Memory69
真白の登場により、今までニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべながら魔法少女達を蹂躙していた魔族達の表情が、険しいものへと変化する。
「なんだこいつ……ただの魔法少女じゃねぇぞ……」
魔族達も馬鹿ではない。元々魔法少女を襲い始めたのも、魔法少女の成長を恐れたことから始まっている。だからこそ、魔族達は真白に対して、最大限警戒する。
「『水嵐』」
真白は、目の前にいた魔族に、『水嵐』を打ち込む。
強力な水の嵐が、吹き荒れる。
「へへっ、その程度の魔法じゃ、俺は倒せないぜ」
しかし、魔族には対して効いていないようだ。『水嵐』が直撃したにも関わらず、目の前の魔族はピンピンしていた。
「そうだね。その程度の攻撃じゃ、貴方は倒せない。でも残念。もう貴方は戦えないよ」
真白の言葉に、魔族は自身の体の違和感に気づく。
「まさか………」
「そう。貴方が体内で作りだしている魔力そのものを凍結させた。だから貴方は、もう戦えない」
「はっ! くだらねぇ! 知らねぇのか? 魔族ってのは魔力だけじゃなく筋力も人間の数倍はあるんだぜ?」
そう言って真白の目の前の魔族は、自身の腕を自慢げに見せびらかしている。
実際に、魔族は魔法がなくても戦うことができる。そして、数的有利も取っている。
現在は茜や焔達は避難させている。つまり、30対1。
仮に焔や茜達を戦力として数えたとしても、30対5。
加えて、全員の魔力を凍結させ、魔法を使えない状態にしたとしても、魔族達は戦える。
「状況は不利………」
「ああ、そうだ。結局お前ら魔法少女じゃ、魔族には逆立ちしても勝てねぇってわけだ」
「そうだね。確かにこのままなら、私達が貴方達に勝つのは少し厳しいかも。でも、ここに来たのは私だけじゃないから」
瞬間、魔族達の視界に、稲妻のような光が一線。
「悪い、待たせた」
黄色い髪を一纏めにした雷属性使いの魔法少女、朝霧来夏だ。
彼女の登場により、五体の魔族が戦闘不能に陥った。たったこの一瞬で、だ。
「この状況を見ても、まだ貴方達が勝つと言えるの?」
「く、クソ! 何なんだあの金髪のガキは! おい、どうする?」
「わ、わからねぇよ! 俺に聞いてるんじゃねぇ!」
魔族達は、目に見えて狼狽えている。
それもそうだろう。たった一瞬で、自分たちの仲間が5人も一気にやられたのだから。
来夏の登場により、真白達の勝利は確実、かのように思われた。
だが。
「朝霧来夏に、双山真白だな。お前達では相手するのは難しい。ここはオレに任せろ」
青色の髪に、右目に眼帯をしている魔族の男。
「朝霧来夏、だったか? 2年ぶりだなぁ。自己紹介がまだだったか? 俺は『ノースミソロジー連合』のナンバー2でトールの名を冠してる男だ。てことで、お手合わせよろしく」
金髪の、トールと名乗る男。
強敵の登場により、戦況は読めないものへとなっていった。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
「本当に………倒れてる子達放っておいていいのかな………私達だけ逃げちゃって……」
おさげの少女、笑深李は、ぽつりとそう呟く。
仮にも魔法少女であるにも関わらず、逃亡してしまったことに負い目を感じているのだろう。
「ええ、この判断で間違っていないはずよ。実際、私達がいても邪魔になるだけだしね……。真白のことだから、きっと倒れている子達がいない場所にあいつらを誘導して戦うと思うわ」
そう、邪魔になるだけ……。
茜もまた、自身の無力さを嘆いていた。
「へぇー。敵を目の前にして逃亡。魔法少女って、敵わなくても構わずに立ち向かってくる馬鹿ばっかりだと思ってたけど、そうじゃないんだね〜」
そんな彼女達の前に現れたのは、紫色の髪を持ち、真っ黒な服をきた、ヘラヘラとした男。
「誰!?」
「名を名乗るとすれば、ロキ、かな。一応『ノースミソロジー連合』所属の魔族ってことになってるらしいね」
「焔、皆を連れて逃げて、ここは私が!」
「いや、私も戦う!」
「焔、うちらがいても邪魔になるだけかも。茜の言うとおり、逃げた方がいい」
「そ、そうだね」
焔、美希、笑深李の3人は、茜の言葉を受け、ロキを茜に任せて逃げることにした。
「自己犠牲を進んで行うなんて、やっぱり魔法少女ってお馬鹿さんなんだ」
「どうしたの……かかってきなさいよ…!」
茜は勇ましくもロキに立ち向かうが、その額からは汗が垂れており、よく見れば足もガクガクと震えていることがわかる。自分でもわかっているのだ。敵うはずがないと。
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて。おらよ!」
ロそう言い、茜に蹴りを入れる。
「あがっ!!」
10代の少女の体では、ロキの蹴りは相当な痛さだったのだろう。茜は口から血を吐きながら、蹴りを入れられた腹を抱え、うずくまっている。
「なーんだ。つまんないの。あ、そうだ。君は最後にしてあげるよ。馬鹿だけど、俺に立ち向かってきたわけだし。先に逃げた3人組の方を始末しよう、うん、それがいい」
ロキはそう言って、倒れてうずくまっている茜のことを無視し、焔達の方へ向かおうとする。
「まっ………て………」
当然、茜がそれを許すはずもなく。
ロキは茜に足を掴まれ、その動きを妨害される。
「邪魔だ。どけよ」
しかし、弱っている少女の腕では、ロキの歩みを止めることはできない。茜の腕は簡単に振り払われてしまう。
「いかせない………」
それでも尚、茜はロキの足を再び掴み、妨害を続行する。
結局、振り払われてしまうのに。
「意味ないよ、君の行動。それとも何? 死にたいの? いいよ。ちゃんとあとで殺してあげるから、そんなに急かさなくても」
ロキもまた、茜の妨害を無視する。
「いかせないって……言ってるでしょ!」
茜は、地面に倒れ、片方の腕で腹を押さえながらも、もう片方の腕でロキのことを掴んで離さない。
だが。
「付き合ってられないよ。じゃあね」
茜の腕は、あっさりと振り払われ。
ロキが、焔達の元へ向かう。
(まって……ダメ………やめて……そんな………私にもっと、力があれば…………)
茜は、自身の無力を嘆く。
(誰か、誰でもいい………。お願い、力を…………)
「そうか、力が欲しいか。なら、俺の力を貸してやろう!」
そんな茜に、1人の魔族の声が、響き渡る。
茜が上を見上げると、そこには。
「なんだ? お前のことが気に入ったから、俺の力を与えてやるって言ってるんだ。喜ぶところだぞ」
ボーボーと燃えている、人型の炎の塊。
組織の幹部、イフリートの姿があった。
「どう、いう………」
「そのままの意味だ。ずっと探していたんだ、俺のこの力を与えるのに相応しい奴を」
「……よくわからないけど、力を貸してくれるっていうなら……」
「それは、了承と見ていいな?」
「そうよ。あんたの力をちょうだい」
「よかろう」
そう言って、イフリートは自身の体を燃やしながら、茜の元へ一直線に向かってくる。
「え? ちょっと待って!? 燃えちゃう!?」
イフリートは、最終的に茜と重なり、そして。
「ぎゃああああああああ!!! わ、私のツインテールがぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっぁ!」
関節の部分が赤い炎に包まれ、特徴的なツインテール、それを作り上げているゴムの部分から、真っ赤な炎がメラメラと燃えている。スカートのひらひらの部分は炎のような赤い模様が付いており、一目で火属性使いの魔法少女だとわかる見た目へと変化していた。
名付けて……。
『バーニング茜だな』
「ダサい!! どこの芸人の名前よ!! ていうか、あんたどっから声出してるのよ!?」
『今の俺は魔族というより精霊に近い存在でな。お前の一部として活動している。そのため、この声はお前にしか聞こえないから、俺と会話する時は気をつけろ。不審者だと思われるぞ』
「精霊ぃ? 何それ………」
『そんなことはどうでもいい。ほら、さっさとあの魔族の男を追うんだ! はやく暴れるぞ!』
「はぁ。わかったわよ。あんたのおかげで、何だか力が溢れてくるし。多分、今の状態なら、あの魔族にも勝てるかも……」
『当たり前だ!!!』
「うるさい……これからずっとあんたと一緒なわけ…?」
ギャーギャーと騒ぎながらも、茜はロキとの戦闘へ向かう。
文句を言いながらも、ようやく真白達と肩を並べることができることに喜びを隠せない。
そんな茜だった。
茜ちゃんいい子そう




