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148 第一回 奥羽越列藩合同防災訓練 ③

「い、いえ! けっしてみなさまの考えているようなことでは! 父は、肥後守さまを己の敵手と見なし、異様なまでに意識しているのです!」


「「「敵手?」」」


 いや、俺にはビーとかエルの趣味はないから、勝手にライバル認定されても困るんだけど?


「聞くところによりますと、父は十四年ほど前、はじめてあなたさまにお会いした折、ひどい敗北感をおぼえたとかで、その屈辱から、登城のたびごとにずっときを見し、観察をつづけていたそうで……」


「「「敗北感? 屈辱?」」」


「ようわからぬのう。十四年前と申せば、わたしは年端もいかぬ童。まだ御目見おめみえ前ゆえ、左衛門尉と会う機会などなかったはずだが?」


 容パパの友だちなら、屋敷にくることもあったかもしれないが、酒井と親しかったとは聞いていない。


「……胡乱うろんな」


 賢い俺ならともかく、あの残念貴公子のチビ容さんに敗北???


 なにをどうこじらせたら、そうなるんだ?


「なれど、いままでそのような気配はまったくございませんでしたが?」


 容さんのことならすべて掌握している大野がするどく指摘。


「昨年、当家は下向の年にて、父は江戸にはおりませんでした。それに……」


「「「それに?」」」


「……そ、それに、申しあげにくきことながら、一昨年まで侯は、そのぉ……」


「わたしがなにか?」


「つまり、左衛門尉さまは、初御目見から一昨年まで、ずっと殿を観察しておられたが、つねに目にするは残念なお姿ばかり。もはや恐れる必要はないと見切っていた……ということですか?」


 不気味なほほえみとともにくりだされる、般若の神洞察。


「さ、さようにございます。なれど、昨春以降、突如なにかに覚醒したごとく八面六臂はちめんろっぴの活躍で、狼狽した国許の父から、『肥後守の一挙手一投足を逐一報告しろ』との厳命が……」


 ようするに、カタバミ父は、ライバル視していた容さんが突然有能になったと聞いて焦り、その秘密をさぐれと息子にムチャぶりかましたわけか?


 はぁ……バカバカしい。



「摂津!」


 藩士たちをかき分け、その不審者がものすごい勢いで接近してきた。

 カタバミくん似の渋いイケメンだ。


「痴れ者め! あれほどくれぐれも気取られぬよう、うまく立ちまわれと申したに、なにゆえ自ら暴露する!?」


「父上! わたしはもうイヤでございます!」


 オヤジの怒声に、大粒の涙をボロボロ流しはじめるカタバミくん。


「おのれ、父に逆らうか! ならば、今日をもって親子の縁を切る! 廃嫡だ、廃嫡!」


「かまいませぬ! 隠密のごときマネをさせられるくらいなら、山奥の破屋で謹慎するほうがよほどマシでございます! 粘着質の父上に恨まれると、あとあとヒドイ目に遭うと思い、心ならずも斥候をつづけてまいりましたが、もう限界でございます! ええ、廃嫡でもなんでも好きになさるがいい!」


 まさか、こんなところで骨肉の争いに!?

 

 いたたまれない……すごくいたたまれない。

 とくに、その原因が俺だという事実が。


「で、では、学問所に入ったのも?」


 重い空気をかえたくて、話題をずらしてみる。


「は、はい、侯を間近で偵察するよう命じられ……(うぐうぐ)……さようなことをしているせいで、学問にも集中できず、つねに落第スレスレ……(うぐうぐ)……また、後ろめたい気持ちから、肥後守さまに対すると、どうしても意識しすぎて、うまく言葉が……」


 ああ、それでいつもカミカミだったわけね?


「十四年前……もしや、あの三方国替えのときか?」


 となりからボソッとつぶやく声が。


「なんじゃ、心当たりでもあるのか、冬馬?」


「いささか」


「申せ」


「いやでございます」


「主命である、申せ」


「つつしんでお断りいたします」


「なにゆえじゃ?」


「……忘れたい黒歴史にございますれば」


「もうよい。じいに聞く」


「う゛っ」


 なぜか耳まで真っ赤になる般若。



 すると、


「久しいの、大野冬馬」


 あやしい笑みをたたえたオッサンが、大野に近づいていく。


「……よく覚えておいでで」


「無礼者の名は決して忘れぬ」


「…………」


 不快そうに顔をしかめる般若。


「先ほどのイヤミな口の利きよう、山川とかいう年寄に似てきたな」


 オッサンは相手のようすなど一切とんちゃくせず、なおも非友好的な言葉を投げつける。


「む? じいを知っておるのか?」


「忘れはせぬ。あやつもこの者に輪をかけた無礼者ゆえ。あれは息災か?」


「あいにくと、ご息災にございます」


 大野は目を細め、オヤジをねめつける。


 俺なら一瞬でチビるレベルの眼光だが、オッサンはまったく動じない。


「じいともども知己ならば、なにゆえわたしの記憶にないのであろう?」


「あまりにお小さい時分のことですので。また、殿席が離れておりますゆえ、以来お会いすることもなく、思いだすきっかけがなかったからにございましょう」


「ああ、当家の殿席は帝鑑之間ゆえ……父のころは溜詰格であったがなっ!」


 えっ? 

 なんで突然キレてんの? 

 マジでヤバい人なの?


「むかし、山川さまに言われた皮肉をまだ根に持っておいででしたか?」


「当然だ! 生涯忘れぬ!」


「……ほんに粘着質ですな……」


 般若が心底ウンザリしたように嘆息する。


「受けた恥辱はけっして忘れぬ! 当家でも、一昨年、わたしを廃して摂津を藩主にという陳情書を出した家老どもがおってな……かならず報復してくれる!」


 こんなところでいきなりお家騒動のグチをこぼされても……。


「それは難儀な。だがな、いまの話でようわかったぞ」


「なに!?」


「左衛門尉、そこがいけないのじゃ」


「そこ?」


「そのネチネチした性格、粘着質な気質がみなに嫌われる所以ゆえんではないか」


「っ!!!」


 ムンク化するオヤジ。


「わたしを超えようと思うならば、まず、わたしのような愛されキャラを目ざさねばならぬ」


「意味がわからぬ」


「よいか? わたしは家臣はじめみなに愛されておるゆえ、つねに多くのものたちから、助けられ、支えられ、日々つつがなく過ごすことができるのじゃ。

 それどころか、周囲が優秀すぎるあまり、賢侯などと過分な称賛をあびておる。

 ゆえに、そなたがわたしの言動をひそかに観察し、成功の秘訣を探り、実行しよう思うても、そなたにはどだいムリなのじゃ」


「ムリとはなんだ! 無礼な!」


 オッサン、マジ切れ。

 おそらくこれで俺もめでたく『怨リスト』に仲間入りしたもよう。


「その性格を治さぬかぎり、いくらわたしを模倣まねても、永遠に慕われる主君にはなれぬぞ。のう、冬馬?」


「はい、わが殿は粘着質どころか、藩の帰趨にかかわるほどの重大事とて、三歩歩いたらスッポリお忘れになられるまことに大らかな御性質。それゆえ、われら家臣一同、必死で殿を補佐し、お支えしているのでございます」


「くっ、大野め……またもや小ざかしい口をっ!」


 

 あれ?

 一見フォローされたっぽいけど……なんか盛大にディスられたような気が……?

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