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104 禁教


「あ、あの……」


 仏頂面の俺に、じじいはオドオド上目づかい。


「キリシタンは迫害されていたばかりではなく、逆に寺社に火をかけ、僧侶・神官を殺していた…というは、まことにございますか?」


「いかにも。戦国のころ、キリシタン大名らは、己の支配地において宗教弾圧を行った。

 寺社を焼き払い、ときに抵抗する僧侶・神官を殺し、他方、領民らには改宗を迫って、拒むものは殺害・追放した。

 また、信徒らが同様の暴行をはたらくこともあった。

 しかも、キリシタン大名の中には、異人に領民を売りはらい、その金で硝石を買う者もおったのだ」

(ま、奴隷売買は、キリシタン大名じゃない島津さんもやってたけどね)


「「「なんと無体な」」」


 おやおや~、そういうダークサイドは伝わってないのかな~?


 自分たちは、二百年以上にわたって宗教弾圧を受けてきた被害者だったと?


 ははは、ずいぶんと都合のいい伝承ですなぁ。



「なにを申す。キリシタン大名は、宣教師の期待どおりの働きをしたのだぞ?」


「「「期待?」」」


「さよう。当時のローマ教皇が、カソリックの王らに、『異教の国の全領土・財をうばい、異教徒を奴隷にする権利を認める教書』を与えたゆえ、イスパニア・ポルトガルは領土拡張のため、侵略軍の尖兵たる宣教師を異国に大量に送りこんだのだ」


「「「バ、バテレンが侵略の尖兵っ!?」」」


 認識を根底から覆され、動揺するキリシタンたち。


「宣教師の任は、当該国に潜入し、情報収集および布教による協力者獲得、すなわち侵略ための地ならし……まさに間諜ではないか?


 とくに、大名ら支配層を信者にいたせば、宣教師自ら手を汚さずとも、布教・他宗への弾圧をその者らが代行してくれる。

 後日、本格的に侵攻する際は、本国より派遣されし兵とともに、キリシタンらも自国を滅ぼす手伝いをしてくれよう。


 宣教師どもが異国で熱心に布教に勤しんだは、いわば軍事行動の一環であり、それを裏付ける宣教師からの報告書がいまもバチカンに残っておる」


 ったく、宣教師ってやつはいつの時代も……。


 そういえば、ちょっと前まで閲覧できたザビエルの日本侵攻計画報告書は、最近、資料そのものがないことになってるらしいね。


 隠蔽って、よほどマズイことでも書いてあるのか?



「しかも、国が荒れれば荒れるほど、ひとは心の平安をもとめ、宗教にはしりやすくなる。

 あたらしき教えによって宗教対立を助長いたせば、さらに世は乱れ、布教はいっそう容易になる。

 まさに一石二鳥、いや三鳥かのう?」


「「「…………」」」


 つぎつぎ明らかになるキリスト教の実態に、シーンとなる境内。


「キリスト教のごとき一神教においては、正しきは唯一絶対の神のみ。

 それ以外は、みな邪神。

 邪教を奉じる者には、いかなる非道もゆるされる。

 他国を侵略する際、己を正当化するに、じつに都合のよい教えではないか?」


 自国内でやるのは勝手だけど、あちこち進出してきて『権利!』『権利!』だもんな。

 始末におえんわ。


「それにくらべ、わが国の神道は、『八百万の神』を奉ずる多神教。

 友の友はみな友、あたらしき神もまた古き神の友。

 すべての神を否定せぬ大らかさ、懐のふかさが日本古来の教え、神道である」


「「「友の友はみな友、神の友もまた神?」」」


 いまはなきテレフォ●ショッキング~。


「げに。それゆえ、異国の教えであった仏教は、日本の神々と融合し、いまにつづく神仏習合となっておるのだ」



 神仏習合とは、「八百万の神さまは、仏さまが変身した姿なんです!」という、わけのわからない超理論・本地垂迹説ほんじすいじゃくせつにもとづく宗教形態のこと。


 八世紀前半、仏教が国家と皇室の安泰を祈る重要なポジションを占めるにいたり、従来の神道(古神道)・道教と共存する方便として考えだされたのがこの考え方。


 理論上はそうとうムリがあるが、宗教間のムダな対立・敵対を避けて内乱を回避し、宗教問題をソフトランディングさせた点は評価できるだろう。


(※これは江戸時代までのお話。明治以降は国家神道政策により一変する)



「よいか、考えてもみよ。神はわれら凡俗の徒にくらべ、はるかにすぐれた存在であるはず。

 なれば、真に偉大なものが『己以外は認めぬ』『正しきは己のみ』などと料簡のせまいことを申すであろうか? 

 すべてを許容するわが国の神々の方が、一神教の神より格上とは言えぬかのう?」


「「「…………」」」


 押し黙るキリシタンたち。


 よし、もう一息!



 ふいに、


「ふむ」


 目付のひとり、永井尚志が感じ入ったようにボソリ。


「教えを禁ずるだけでは隠れて信仰をつづけるゆえ、キリシタンそのものは減らぬ。なれど、その真の姿を知れば……」


「たしかに」


 永井の独語に、横のオッサンもうなずく。


を知り己を知れば百戦あやうからず。しかし、ようここまでお調べになられたものよ」


 五十代半ばの変顔ファニーフェイスオヤジが、熱い視線をむける。


 えっと、このひとは……たしか勘定奉行の川路だっけ?



「だが、少々くわしすぎる気も」


「うむ、その点はちと気になる」


「いや、肥後守は以前より異国通にございますれば」


「さよう、習俗にもよく通じておいでで」


「異人どもと対等に渡りあい」


「これこれ、ご一同、お静かに!」


「いかにも」


「論評は最後まで見届けたのちに」


「「「承知!」」」


 ほかの幕臣どもも好き勝手に合評。



 ちぇ、なんだよ、こっちは必死こいてるのに、言いたい放題言いやがって!


 あー、腹たつー!!!


 もう、こうなったら一気にカタつけたるわ!



「そなたら、もそっと近う」


 急に声をひそめ、くいくい手招き。

 意外な命令に、キョドるお百姓さんたち。


「そなたらにだけ、ある秘事を教えよう」


 口早にそう告げ、大野に目配せすると、寵臣は即座に意をくみ、ほかの藩士とともにやじ馬をうしろに遠ざける。


「なにゆえに?」


「われらにもお聞かせくだされ!」


「「「ずるうございます!」」」


 予想どおりわき起こる大ブーイング。


「これは国家機密ゆえ」


 かわゆい笑顔で、火に油をドボドボ投入。


「機密!?」


「ぜひわれらも」


「「「知りたいっ!」」」


「ならぬ! ないしょじゃ!」


「「「ギャーーーッッッ!!!」」」



 侍たちがつくる規制線をぐいぐい押しまくり、前へ出ようとする群衆。


 それを懸命に押しもどす会津・薩摩連合軍。


 一進一退のはげしいモール!



(ぐふふ、盛りあがってきたねぇ)



「われらだけとは?」


 こっちも好奇心ムラムラで、はちきれんばかりのキリシタンども。


 さらに、幕臣連中もダンボ耳でスタンバイ。



(いいね、いいねぇ~!)



「そなたらはキリシタンゆえ特別じゃ」


 身を寄せる男たちに、扇子の蔭からヒソヒソ。


「よって、他言無用ぞ?」


 もったいぶって念を押すとカクカク点頭。


「じつはのう……」



 思いっきりためて、極限までらし…………爆弾投下!



「まことのイエス・キリストは、日本で死んだそうだ」




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