149 第一回 奥羽越列藩合同防災訓練 ④
「こたびの演習にて、はからずも大将役をつとめることと相なった内藤因幡守にござる。非才の身ゆえ、行き届かぬ点も多いと存ずるが、なにとぞよしなに」
「「「よしなに!」」」
てなぐあいに、紅軍大将・内藤因幡守による結団式はさっくり終わり、
「……これからどうしたらよいでしょう?」
その大将が困惑顔で聞いてきた。
「そうじゃな、とりあえずはウォーミングアップをおこなってはどうか?」
「う、魚見???」
おっと、ついいつものクセで、英語を使ってしまった。
「いきなりはげしい運動をおこなうと、ケガをしやすいゆえ、事前に体をほぐし、あたためておくのじゃ」
「おお、なるほど」
真剣な面もちでコクコクとうなずき、
「なれば、それは肥後守さまにお願いしてもよろしいか?」
「うむ、大将の下知にしたがおう」
「け、けっして下知などでは!」
真っ青になってあわてる内藤。
「ふっふっふ、よいのじゃ、よいのじゃ。これ! だれぞここへ来て、いつものアレをやってみせい!」
会津藩兵にむかってそう命じれば、CRCメンバー五人がサクサク進み出、おもむろにラジオ体操の模範演技をはじめる。
「さぁ、みなもあれに倣うて、体を動かせ。しっかり曲げ伸ばしするのじゃぞ!」
てな感じで、準備体操も順調に終わり、
「つぎは、ジョギ……かるく走るぞ」
そう言い渡しながら、アキレス腱を伸ばし、足首も念入りに回しておく。
「「「なんと! われら大名に足軽のように走れと!?」
火事装束オヤジたちから湧きおこる大ブーイング。
だが、この反応はCRC発足当時経験ずみなので、いまさらおどろきはしない。
「なにを申す! ひとたび大地震が発生いたせば、往来はガレキによってふさがれ、駕籠はもとより、馬さえ通れぬこともある。さような折、己の足を使わずに、いかにして登城するつもりか!?」
震度計などないこの時代、地震の大きさを測る目安は、街中に設置された天水桶だった。
このピラミッド型に積んである天水桶がくずれるほどの強い地震が起きたら、各大名家はいち早く将軍のもとに伺候し、お見舞い言上をしなければならない。
だから、殿さまだろうが足軽だろうが、非常時にそなえ、多少は走れるように日ごろから訓練しておく必要があるのだが、いまのご時世、そんな殊勝な心がけを持つものは少ない。
「ええい、四の五の言わず、ついてまいれ!」
強引にスタートする俺につづき、会津藩兵も軽快に走りだし、他藩兵もブツクサ言いつつ、あとを追いはじめる。
ザッザッザッザ
駒場野はひらけた原っぱだが、それほど人手が入っているわけでなく、あちこちに林や薮が残るうえ、小川・池、複数の塚まである。
走りはじめてほどなく、
「わ~っ!」
「ギャ~!」
水たまりに足を突っこんだボンヤリくんや、アオダイショウを踏んだウッカリさんから悲鳴があがる。
「「「もうイヤじゃー!」」」
「泣きごとを申すな! ほれ、連続歩調いくぞ!」
「はっ、『かけ足進め』まいります!」
俺の言葉を受け、CRCのひとりが列を抜けて、オヤジたちに説明をはじめる。
「『いち、に』との掛け声に合わせ、全員の足並みをそろえるのです。『いち』で左足を前へ。『に』のときは右が前でございます」
「先導者が『いち』と申しましたら、『そーれ』とお答えください。『そー』のときに左足、『れ』で右を出します」
別のチームメートが身ぶりつきで、補足説明をおこなう。
連続歩調は、高校でほかの部がやっていたのがカッコよかったので、CRCの練習に取り入れてみたのだ。
「では、よいな? いーち!」
「「「そーれ!」」」
「にー!」
「「「そーれ!」」」
「さーん!」
「「「そーれ!」」」
(略)
「はーち」
「「「そーれ!」」」
「いち・に・さん・し・に・に・さん・し!」
ザッザッザッザ
「いくぞ!」
「「「いくぞ!」」」
「われら!」
「「「われら!」」」
「紅軍!」
「「「紅軍!」」」
「絶対!」
「「「絶対!」」」
「勝利!」
「「「勝利!」」」
「いち!」
「「「そーれ!」」」
「にー!」
「「「そーれ!」」」
うん、息もピッタリ!
これならいけるぞ!
今日は紅白ごとにアップしたあと、おざなりに二種目ほど競技をおこない、すぐに物産展に移行する予定なのだ。
その種目は徒競走と綱引きで、徒競走は広原中央部の広場で、二町(約220m)の直線コースを各チーム四人ずつ八人で走る。
もうひとつの種目・綱引きは、各藩重役たちにこのイベントが防災訓練だと印象づけるために選んだ。
ロクな消防機材もないこの時代、火消しがおこなう消火はもっぱら破壊消火――燃えやすい建物などを先に壊しておいて延焼を防ぎ、火勢をよわめて消火する方法。
江戸の建物のほとんどは木と紙でできており、ひとたび火災が起きると、あっという間に燃えひろがってしまう。
そのため、庶民が住む長屋などは、「どーせすぐに燃えちゃうんだから」という考えのもと、金も手間もかけない安普請で柱も細く、ちょろっと縄をかけて引っ張れば、あっさり倒れてしまう。
綱引きはまさにソレを彷彿させるビジュアル。
そこで、消防訓練のひとつだとこじつけたのだ。
とはいえ、綱引きを提案したものの、大勢が引っ張れるような綱がすぐに用意できるのか心配だったのだが、来てみたらちゃんと準備されているではないか!
でも……?
神社にかざられているのと同じ左編みの太縄……?
それに、ところどころなんか白いヒラヒラしたのがついてるけど……この紙きれ、もしや紙垂ってやつじゃ……?
まさか、どこかの神社からパク――い、いや、いくらなんでも、注連縄かっぱらってくるなんて……そんな罰当たりなことやるわけ……(ブルブル)……。




