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146 第一回 奥羽越列藩合同防災訓練 ①

外伝にしようと思っていた物産展ネタですが、諸事情により本編に入れました。


よろしくお願いいたします (;^ω^)

 青梅マラソンでの劇的勝利から、はや半月。


 晴れわたる夏初月なつはづきの空の下、元・将軍家御狩場『駒場野』は、無数の旗指物で埋めつくされていた。



【元】というのは、昨秋、将軍・家定による御三家への牽制イヤガラセで、江戸近郊の鷹場・狩場指定が一斉に解除されたとき、ここも御遊猟地からはずされたからだ。


 そしていま、多目的広場化したこの広原では、あるイベントが開かれようとしていた。



「これより、第一回奥羽越列藩合同防災訓練を開始いたします!」


 司会進行役のオヤジ ―― 会津藩江戸家老・横山がそう宣言すると、


「「「エイエイオー!」」」 


 整然と並んだ武士たちから、野太い雄叫びがわき起こる。


「まずは、今演習の総大将・伊達陸奥守さまより、開会の辞をいただきます」


 横山が目線を送ると、黒光りするみごとな陣笠に、仙台笹紋がついた火事羽織姿の仙台藩主・伊達慶邦よしくにが、床几からおもむろに立ちあがり、諸隊の前に出る。


「えー、本日は天候にもめぐまれ――(うんぬんかんぬん)――奥羽越諸藩から集いし精鋭ら――(うんぬんかんぬん)――日ごろの鍛錬の成果――(うんぬんかんぬん)――いかんなく発揮するよう希望いたす」


「「「エイエイオー!」」」


 元気ないらえに、オッサンもニンマリご満悦。


「陸奥守さま、お言葉かたじけのうございました。ではつぎに、演習実行委員長より注意事項の伝達がございます」


 横山にうながされ、中央に進み出る演習実行委員長こと俺。


「あー、本演習は申すまでもなく、今冬発生が予測される江戸直下地震にそなえた防災訓練である。

 諸君も存じおるように、西之丸下、本所など、江戸の多くはかつて浅瀬や湿地を埋め立てて造成した地。

 かような軟弱地盤に建つ各藩邸は、巨大地震に際し、地盤の液状化により倒壊する危険性がはなはだ高い。

 本日の訓練は、危急の折にもあわてず迅速な行動がとれるようおこなうものである。

 みなも、これが実際の被災現場と仮定し、心して取り組んでほしい。

 ただし、ムリをしてケガなど負わぬよう留意し、訓練にのぞむように」


「「「エイエイオー!」」」


 

 てな感じで、第一回奥羽越列藩合同防災訓練開会式は、つつがなく終了したのであった。


 ――――


 「え? 防災訓練? あれ、奥羽越列藩イベントって、たしか合同物産展じゃなかった?」と思ったそこのあなた!


 そうなんです! 

 そのはずだったんです、俺的には……。



 CRCサポートの見返り、すなわち合同物産展実施計画は、各藩留守居役たちによって、沿道支援プランと同時進行で着々と準備が進んでいた。


 ところが!

 

 最後の最後、各藩重役による最終承認段階になったところで、いくつかの藩からクレームがあがったのだ。


 いわく、


「なにゆえ武士が、商人のマネごとをせねばならぬのだ?」 


「藩をあげて商い? ならぬ! 藩祖××公はじめ、立藩に尽力した先人方に顔向けできぬ!」


「当家初代●●公が、関ケ原にて立てし由緒ある幟旗を、小銭をかせぐ場に? ふざけるな、腹を切れっ!」――だそうで。


 

「はぁ? 誇りでメシが食えるかーっ! 武士道武士道言ってりゃ、借金チャラになんのか? あー、もー勝手にしろ! 別におめーらといっしょにやらなくたって、会津うち単独ひとりでも稼げるんだ!」


 と、ブチ切れたいところだが、そうもいかない。 


 なにしろ、これまで一生懸命走り回ってくれた留守居役のみなさんが、涙目ですがりついてきたのだ。


 そこで、俺は考えた。


 そういえば、昨年末、東海・東南海・豊予海で、津波をともなう巨大地震が起きた。

 あっちの世界と同じ1854年末に、あの三連動地震が発生した以上、今年ここでも江戸直下地震 ―― 安政江戸地震が起きる可能性はきわめて高い。 


 だったら、あらかじめそれに備えて、防災訓練的なものをしておいてもいいんじゃね?



 大災害発生時、軍隊は大きな役割をはたす。

 

 とくに大規模災害では、それなりの装備をもった統制のとれた組織でなければ対処しきれない。


 戦争がなくなった時代における軍隊の有効活用法のひとつが災害派遣で、それは二十一世紀あっちでも、江戸時代こっちでも同じこと。

 

 いうまでもなく、徳川幕府は、全国の大名家(軍団)をたばねる軍事政権であり、すでに幕府は大名を災害対応に使っている。


 それが、『大名火消』だ。


 江戸時代初期、町火消が設立される前、江戸の火災現場で大きな役割をになっていたのが大名火消。 

 これは、幕府が任命した十数家の大名を、当番制で消火活動にあたらせるもので、大名火消は江戸っ子たちからも絶大の信頼をよせられていた。

 

 だから今回も、合同物産展ではなく合同防災訓練といえば、各藩の頑固なジジイどもも反対はできないはずだ!



 で、その訓練のために集まった各藩が、【たまたま・うっかり・大量に持ってきてしまった】特産品を再度持ち帰るのもめんどうなので、訓練終了後、それを見に来ていた市民のみなさんに【しかたなく】販売するのはアリだ。


 そんなつもり全然なかったのにぃ~、【なぜか】【思いがけず】【なりゆき】でそうなっちゃって~、なら文句も言えまい。


 それに客も、ただの物産展より、余興があったほうが楽しめるだろう。 



 ―― ということで、合同物産展は、表向き合同防災訓練と言い換え、イベント開催をわがべこコボ通信とアンテナショップ内のポスター、湯屋・髪結床にも大量の引札(チラシ)を置き、大々的に宣伝しておいた。


 そんなわけで、目下、駒場野には、訓練開始をいまや遅しと待ち受ける観客(金づる)のみなさまがビッシリ……くっくっく……。



 * * * * *


「では、各藩は受付で引いたクジにしたがい、紅白にわかれて整列してください!」


 横山の言葉に広原を埋める侍たちは、紅白それぞれの本陣にむかって移動しはじめる。


「さきほどのクジにより、本日の大将は、紅軍が湯長谷ゆながや藩・内藤因幡守さま、白軍は泉藩・本多越中守さまと相なりました。お二方、ご差配のほど、よろしくお願い申しあげます」


 てなことで、クジで紅組になったわれら会津藩兵も赤い幟の下にいる大将のもとに。


「因幡守、本日はよしなに」


 さっそく、陸奥湯長谷藩一万五千石の藩主・内藤政民まさたみさんにごあいさつ。


「こ、これは、肥後守さま。大政参与たる貴公をさしおいて大将など……まことに恐れおおいことにて……」


 あたふたと答える内藤。

 歳は五十くらい。

 かなりな学問好きで、自ら藩士たちに四書五経を講じるインテリらしい。


「なんの、こたびの演習においては、指揮命令系統を厳格に守り、整然と行動するが肝要。なれば、世俗の身分など気にせず、遠慮のうビシビシ下知してくだされ!」


「……は、はぁ」


 俺の熱いはげましに、弱弱しくほほえむオッサン。


 ちなみに、白軍大将の陸奥泉藩二万石・本多忠徳ただのりも、内藤と同タイプの文系キャラで、教育熱心なアラフォーおやじだ。


 今回は両軍とも、磐城の小大名が大将をつとめることになったようだ。



 じつは今回、大将をクジで決めたのは、俺なりに考えがあってのこと。


 早い話、あっちの世界で奥羽越列藩同盟がやらかした失敗を、未然に防ぐための試みなのだ。



 あの同盟は、新政府軍が間近に迫ってきてからドタバタ結成されたので、ダメな点が多かった。


 たとえば、寄せ集めの混成部隊だったせいで、統一した軍事行動がとりにくかったり、また旧来の身分制にこだわった人事がアダになり、不適任者を司令官にすえてしまい、優勢な兵数差を活かせず敗北したり。


 そのいい例が、白河口の戦いだ。


 白河は古来から奥州への入り口で、軍事的に非常に重要な場所だった。


 ところが、同盟はこの白河口総督に実戦経験ゼロで、性格的にも問題のある会津藩家老・西郷頼母をあててしまったのだ。

 この男がメンバー中最上席だからという理由で。


 当時ここには、数々の修羅場をふみ、西洋兵学にも通じていた土方歳三はじめ新撰組隊士たち、洋式調練で錬成された幕府陸軍メンバー……いや、会津兵の中にも、京都駐屯時代、禁門の変などで実戦を経験した藩士が幾人もいたにもかかわらず、身分制にこだわるあまり、そうした人材を活用できなかったのだ。


 そして西郷は、下位者からの有効な献策を退け、戦力の逐次投入など無能さをさらけだし、同盟側二千五百人が駐屯していた白河城は、三分の一以下の七百の新政府軍にさっくり奪われてしまった。



 この世界の奥羽越列藩同盟も、「将軍命!」の徳川親藩(会津)がいれば、あっさり倒幕に走りそうな勤王派の秋田藩もいる。


 藩の規模も、六十二万石の仙台藩から一万石の黒川藩まで、家格・石高・幕府との親疎など、事情の異なる三十藩が加盟している。


 そんな複雑でモロい組織が協力して戦うには、


「だれがトップに立っても文句を言わない」


「一度決めたことには絶対服従!」を厳守させなければならない。 


 ついでに、いざ戦争となったとき、各藩がつまらないことで意地をはって、主導権争いから内部分裂 ―― とならないように、いまから意識改革をしておく必要もある。



 ということで、今日の訓練では、会津二十八万石・正四位下・御家門大名の俺は、湯長谷藩一万五千石・従五位下・譜代大名の内藤さんの忠犬になりきってみせなければならないのだ。


 こんなロールプレイング(小芝居)を数回こなして、みんなの抵抗感がうすくなったら、いずれ大将は大名ではなく、各藩から軍事センスのある藩士やつをピックアップして、指揮をさせてもいいかもしれない。


 なんなら、武士だけでなく、見学にきている一般人も訓練に参加させて、その手腕を見るというテも……。


 そうやって、指揮官として有望なやつらを早めに発掘して、手なずけて、鍛えあげて、俺の手ごまに……(ひっひっひ)。


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