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177 再会




 そんなこんなでミッション完遂につき、サクサクお暇申し。


 典雅に一礼し、退出しようと立ち上がりかけたとき、


『覚えときや。いつか思い知らせたる』


 蚊の鳴くような微細音で吐きだされる呪詛。

 

 音源のほうを見やれば、そこには屈辱にふるえる鷹司が。



 思い知らせる?

 水戸のジジイにでもチクる気?


 この時代を代表する流行語『尊王攘夷』を創出した徳川斉昭は、尊皇派のカリスマとしていまだにそれなりの影響力を持っている。

 くわえて、ヤツの麾下には攘夷激派というテロリスト集団もいる。


 水戸老公(クソジジイ)に泣きついて、『天誅』で消すつもりか?



 おもしれぇ。

 やれるもんなら、やってみろ。


 今回の拝謁は大目付の監視下でおこなわれた。

 そのうえ俺の発言については、事前に「ご公儀(幕府)のため」という大義名分も得ている。


 ただでさえ水戸は、将軍(サダっち)の押込命令を無視したことで心証悪化は確実だ。

 そのうえ実働部隊を動かしたら、いくら御三家の水戸といえども改易はまぬがれない。


 そういうことなら、最後にもう一発ダメ押しでイヤガラセを……、

 

「やはり、大政奉還しようかのう?」

 

 上座を凝視したまま真顔でつぶやけば、


「ひ、肥後にわが衣を!」


 一之間から投下されるビブラートを帯びた玉音。


 しかたなく再度座り直して待機していると、広蓋に入れられた緋色の衣が運ばれてきた。


 そして、


「仕立て直して、陣羽織にでもいたせ」


 ヤケクソ気味にのたまう御上。

 

 友好的な雰囲気などみじんもなかったのに、なぜかあっちの世界と同様、松平容保()御衣(おんぞ)が下賜された。


 ……解せぬ。



 にしても、陣羽織かぁ。


 いうまでもなく陣羽織とは、鎧や具足の上に羽織るもの。

 甲冑は去年全部売っ払ったので、たぶん一生着る機会はない。

 かといって、普段使いの着物にリメイクするにしても、緋色って……そうだ、御一へのおみやげにしちゃおう!

 

 などと罰当たりなことを考えながら、


「ありがたき幸せ。末代までの家宝といたしまする」


 空気の読めるボクは、ガバッとひれ伏し、若干オーバーめにお礼言上。

 

 鷹司・二條コンビ以外の公家のみなさんは、引きつりつつも口々に祝辞とねぎらいの言葉をかけてくれる。


 いろいろあったけど、終わりよければすべてよし、だね?



 * * * * * *



 拝謁所を辞した俺たちは供と合流して、ふたたび近衛の屋敷に。


 朝着てきた(羽織袴)に着替えるため更衣所に入ると、

 

「薩摩守、金之助さま、本日はお世話になりました」


 アニキが丁寧に頭を下げてきた。 

  

「いえ、犬千代さまがいてくださったおかげで、まことに心強うございました。お礼を申しあげるのはこちらのほうでございます」


 実際、このむちゃくちゃな縁組が調ったのは、アニキの後押しがあったからこそ。

 今日の拝謁では、アニキの貴公子キャラが公家たちに受けると判明した。

 今後、朝廷ともめそうになったら、アニキを帯同すれば交渉もうまくいくんじゃないか?


 ……ってことは、アニキを味方につけておけば、会津が朝敵認定されずにすむかもしれない!

 会津戦争回避に向け、また一歩前進!!



「ところで、犬千代さまはこのあとどうなさるのですか?」


 アニキは筒井といっしょに上洛したが、筒井は俺たちと船で帰ることになっている。

 できれば同じ船に乗せてあげたいけど、幕臣たちだけでもう定員ギリギリなのだ。



「わたくしは大坂の蔵屋敷に立ち寄ってから、中山道を使って江戸にもどるつもりです」


「中山道、ですか?」


 中山道は六十九次。

 東海道より宿場数が十六も多く、距離も四十キロほど長いうえに、険しい山道つづきで、けっして通行しやすい街道ではない。


「なにゆえ中山道で? 東海道のほうが楽ではありませぬか?」


「東海道は川止めになることも多うございますし、なによりあちらは宿代が高いのです」


 恥ずかしそうに打ち明けるアニキ。

 

 たしかに東海道は、箱根・宇津ノ谷峠・鈴鹿峠以外は平たんだが、大井川や安倍川など架橋されていない大型河川があり、ひとたび川止めとなると宿代がかさむ。

 しかも、その宿代も中山道より二割ほど高いようで、上宿だと中山道が百四十八文なのに対し、東海道では二百文もするらしい。


 

 オジキのところは百万石もあってウハウハかと思ってたけど、案外そうでもないのか?


 去年破格のプレゼントをしてくれたから、てっきりお金持ちだと思ってすっかり甘えてたけど……今度から気をつけよう(猛省)。



 思いがけず知ってしまった加賀の窮状に茫然としていると、


「では、どうであろう、われらの代わりに黒船に乗っていただいては? こたびの上洛は公用ゆえ、しかと説明いたせば、筒井殿もお認めくださるはず。船中泊ならば、宿代もかからぬ」


 突如、意味不明な提案をかます義父。


「われら?」


 ってことは、俺も?


「お待ちください! こたびは海路ゆえ、行列を仕立てるほどの供は連れてきておりませぬ!」


 会津(こっち)だって宿代がかかるのは困る!

 それに供だって最低限の人数しか連れてきていないし、大して路銀も持っていない。

 いくら公用は格安料金で旅ができるっていっても、徒歩だと京都から江戸まで半月ちかくかかる。

 来たときは江戸から大坂まで四日だったことを考えると、とんでもないタイムロスだ!  



 テンパる俺の横で、アニキは喜色満面。


「黒船に乗せていただけるのですか?」


「うむ。わしは和船は平気なのじゃが、どうも黒船は……」


 あのゲロゲロの日々を思いだしたのか、憂鬱そうに嘆息するナリさん。


「行きは、海防参与ゆえ船上から視察せねばと必死に耐えたが、帰りは陸路にしたいのじゃ」


 オヤジは人目もはばからず、涙目で訴える。


「わたくしも、以前より一度黒船に乗ってみたいと思っていたのです! ぜひに!」


「……犬千代さま……?」


 あんた、鉄ちゃん(鉄道ヲタク)じゃなかったの?

 動くものなら機関車でも、蒸気船でもなんでもいいのかよ!?


「ならば、代わりに当家の馬をお使いください! 江戸にてお返しくだされば問題ございませぬ!」


 俺とは対照的にテンション上げまくりのアニキは、具体的な交換条件を提示しはじめる。


「それは助かる! よかったのう、容保殿。貴公は駕籠は苦手ゆえ、ちょうどよかったではないか!」


 俺の意向などガン無視で、あれよあれよという間に、どんどん進むバーター交渉。


「わたしは一刻も早く帰府し、公方さまに事のしだいを報告せねばなりませぬ。陸路で帰るのならば、どうぞ義父上おひとりで!」


「なにを申す! 貴公は、この年老いた義父(ちち)を見捨てるつもりか? 薄情者!」


 なにが「年老いた」だ?

 まだ四十七じゃねーか!


「金之助さま! それではあまりに薩摩守がおかわいそうです! ご安心ください、馬は当家が責任をもって数をそろえますゆえ!」


 いやいや、そーゆーことじゃないから!


「筑前殿はおやさしいのう」


「いえ、金之助さまもまことはやさしいのです。幕閣としての使命感から、かようにつれないことをおっしゃられたのでしょうが、けっしてお義父君を置いて行くようなことはなさいますまい」

 

「そうかの~?」


「そうですとも!」


「「では、そういうことで!」」


 気づいたら、勝手に話がまとまっていた。


 バカヤロー!


 いや……将来のために、アニキに恩を売っておくのもアリか?


 



 交渉成立で上機嫌のふたりはさっそく着替えに取りかかり……と、思いきや。


「待っとぉくれやすっ!」


 小御殿に駆けこんでくる近衛閣下。


「肥後はんに会いたいいう御方がお見えや!」


「わたしに?」


 俺も容さんも、京都(ここ)に知り合いなんていないはずだけど?


「どなたですか?」


「なんでもええさかい、早う来とぉくれやす!」


 近衛は、鬼気迫る表情で俺の手を握り、


「申しわけあらへんが、おふたりもごいっしょに! あちらのご希望なんや!」


「「われらも?」」


 首をかしげるふたりは近衛の家来に慇懃無礼に追いたてられて、俺の後ろにつづく。

 

 

 連行されたのは、このまえ近衛と面談したあの大書院。 


 だが、今日は先日とちがい上座に几帳が幾重にも張りめぐらされている。

 

 なんなの、コレ!?


 ちなみに几帳とは、T字形の棒に薄い絹の布がくっついた移動式パーテーション。

 源氏物語絵巻など、平安チックな絵によく出てくるカーテンみたいなアレのことだ。



 ―― 閑話休題 ――



「お待たせいたしました。これなるは……」


 大書院に入った近衛が、その几帳に向かって報告しかけたとき、


「肥後さまーーー!!!」


 右大臣の声をかき消す黄色い雄叫(おたけ)び。


「へ?」


 ビックリ眼で見やった先には……、


「……姉小路、か?」


「はい! 姉小路にございまする!」

 

 几帳前に控えていた女房のひとりが立ち上がり、こちらへ突進してくる。


「ひ、久しいのう。いつこちらへ?」


 袿姿の老女――元大奥上臈御年寄・姉小路――は、なれなれしく俺の腕に引っつく。


「大奥がなくなりましたので、昨年、実家のある京にもどってまいりましたぁ」


 媚びるようなウルウル眼で俺を見上げるが、全然かわいくない。


「そういえば、そなたは京の出であったな」


 姉小路は、家慶(ヨッシー)の正室・楽宮(さざのみや)さんに従って江戸に下り、大奥のドンとなった。  

 大奥解体後は、現役時代の蓄財で悠々自適の生活を送っていると風のウワサで聞いていたが、どうやら親族のいる京にもどっていたらしい。



「そうか、わたしに会いたいというのは、そなたであったか」


「はい、肥後さまが京にいらっしゃるとお聞きして、どうしてもひと目会いとうて」


 大野が都中にまき散らした『イケメン大名参内』情報を耳にしたのか?


「よう訪ねてきてくれた。して、そちらは?」


 目線で几帳方向を示すと、


「帝の妹君、和宮さまにございます」


「…………マジすか」


 衝撃がデカすぎて、容さんのトノサマ語自動変換装置さえ故障し(バグっ)たもよう。


「な、なんで、和宮……さまがここに!?」


 危ねぇ、危ねぇ。あやうく呼び捨てにするところだった。


「宮さまは、久しぶりに甥君の顔が見たいとおおせになられまして」


 アネゴの代わりに、俺を連行してきた近衛が事情説明。


(「久しぶり」言うても、いままで一遍もおいでになったことはありまへんのや)


 困惑顔の近衛が、耳元で気になる裏事情をリーク。


(では、なぜ?)


(さぁ? いきなり訪ねて来られて、肥後守がもどらはったら、かならず案内するようおおせつかりましてな)


(京では、貴人がホイホイ出歩くのはよくあることなのか?)


(まさか! とくに高貴な女子はんは、ほとんど他出などなさいまへん) 


(……さようか)



 いったい、なにが起きているんだ??? 

 




こちらの容さんも無事(?)御衣を拝領することができました ♡

(……かなりシチュエーションに差はありますけど (ノД`)・゜・。)


あとは御宸翰をいただければ完璧っすね !(^^)!





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