああ、すまないMr.R魔物図鑑は俺が今、イネス教授より借り受けている最中だ。」
「そうでしたか…。申し訳ありませんでした。」
少し困った表情のMr.R
片眼鏡を通して見るMr.Rにはドコにも異常はない。
変な所に羽も角も口も触手も無い。
今はタダの人間の様子だ。
「その資料集めは時間が掛るのか?俺はイネス教授から研究用の資料を幾つかお借りしている状態だ。」
「はあ、急げば年度内で終わりますが…。」
表情から読み取るに1年ぐらいは帰って来ないな。
「フムン、まあ良いだろう。そちらに先にやってもらおう。」
死んだ新鮮な魔物図鑑を出す。
「ありがとうございます。オットー・フォン・ハイデッカー様。」
深々とお辞儀する鬼畜メガネ。
「又貸しと言うものは優雅では無い。一応イネス教授に同意を貰ってくれ、返却はイネス教授に頼む。後で俺が借り受ける。」
そうだ、貴族は自他をはっきりしなければならない。共用は存在しない。
「はい、解かりました、その様にいたします。イネス教授、コノ本をしばらくお借りしたいのですがよろしいですか?」
「問題ありません、でも。後が痞えておりますのでお早目にお願いしますね。」
「ありがとうございます。」
コイツ、ホントに悪魔でないのか?
試してみよう。
「あー、Mr.R?ケダモノを追う人間はケダモノに成ると言う。魔物を知ろうとする人も然りだ。キミにお守りを授けよう。」
収納から金の指輪を取り出し親指で弾く。
ソレを片手でキャッチする鬼畜メガネ。
「なんでしょうか?コレは?」
「お守りだ装着してくれ。ある種の精神支配を阻害する。もちろん万能では無い。自分が人間だと思っている内は人間である、その為のお守りだ。」
「希代の魔術師と言う噂のオットー様からの品です、意味の有る物だと思い喜んで拝領します。」
太さ的に左手親指に装着したのを見届ける。
魔法は発動している様子だが変化が無い執事。
「お世辞は止めてくれ。俺は何時でも最悪を考えて行動している。恐らくソレが役に立つ事は無いだろう、そう信じている。」
深々と頭を下げる執事。
コレで確証した、このメガネは只の人間だ。
どうやら俺はMr.Rが踏むハズだった地雷を、ついうっかり踏み抜いて居たようだ。
俺は悪魔の支配下に居たのだ…。
くそっ、なんてゲームだ。




