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147 第一回 奥羽越列藩合同防災訓練 ②

――と思っていたのに、


「肥後守さま! 本日はお日柄もよく!」


「まこと暑からず寒からず、あつらえたごとき陽気にござるな、肥後守」


「肥後殿、演習のご差配、お骨折りにございました!」


 大将の横でボケーっと突っ立っていたら、幕府要人()目がけて、ド派手な大名火消コスプレのおべっかヤローどもが群がってきた――内藤さんはガン無視で。


 意識改革……前途(そうは問屋が)遼遠(おろさない)



「しかし、今冬、江戸にて巨大地震とは、やけに具体的ですな~」


「まことに起きますかの~」


「こうしてわざわざ訓練をしても、ムダになるのでは~」


 コスプレおやじたちは内藤をシカトしたまま、くっちゃべりつづける。


「なにを申す! これは、武甕槌神タケミカズチノカミよりのお告げじゃ! 『天災は忘れたころにやってくる』のじゃ!」


 タケさんは、常陸一宮・鹿嶋大神宮の主神で、雷神・武神・軍神としてあがめられている一方、地震を引き起こす大ナマズを押さえる神さまとしても有名なお方だ。


「「「お告げ!?」」」


「うむ。『とくに神無月は手薄になるから、あとヨロ~』と言づかっておるでな」


 神無月――十月は日本中の神さまが出雲に長期出張する月と言われ、あっちの世界の安政江戸地震は、奇しくも十月はじめに起きた。


「「「じきじきにご神託を!?」」」


 俺を見る目に畏敬の色がにじみだす。


「ふふふ、他言無用ぞ?」


「「「承知!」」」


 いつもながらのデマカセだが、まぁ、江戸人には、四つの大陸プレートがーのプレートテクトニクスなんちゃら理論より、タケさんや大ナマズのほうが受け入れやすいからいいだろう。


「よいか、武士たる者、日々『常在戦場』の緊張感をもってすごさねばならぬのじゃ。

 泰平の世においては、地震大風(台風)大火等災害現場こそが戦場。いざというとき迅速に動けぬようでは、武士の名折れぞ!」


「「「さすが肥後守さま!」」」

 

 なぜかヤンヤヤンヤの大喝采。


「それはそうと、そなたら、ムダ口を利くまえに、まずは本日の大将である因幡守にあいさつをせぬか!」


「「「これはしたり!」」」


「い、いえ、肥後守さま、どうかお気づかいなく!」


 ブチ切れる俺を懸命になだめる内藤っち。


「ええい、そなたもそなたじゃ! 一軍の大将ならば、もそっとドーンとかまえい! さように気弱なことでどうする!」


「そうおっしゃられても……わしとて、なにも好き好んで……(ぶつぶつ)」


 と、そこへ、


「因幡守さま」

 

 大将に声をかけつつ、近づいてくる男が。


「おお、摂津殿ではないか!」


 オッサンの表情が一気にあかるくなる。


「なんだ、そなたも紅軍であったか?」


「はい、本日はよろしくお願いいたします」


「ははは、と言われても、実際のところ、なにをしてよいかとんとわからぬのだがな」


 別人のように快活になった内藤さんに、カタバミくんこと庄内藩世嗣・酒井摂津守忠仁は、おだやかにほほえみかける。


 あいかわらず大量の速記者集団を引き連れてのお出ましだ。


「なんの、大叔父上は博識でいらっしゃいますゆえ、大船に乗ったつもりでおります」


「大叔父?」


 首をかしげる俺に、


「い、いな因幡守は、と、当家から内藤家にご養子に入られた方にて、わっ、わが祖父のおと、おと弟君にございまする」


 今日も、俺にだけ盛大にカンでくる謎対応だ。


「ほう、そうであったか。案外世間はせまいのう。おお、せまいと言えば、湯長谷には大規模炭鉱があるゆえ、そのことで一度話をしたいとつねづね思――――」


  

(……………………)



「ど、どど、どうなさいました?」


 ビックリ眼で見つめるクラスメート。


「い、いい、いま、なんの鉱脈と?」


 親族ゆえか、カミ方までそっくりなオッサン。


「………………感じる」


「「は?」」


「そなたら、感じぬか、このイヤ~な視線を?」


「「し、視線!?」」


「げに。先ほどより、摂津守さま後方より、ただならぬ気が発しておりまする」


 どこからともなく現れた般若が、俺を背後にかばう。


「いずこか?」


「あそこでございます」


 鉄扇の先が、庄内の速記者集団にむけられる。


「む?」


 大野の肩ごしに見てみると、筆記用具を手に身がまえる藩士たちの中に、なにも持たない不自然なやつがひとり。

 年は四十台半ばくらい。

 負のオーラをまとったそのオッサンは、じっとりした目つきでこちらをうかがっている。


 

「……摂津殿」


「は、はい」


「そなた、ストーカー被害に遭うているのではないか?」


「す、すと!?」


「ストーカーとは、ある特定の者に対し、くりかえしつきまとう者のことじゃ」


 カタバミくんは、容さん()ほどではないものの、なかなか端整な顔だちのピチピチの十六才。

 そーゆー嗜好の男につけ狙われてもおかしくない。

 

「ストーキングの動機としては、恋愛感情ないしは、己の好意が受け入れられぬことへの逆恨み。そして、対象者およびその関係者に執拗につきまとい、暴言暴力等の嫌がらせ行為をくりかえしたあげく、殺人にいたることも少なくない」


 あのねばっこいネクラな目つきは尋常ではない。


「えっ!?」


 蒼白になったカタバミくんは、大野の示す方向をすばやく振り返り、


「……あたらずといえども、遠からずでございます」


 固く握りしめた手が哀れなほど震えている。


「やはりそうか。ならば、ただちに引っとらえ、奉行所につきだしてやろう」


「い、いえ、そそ、それはなりませぬ!」


 ひどく焦ったようすで制止するストーカー被害者。


「行動がエスカレートするまえに対処せぬば、かならず後悔することになる。わが家中の者に捕縛させるゆえ、そなたはなにも案ずることはない」


『だいじょうぶ、お兄さんが絶対守ってあげるから』なやさしい態度で説得を試みる。


「い、いえ、あの、じ、じつは…………あれは……わが父・左衛門尉にございますれば……」


「「なっ、なんと!」」


 さすがの大野も絶句する衝撃の真実!


 ♂ × ♂ !


 しかも、近親相姦!


 そんな腐れカップリングが、なぜ、こんな健全な小説に!?


「ち、ちがいます! 父の目当ては肥後守さま、あなたなのです!」


「「「…………」」」


 場が凍った。


 じょ、冗談じゃねーよ!

 

 パワハラ上司とオカルト女のつぎは、ストーカー(♂)!


 この世界の神さまは、どこまで俺をいじめれば気がすむんだ!?



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