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124 「琉球、朝貢やめるってよ」


 広州は、珠江パール・リバー河口にできたデルタ地帯北部、中国第三の長河・西江せいこう、珠江支流の大河・北江ほくこう、広東省東部の主要河川・東江とうこうの三河川が合流する場所に位置する港湾都市。


 いくつもの大河と海に囲まれたこの地は、古くから交易が盛んで、唐代には外国人居留区もおかれていたという。


 とはいえ、このときの居留区は、百数十年後におきた大虐殺で消滅したらしい(怖っ!)


 その後、唐代末には内乱で破壊されたりしたが、五代十国時代には南漢の首都として繁栄し、明代になると、ここが南海諸国からの朝貢船の入港地と定められ、つづく清朝では十八世紀半ば以降、唯一欧米諸国に開かれた貿易港として今日にいたっている。



 広州についた俺たち一行は、オリバーの口利きで、珠江沿岸にある十三行夷館じゅうさんこういかんのアメリカ商館の数室を借りて、滞在することとなった。

 

 ちなみに十三行夷館とは、地元広州の外国貿易商人集団 ―― 『広東十三行かんとんじゅうさんこう』(行商(こうしょうとも)が所有する建物を欧米の貿易商に貸し、対清貿易の拠点(商館ファクトリー)としているものだ。


 ここにはアメリカのほか、イギリス、フランス、オランダ、デンマーク、スペイン、オーストリア、スウェーデンなどの居館がある。


 しかし、アヘン戦争後、清国内には欧米人排斥の機運が高まり、1842年、1843年と焼打ちに遭っているらしい(ブルブル)。



 今回の外交の最後となる対清交渉の相手は、両広総督で欽差大臣きんさだいじんをかねる葉名琛しょう めいちんさん。


 両広総督とは、ひとことでいうと広東・広西両省の軍政・民政を統括する地方長官のことだ。


 また、欽差大臣は、清朝において皇帝の全権委任を受けて事態に対処する臨時官で、葉さんは欧米との貿易問題を担当する外務大臣的ポジションの人なのだ。


 では、なんで両広総督という一地方長官が外務大臣みたいなことをしているかというと、両広総督の管轄地に貿易都市・広州があるためで、ここでの外国とのやりとりがしだいに増えていったので、総督は十年前から対外交渉の全権大使も兼任するようになったようだ。


 そのうえ、今年は、ある秘密結社が蜂起して、広州が取り囲まれたり(みごと撃退)、なんだかんだいろいろあってたいへんだったらしく、両広総督は目下、清国高官中では一、二をあらそう激務なんだとか。


 てなことで、


「そんなお忙しいお大臣さまとのアポなんて、かんたんに取れないだろ?」

「取れなかったら、テキトーに時間つぶして、スキ見てバックレっか?」


 ―― と思ってたのに、なんと会談のアポが取れてしまったのだ(くそっ)。



 これは、板さんたち琉球組が留学時代のコネをつかいまくって奔走し、必死でセッティングしてくれたおかげだったりする。


 まぁ、できたらあっちから来てくれたら言うことなしだったけど、さすが中華思想の本場・清。


「そっちから来るなら、会ってやってもいいけど?」的超上から目線で、会談申請を受け入れた。

 

 いつもの『日本国宰相にして国防軍総司令官、徳川王族の松平公爵閣下』という肩書も、清国ここではあまり通用しないようだ。



 小栗ら幕臣連中は、「清国皇帝ならまだしも、なにゆえその一臣下ごときに、肥後守さまがわざわざ足を運ばなくてはならぬのか!?」と、憤死レベルの爆ギレだったが、まぁ、俺としては「アポが取れただけでもラッキー」と思って、観光がてら街をプラプラ歩きながら、両広総督府にむかうことにした。



 グレゴリオ暦ではもう一月というのに、さすが南亜熱帯海洋性季風気候に属す広州は、まったく寒くなく、運動不足気味の身体にはちょうどいいウォーキング環境だ。



 という感じで実現した日清交渉だったわけだが、


 冒頭で、いきなり…………「琉球、朝貢やめるってよ」 


(―― !!! ――)


「「「……ひ、肥後守さま!?」」」


 青ざめる幕臣たち。


(ち、ちがう……)


「「「…………」」」


 凍りつく唐通詞(中国語通訳)。


(ちがうって!)


「……なるべく穏便な言葉でお伝えくだされ」


 苦渋の表情でたのみこむ賢臣(大野)


(俺じゃない!!)


 なんかのパクリっぽいあんなセリフ、俺は言ってない!



 おい、どういうつもりだ、容さん?


 清国全権の欽差大臣オッサンとアポが取れただけでも奇跡ミラクルだったのに、なに考えてるんだよ?


 プライドだけはムダに高い『眠れる大国』にケンカふっかけちゃって、せっかく欧米との戦争は避けられたのに、清と戦うことになったらどうしてくれるんだ?


 おまえ、責任取れんのか!?

 バカヤロー、必死にアポ取ってくれた板さんたちに土下座して謝れっ!


 と、


(――――)


 容さん(やつ)の気配が消えた…………いつものように。


 あとに残されたのは、けげんそうに俺を凝視(ガン見)する両広総督と、完全にハニワ化したサムライ軍団のみ。

 

 こうして、外遊最後の折衝もまた、波乱の幕開けとなったのである。




〈▼*◎●☆◆!〉


〈□■◎◆▽★〉


〈★△▼▽● □?〉


〈●*☆■◇★〉



 板さんはあのトンデモ発言をかなりイイ感じに意訳してくれたらしく、それは、交渉相手のおちついた態度からもうかがい知れた。


 そして、ふたりのやりとりは長崎から合流した唐通詞たちによって逐一訳され、報告される。


 これは、えげつない言い方をすれば、俺たちが琉球政府に売られないための措置だ。


 いまのところそうした動きはないようだが。



 ただ、長年冊封関係にあった琉球がその体制下から離れるということには、やはり難色をしめしているもよう。


 それに対し板良敷は、


「英仏による琉球への宣教師置き去りにつき、なんども退去交渉を依頼したが、清はいっこうに仲介の労を取ってはくれなかった。


 他方、徳川政権は、先日の英仏交渉のなかでこれを取りあげ、以後こうした行為をつつしむと両国に誓約させ、琉米修好条約についてもアメリカ側と交渉し、条約失効を承認させた。


 それにくわえ日本政府は、こののち異国からいかなる接触があっても、それらはすべて江戸にて対処し、一朝事あるときは軍を派遣し琉球防衛につとめる旨、確約してくれた。


 以上のことから、琉球国王は徳川将軍に忠誠を誓い、清との臣従関係を解消することとした」


 ―― という板さんの脱清宣言を長崎から同行している唐通詞が和訳してくれた。


(ほ~う、琉球でのプレゼンが、けっこうきいてるなぁ)


「しかも、日琉は同祖であると、DNA上からも証明されておるでのぉ」


「「「おや、さっそく」」」


 板さんへの援護射撃を、なまあたたかく見まもる外交使節団(仲間たち)


 こら、「さっそく……」ってなんだ? 「さっそく」って?


 まさか、「さっそく、いつものヨタ話がはじまった」じゃねぇだろうな?(ぷんぷん!)



〈☆▼○……▲♭◆□!〉 


〈◎◆△★▽……□?〉



 板さんの理路整然とした説明にもかかわらず、清はどうしても納得がいかないようだ。



 ったく、さっさとあきらめればいいのに。


「ならば、琉球から要請された際、なぜ速やかに英仏米各領事と談判をおこない、宣教師の退去・修好条約撤廃にうごいてやらなんだ?


 冊封関係とは、宗主国が外敵から付傭国を保護してやる見返りに朝貢をうける形態ものではなかったか?


 宗主国としての義務を放棄している以上、故国をまもるため下した琉球の決断をそしる資格があろうか?」 


〈…………〉


 はい、論破。


〈▽*▼……☆◆◎★?〉


 えっ?

 朝鮮?


 ああ、なるほど。

 いわれてみれば、あそこも日本うちと清に二重朝貢する国だったもんね。

 琉球に離脱されて、そっちも心配になったかな?


「いや、朝鮮は二千年の長きにわたり貴国の属領であったうえ、民族上も日本人とはまったくの別種。さような懸念は無用だ。

 もし、清がのぞむなら、日本はかの国との通信(国交)を断絶し、こののちは貴国を通じたつき合いのみとしてもよい」


〈◎▲□∵■♡〉


 葉総督は安心したようにニッコリ。


「では、今後、朝鮮にかかわるすべての事は清に任せよう」


 むふふ。

 むしろ日本としては願ったりかなったりだ。


 だって、朝鮮(あの国)はなにかっちゃー被害者面してワーワーさわぐけど、そもそも日本史上最大の危機『元寇』は、フビライ・ハンに仕えていた高麗人(朝鮮人)や、当時、高麗世子だった忠烈王がせっせと東征を煽った結果だ。


 つまり、高麗がしつこくそそのかさなければ、元にとってアウトオブ眼中だった日本遠征なんて起きっこなかったのだ。

 そのことは『元史』にも記録がバッチリ残ってるしね。



 1274年、元軍にくわわった高麗軍は、対馬・壱岐に攻めこんだ。


 このとき対馬の非戦闘員におこなった高麗軍の残虐非道ぶりは、同時代人の日蓮上人の書簡にもしっかり書かれている。


 高麗軍は、対馬守護代・宗資国ら八十人の守備兵を皆殺しにしただけではあきたらず、山中にのがれた島民(非戦闘員)らも執拗に狩りだし、命乞いをする妊婦の腹を蹴破って、胎児を引きずり出して殺害し、赤ちゃんすら股裂きなどのなぶり殺しにしたという。

(これらの蛮行は、高麗史書にも自慢げに記されているとか)


 そして、こっちはかなり有名な話だが、労働力になりそうな島民は男女ともに裸にしたうえ、掌に穴をあけて縄で数珠つなぎにして連行したという。


 掌に穴を開けて縄を通し、捕虜を連行するやり方は、百済期からの朝鮮の伝統だそうだ(怖っ!)。


 これと似た例では、ベトナム戦争のとき韓国軍がおこなった女性・老人・子供ら非戦闘員を一カ所に集めての機関銃乱射虐殺……いつの時代でもかわらぬあの民族の残虐性を示す逸話だ。


 やっぱ、あの国とは絶対かかわっちゃイケナイ。


 でも、こっちから言うまえに清さんが進んで窓口になってくれるっていうなら、ぜひぜひお願いします。


 となると、なんかあって日本うちに逃げてこんできても、全員あっちに移送すればすむってこと?


 うわ、ラッキー!

 これはがっつり書面で残しておかなきゃね。


 なら、ついでに送還費用も出してくれないかな、清さん?


 さすがに、そこまではムリ?


 でも、宗主国なんだし……。


(ピコーン)そうだ!


「ここは多少ミエはってでも宗主国らしいところを見せないと! アヘン戦争後のヘタレっぷりは、相当知れわたっちゃってるから、このままだと、琉球以外の属領からも離反するところがつぎつぎ出ちゃうよ? とりあえずうちの移送費は清が立て替えといて、あとで朝鮮に請求すれば?」って、おだて……(げふんげふん)……アドバイスしてあげよう。


 そうすれば、タカるのは得意だけど払うのはイヤがるあの国自身が自発的に流出阻止するかもしれないし。

 

 ということで、思いがけず日本にとってイイ流れになってきたところで、いよいよ本題に入るか。

     


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