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Memory93

組織に戻ってきたはいいものの、肝心のシロがどこにいるのかが全く分からない。

まさか“調整”の最中で、今まさに調整部屋で監禁されている状況だったりとかする?

だとしたら早めに手を打っておきたいのだが、俺が“調整”された部屋を見ても、シロの姿は見当たらなかった。


もしかしたら、もっと上の階層かもしれない。


この組織の移動型空中要塞は、7つの層に別れた、縦長の構造になっている。

一番下の『1の階層』では、玄関的な役割と、怪人の製造などの実験が行われている場所らしい。Dr.白川がいるのもこの『1の階層』だ。


次に、『2の階層』。この階層は、俺やシロ、後千夏や愛が滞在する階層だ。最低限生活するための施設と、訓練場のようなものが用意されている。


そして、『3の階層』。正直、『3の階層』以降で何を行っているのかは俺は詳しくは知らない。ただ、この『3の階層』に、ミリューとノーメドという幹部が滞在しているという事実はルサールカから聞いた。


それ以降の階層の詳細は全く情報が出されていないため、何があるのかは定かではない。


今俺がいるのは、『2の階層』だ。当然、俺は一応”調整“済みの存在として組織内部に入ることが許可されている。まあ、多分近いうちに”調整“できていないことには組織側も気づくだろうが、それでいい。


俺の目的が、達成することさえできれば。


「愛、話せる?」


俺の瞳には、少しやつれた様相の灰色の髪を持った、親友の姿が映っている。


「僕って、必要ないのかな」


何故、こんなに落ち込んでいるのかは分からない。でも、俺は愛の親友だ。愛と向き合う。それが今の俺にとって、一番優先すべきことなんだ。


「愛、腹を割って話そう」


「………」


俺の問いかけに、愛は応えようとはしない。それもそうだろう。親友だなんて言ってる割には、俺と愛の心の距離は、俺が『クロ』になる以前よりも、かけ離れてしまっている。


だから、もう一度。

俺と愛の関係を、見直さなきゃいけない。


「愛が俺のこと独占したいってこと聞いた時、驚いた。それくらい、俺のこと想ってくれてたんだって」

「俺は正直、愛の気持ちには応えてあげられないし、そもそも、誰かと恋愛だとか、そんなことも全く考えられない状況なんだ」

「でも、俺は愛のこと、親友だと思ってる。でも、だからと言って元の親友に戻ってくれなんて言わない。それを言われるのは、愛にとっても辛いと思うから」

「だから、愛の腹の中を全部話して欲しい。俺も、何も包み隠さず話すから」

「その上で、これからどうしていくのか、決めたい」


俺の言葉は、愛に届いているのか。全く分からない。

愛にとって、俺の言葉は酷く残酷なものに聞こえるだろう。……聞こえる、ではないか。実際に、俺の言ってることは、残酷なことだ。


俺は今、愛に酷いことをしている。でも、こうでもしなきゃ、俺と愛の関係性は、いつまでも歪んだままで、どんどん修正不可能になっていってしまう。そんな気がした。


一番良いのは、俺が愛の気持ちに応えることだったのかもしれない。

しかし、生憎俺にはそれができない。根本的に、恋愛をするつもりが今の俺には全くないというのも原因の一つとしてあるだろう。


好きでもないのに付き合うのは、それこそ愛との間に心理的な距離ができてしまうような気がしたから。

だから、こうするしかなかった。


「……嫉妬、かな」


愛は、ポツリとそうこぼす。


「僕は、多分、クロのこと………。いや、()が、僕と同じだと思ってたんだ。僕と同じで、友達が少なくて、頼れる人が少なくて。でも、実際は違った。君は、妹のために精一杯なだけで、そのせいで、友人関係が希薄だっただけ。もちろん、親しい友人が僕だけだったという事実は変わらないけど、でも、それでも君には僕以上に大切な、妹という存在、雪ちゃんが、いた」


愛は、昔を懐かしむような、しかしそれでいて、心底悲しそうな、複雑な表情を浮かべながら、話を続ける。


「正直、君にとっての一番が僕じゃないって知って、かなりショックだったよ。僕にとっての一番は、君だったから。雪ちゃんと話すようになってからだ。君のこと、好きなんだって気付いたのは。でも、我慢した。抑え込んだ。雪ちゃん相手に、嫉妬の感情を露わにしたって仕方ない。雪ちゃん自身のことは嫌いじゃないしね。それにこんな想い、君にとって迷惑でしかないと思ってたから」


「でもね、死んで、転生して、改めて君と出会ってみると、君のことを見てる人が、僕以外にたくさんいるってことに気づいたんだ。いや、それだけじゃない。君には、雪ちゃん以外にも、大事な大事な(ユカリ)がいた。ユカリを見た時、正直僕も君の妹に転生したかったって思ったくらいだ。だから、暴走しちゃったんだ。ごめん。迷惑だったよね」


「今思えば、寂しかったんだ。僕は。君のことを好きな気持ちは変わらないけど、でも、ここまで暴走してしまったのは、僕にとっての大事な人が、君しか存在しなかったからだ。僕は、親友でも満足できたはずだったんだ。君が、櫻や他の魔法少女達と関わることさえなければ。でも、身勝手だよね。こんな僕のこと、気にかけてくれてありがとう。僕はおとなしく消えるから、だから……」


愛は、そう言って俺から離れようとする。

いや、話している時から、少しずつ俺から距離を取っていた。多分、合わせる顔がないとでも思ったんだろう。

けど……。


「愛、一緒に行こう」


ここで引き止めなくちゃ、親友じゃないだろ。


「愛の好きとは違うけど、俺も愛のことは好きだし、正直、妹にすら話しにくいことも、愛相手なら話せる。だから、その、近くにいて欲しい」


「そんなこと言われても……僕は、君が僕以外と話しているのを見るのが、耐えられない………」


「わかってる。でも、それは寂しさから来るものなんじゃないかなって思う。だから、愛も、櫻や、シロ達と仲良くなろう。きっと、皆と仲良くなれば、愛が辛い思いをすることは、なくなるだろうから」


「でも……」


「それでも無理だったら! その時は言って欲しい。俺は愛に寄り添うし、一緒にどうすればいいか、考えるから。だから………えーと………」


何か、言わないと。

じゃないと、愛がどこか遠くへ行ってしまう。


嫌だ。このまま、お別れなんて。


「はは……なんだよ………馬鹿らしい」


愛は俯いていて、その表情は見えない。


やっぱり、ダメ、なのだろうか。














「そんな風に迫られたら、断れないじゃないか……」


愛は、顔をあげて俺にそう話しかけてくる。

その顔は、涙に濡れていて。


けれど、悲しそうではなくて。


「愛…」


「わかったよ。もう少しだけ付き合ってやる。なんせ僕は、()()だし」


「愛…!」


「まったく、転生して魔性の女にジョブチェンジでもしたの? 正直僕、君のいいように振り回されてるような気がするんだけど」


うっ………。まあ、確かに、俺のこのやり方は、愛のことを言いくるめているだけなのかもしれない。

でも……。


「ごめん。せっかく再会できたのに、また離れるのは、正直、嫌だったから。それに、何でも話せるのは、俺にとっては愛しかいないから」


「そっか。なら僕も、君にできる限りの()()を示そう。できればそのまま、僕の虜になってくれればありがたいんだけど」


愛は冗談も交えつつ、そう話す。


よかった。愛との関係が、修復できて。


「そういえば、僕といる時は『俺』って言ってるのに、櫻とか、他の皆の前では『私』って言ってるよね? 何で?」


「あーまあ。基本的には『私』で通してたけど、まあ多分、愛の前じゃ気が緩んじゃうから、ついつい前世の癖で『俺』って言っちゃうんだよね」


「ふーん? じゃあ僕だけの特別だ?」


愛は嬉しそうに、口元に手を当てながら、ニヤニヤしている。

よかった。いつもの愛だ。


あーでも、これだけは言っておかないと。


「あーと、一応雪の前でも『俺』って言っちゃってるけどね」


「は? しね。キレた。さようなら、もう二度と会わないで」


「待って待って待って!! 雪だけだから!!! 雪の前だけだから!!!」


「うるさいうるさいうるさい!! 君が思わせぶりな態度を取るから悪いんだ!!! 僕だけだと思ったのに!! 僕だけだと思ったのに!!!」


「雪と愛だけだから!! 愛も雪も同じくらい大切だから!!」


「だまれだまれだまれ!! そうやって何人もたぶらかしてきたんだろ!? 僕は惑わされないからな!!」


この後、めちゃくちゃ説得した。



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