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105 伝承 


「「「▼☆◆△★ーーーっ!!!」」」


 白目をむくキリシタン諸君。


「「「ま、まさかっ!?」」」


 背後の幕臣も大パニック。


「いや、偽りではない。奥州の山奥にイエスとその弟イスキリの墓があるらしいぞ」


 ―― って、前に都市伝説番組でやってました。



「★☆★~~~」


 リーダーのじじいがぶっ倒れた。


「「「――――」」


 ほかのやつらも、すでに失禁寸前。


「し、しかし、イエスさまは……遠き異国で磔刑に処せられたはず」


 なんとか蘇生した百姓が、ささやかな抵抗をこころみる。


「あれは、弟のイスキリが身代わりになったのだ。

 なんでも、イエスは二十二歳から十年ほど奥州で修行を積み、いったんは故郷ユダヤに帰ったものの、処刑から逃れたのち、ふたたび奥州に戻り、名を十来太郎大天空とらいたろうだいてんくうとあらため、妻を娶って三人の子をなし、百六歳まで生きたというのだ」


「「「!!!!!」」」


 二回目のメンタル喪失。


「どうじゃ、歴史ミステリー不思議発見であろう?」


「「「に、にわかには、信じがたき話……」」」


 そりゃそうだよ、都市伝説だもん。


「まぁ、信じるか否かはそなたらしだい。

 なれど、その統来訪神の祭りで唱えられる声明は、イエスが使っていたヘブライの言葉によう似ておるそうだぞ?」


「「「!!!!!」」」


 はい、三回目。


「しかし、なにゆえそれが、秘事なのでございますか?」


 秀才カルテットのひとり田辺が、小声で質問する。


「わからぬか? 西洋諸国はみなキリスト教国だ。

 わが国にイエスの墓があると知れたら『聖地奪還!』などと申して攻めこんでくるは必定。

 ゆえに、決して漏らしてはならぬのだ」


「もっとも至極」


「なれど、わずかながら漏れてしまったがのう」


 芝居がかった盛大なため息をひとつ。


「大事にはなりませぬか?」


 甲府徽典館学頭の矢田堀が不安そうに聞いてくる。


「そうあってほしいものよ」


(くく……く、苦しい……笑っちゃダメだ、笑っちゃ~~~!)


「じつはのう、各地に残る天狗伝説は、秘事を嗅ぎつけた聖堂騎士団の連中が、イエスの墓や聖遺物探索のため、たびたび日本に密入国していたあかしなのだ。いまのところ、さほど拡散しておらぬようだがな」


 ええ、完全なフカシです。


「おお、まさに!」


「異人と天狗、よう似ておる!」


「異人が目撃され、いたるところで天狗伝説!?」


「「「なるほど!」」」


「「「天狗……異人……聖堂騎士団……」」」


 ヘンに具体的な内容と、俺の自信満々なハッタリに混乱するキリシタン一同。


「だが」


 いっそうトーンを落とし、みんなの注意を引きつける。


「そうなると妙だのぉ」


 困惑したふうをよそおい、ターゲットを凝視する。


「「「み、妙とは?」」」


 わななきながら見かえす四人。


「考えてもみよ。イエス本人が日本に住んでおったのだぞ? 

 百六まで生きたのならば、布教するいとまはたんとあったはず。

 ならば、千三百年前に伝来した仏教より五百年以上早く渡来していたイエスの教えは、なにゆえ普及しなかったのであろうか?」


「「「……?……」」」



 さぁ、怒涛のラストスパートいくよー!



「となれば、解はおのずから導かれよう?」


「「「そ、それは?」」」と言いつつ、その答えを予期したのか八つの目に恐怖の色がうかぶ。


「すなわち、戦国期に伝えられし教えは、真のキリスト教にあらず! かの教えは、のちの世に自称弟子らによって創られしもの。真のキリスト教は八百万の神の中にまぎれておるのじゃ!」


「「「★★★~~~」」」


 崩れ落ちる信者たち。


「さように考えれば得心がゆかぬか? イエスの教えが際だつことなく日本の風土に溶けこんでいるというは、真のキリスト教はわが国古来の神道に近いものなのであろう」


 はい、改訂版本地垂迹説。


「……そう来ましたか」


 となりの説教男が楽しそうにブツブツ。


「それに、気になる話があってのう。

 わが国の籠目紋 ―― 六芒星ともいうが ―― あの紋は異国にては『ダビデ王の紋章』と呼ばれておって、ユダヤ人の象徴となっておるのだ」


「「「籠目紋が!?」」」


 おっと、おどろくのはまだ早い。


「ところが、この籠目紋が伊勢神宮、京の鞍馬寺の燈籠などにも刻まれておるのだ」


「「「い、伊勢、鞍馬にっ!?」」」


 虚脱するキリシタンたち。


「そしていまひとつ……」


 追いこみは、まだまだつづくよ。


「神よりモーセが授かりし『十戒石板』を納めた箱、ヘブライの秘宝である『契約の聖櫃アーク』の話は知っておるか?」


 力なく首をふる男たち。


「なんだ、聞いておらぬか。まぁ、よい、では教えてやろう。

 『旧約聖書』には、この聖櫃アークの形状がくわしく載っておるのだが、その記載によると、これがわが国の神輿みこしそのものでのう」


「「「み、神輿がっ!?」」」


 もはや、悲鳴。


「しかも」


「「「ま、まだあるのですか?」」」


(うん、あるんだよ、ごめんね)


 滝涙のキリシタンさんたちに、心の中でわびる俺。


「伝承によると、釈迦シャカの生母麻耶マヤは、己の胎内に聖なるものが宿る夢を見、生娘きむすめのまま受胎したそうだ。そういえば、これによう似た話がキリスト教にもあったのう?」


「「「マ、マリアさま!?」」」


「こうしてみると、真のキリスト教は、神道や仏法の中にこそあるように思えぬか?」


 とびきりのスマイルで、トドメを刺す。


「「「……うぐ……うぐ……」」」 


 完全に打ちのめされ、嗚咽をもらすキリシタンたち。


 その異様な空気に呑まれ、沈黙する観衆と、ヒソヒソ採点中の幕臣連中。


 

 と、


「転ぶか?」


 長崎奉行がしずかに問いただす。


『転ぶ』とは、キリシタンが教えを棄てるという意味だ。


 さきほどよりはいくぶんやわらかくなったまなざしをむける水野。


「「「い、いえ、転びませぬ!」」」


 号泣しながらも、かたくなに言いつのる一同。


「なにっ!?」


 白皙の面が、瞬時にそまる。


「これだけ言うても、まだ棄教せぬと申すか!?」


 こめかみをピクピクさせたお奉行さまが捕縛命令を下そうとしたそのとき、


「「「われらは、まことのキリスト教に改宗いたします!」」」


 キリシタンどもは、高らかに宣言。


「まこと、とな?」


「「「はい、会津侯のお話で目が覚めましてございます!」」」


 すがすがしい面もちで答えるお百姓さんたち。


「言われてみれば、慈悲ぶかき神がいくら異教徒とは申せ、さような非道をゆるすは合点のゆかぬこと」


「さすれば、われらがイエスさまの教えと信じたものは、まことのキリスト教にあらず」


「先祖代々奉じたは、無念なれど、まちがった教えであったと気づき……」


「イエスさまの真の教えに、帰依したいと存じまする」


「これよりは神道仏法をふかく学び、その中から真のキリスト教を探す所存にて!」


「「「おお~~~!!!」」」


 幕臣たちから湧く感声。


「「「転んだのう」」」



「そうか」


 虚をつかれ、とまどう水野。


「八百万の神々・仏を敬うということだな?」


「「「さようでございます!」」」


「であるならば、これ以上の詮議はせぬ。こののちは、神道仏法の教えにしたがうのだぞ?」


 ようやく水野の顔にも笑みが浮かぶ。


「「「はいっ!」」」


(そうそう、排他的一神教じゃないキリスト教は見逃してあげてね)



「「「そこで会津さまに、ひとつお聞きしたいことが」」」


「なにっ!?」


 おい、さっきのがラストクエスチョンって言ったろ?

 約束がちがうじゃないか!


 だが、信仰の熱にうかされたオッサンどもは、むくれる若者()など意にも介さず、 


「イエスさまの墓所は、奥州のどのあたりにございましょうか?」


 ……え゛!?


「「「聖なる墓所を見とうございます!」」」


 まさか、そうつっこまれるとは……。


「あー、イエスの墓所は……奥州の……」


 って、俺もくわしいことは……。


 たしか、青森のどこかだったような?


 でも、この時代の青森は弘前藩と南部藩に分かれてて、その場所がいまのどっち領かなんて……。


「うーむ、困ったのう。これ以上は国家機密ゆえ、みだりに教えるわけには……」


「そこをなんとか!」


 懸命に食い下がる元キリシタンたち。


「なれど、南部領のいずことしか……」


 げっ! 

 ボクったら、つい、テキトーなことを。


「「「南部領でございますな!」」」


 出まかせとも知らず、狂喜する男たち。


「ならば、さっそく巡礼の支度を!」


「それがいい!」


「「「いざ!」」」


 突如踵を返し、猛ダッシュで退場する一同。



 ……ん?


 ねぇ、ちょっとー、夕飯はどうするのー?



 あ~ぁ、行っちゃった。


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