103 品評会
「ま、まて!」
いくらなんでも、拷問・火刑って!
「まだそうと決まったわけではないではないか」
「この儀、長崎奉行たるそれがしの職分にございます」
「なれど」
「御口出しは無用に願いあげまする」
なんとか取りなそうとする俺をはねつける水野。
まったく取りつく島もない。
そこへ、
「これこれ、筑前殿」
やけにのんびりした声が割って入る。
「……筒井殿?」
ふり返る水野の背後には先頭の筒井以下、旗本軍団がずらり勢ぞろい。
「今宵は昌平黌教授岩瀬修理が心酔する若き英主を拝見しにまいったのじゃ。興をそぐでない」
「さよう、『三百諸侯にみるべき者なし!御公儀はわれら直参あってこそ!』とつねづね豪語していたあの修理殿が」
「近ごろは口を開けば『肥後守』『肥後守』と」
「そこまでほれ込んだ俊才ぶりを」
「いかなる人物かを」
「みなで確かめにまいったのじゃ」
おかまいなしにサクサク仕切る古老と、キラキラ眼で盛り上がるオッサンたち。
…………え?
岩瀬が会津侯に心酔???
岩瀬忠震が、松平容保を評価だと!?
まっさか~。んなことあるわきゃ……、
「み、妙なことを申されるなっ!」
赤面するイヤミ男。
(あった……のか?)
じゃあ、いつも見張られてると思ったのは?
なにかと俺にからんでくるムカつく行動の数々は?
ファンゆえの粘着ーっ!?
うっそー!!!
屈折しすぎてて、全然気づかなかったわ。
「どうやらみなさまがお越しになられたは、殿の為人をご覧になるためだったのですな」
となりの男も同じことを考えたらしい。
ようするに、今日のアポなし突撃はタダメシ目当てではなく、俺の『品評会』だったってわけ?
だから宴会モードで退場したはずなのに、全員シラフのまま再登場したのか!?
そんな理由で、会津藩の大事な物産展にガン首そろえて押しかけてきたんかい!
ふざけやがって、このヒマ人どもめがーっ!!!
モヤモヤする怒りで全身ぷるぷる。
そんな俺に冷めた目をむける近臣。
「なればここはひとつ、みなさまのご期待に添うお裁きをなさらねばなりませぬなぁ」
「なにを他人事のように! 『隠れ』てこその隠れキリシタンが頼みもしないのにのこのこやってきたのだぞ? かような折こそ全力で輔佐いたすがそなたの務めであろう!」
「存じませぬ。御自分でなんとかなさいませ」
アイロニカルな笑みをうかべ、さらりと拒否る能面男。
「かくなる事態におちいったは、殿がわれらの諫言も聞かず、御禁制のキリシタン特集などを組んだせいではありませぬか。自業自得にございます」
「……ぅ……」
「ああ、そうそう。申しあげるまでもございませぬが、この場には大目付・目付衆も多うございますれば、お言葉には十分ご留意を。万が一うかつな発言をなされ、殿がキリシタンと疑われては御家にまで類がおよびますゆえ」
「……ぅぅ……」
お、鬼ぃーーーっ!!!
んなこと言ってるけど、どうせ俺がオタオタしはじめたら恩着せがましく助け舟だすつもりなんだろ?
そのときのドヤ顔が目にうかぶわ。
だが、俺にも意地がある。
てめぇの助けなんざ不要じゃい!
「相……わかった」
必死に涙目をこらえてかえりみれば、真ん前にあるのはキリシタンたちの思いつめたようなまなざし。
そして左右には、実技試験採点中のオヤジどもと、『ざまあ』オーラ全開のイジワル家臣。
さらにそんな俺らを取り囲むワクワク顔の大観衆。
みごとなまでの四面楚歌!
「あー、うー」
境内中の視線があつまる。
「つまり、その、なんだ、そなたらがキリシタンかどうかはひとまず置くとして、んー、先にそなたらの質問とやらを聞こうではないか」
こうなったら、とりあえず時間をかせいで、その間に作戦を立てるしかない。
「なれば、おそれながら」
こんな状況下、ひとりが臆することなく口をひらいた。
さすが、信仰は強し!
「キリスト教を創ったはイエスさまではないというのはまことにございますか?」
……君たち、『さま』付けた時点で完全にアウトね。
「いかにも。キリスト ―― ただしくは、ナザレのイエスであるが ―― イエスは終生ユダヤ教徒であった。つまり、まことキリスト教を創ったは、イエス本人に会ったこともない自称弟子のパウロらということになる」
「「「…………」」」
絶句する一同。
「イエスはあたらしい宗教を創ったのではなく、ユダヤ教を改革しようとしただけだ。ちなみに、ユダヤ教は辺境の一民族宗教であり、かの教えでは、イエスはユダヤ教の一指導者にしかすぎず、神ではなく『人』と定義しておる。
パウロは会ったこともない男を新興宗教の象徴として祀りあげ、イエスが主張していたのとは異なる教えをでっちあげたのだ。
ゆえに、パウロはイエスの高弟十二使徒にはあげられず、レオナルド・ダ・ビンチの『最後の晩餐』にもその姿は描かれてはおらぬ」
「「「れ、れおな、びんち、とは?」」」
「うっ……(げふんげふん)……ほ、ほかに質問はないか?」
たしかにこの時代の日本で、レオナルド・ダ・ビンチって……。
「では」
動顛する俺に、別の男が向きなおる。
「最高位の聖職者であられるローマ教皇が、生涯不犯の掟を破り、王侯貴族以上の栄華を極めていたというのはまことでありましょうか?」
「しかり。とくに中世の高位聖職者は金と女を追い求める者が多く、最も身を律すべき教皇自ら数人の子をもうけることもあった。
三百五十年ほど前の教皇アレクサンデル六世などは、息子チェーザレ・ボルジアとともに、利己的な野心から国中を戦火にたたきこんだ究極のエロエロ坊主だ」
「「「え、えろえ……?」」」
「な、『生臭』の極み、『キング・オブ・生臭っ!』という意味じゃ!」
「「「きんぐ、おぶ???」」」
あ゛ー、さらに上塗ったーっ!
「げに! さような輩にくらべれば、いまの公方さまの方がよほどきびしく身を律しておられるぞ!」
やばい、やばい!
ここは、意外な秘話投入で攪乱を狙おう。
「「「公方さまが!?」」」
「いかにも」
お、食いついた食いついた。
「昨今異国船の来航もふえ、今後の国防費増大を憂慮なされた公方さまは、多少なりとも掛を減らし、できうるかぎり民を苦しめぬようにとの御深慮から、大奥を廃されたのだ」
「「「なんと!」」」
「また、大奥の女子らへの贖いの御心から、生涯不犯を貫く誓いを立てられ、大奥廃止後は一切女色を断っておられる」
(本当は不犯を貫くっていうか……ハナからっていうか……やりたくてもっていうか……)
「さらに、もともとのお暮らしぶりもいたって質素であられ、朝餉・昼餉は一汁二~三菜、夕餉には九品ほど用意されるものの二品ほどしか召しあがらず、残った御供御はすべて近習らに下げ渡されて、酒もほとんどたしなまれぬ。異国の王侯貴族・聖職者のごとき、酒池肉林などは決してなさらぬ御方ぞ」
ま、ここだけの話、家斉さんなんかは、「一年中、毎食鯛を出せ!」とかムチャブリかましたり、妻妾四十人以上とか、相当ゼイタクして、幕府財政を傾けたわけだけど。
「民のために大奥を?」
「女色を断ち、質素なお暮らし!」
「なんたる御仁愛!」
「「「弥栄!」」」
感動したヤジ馬たちから口々に賞賛の声が上がる。
「そのような御深慮が」
「やはり、われらが武家の棟梁」
「「「弥栄!!!」」」
旗本のみなさんもついでに「いやさか」コール。
ありゃ、ちょっとアゲすぎちゃった?
キリスト教。
聖職者。
そういえば、架空のホロコースト『南京大虐殺』を世界中に拡散したのも、アメリカ人宣教師だったよね。
『南京大虐殺』 ―― 日本史の教科書には『南京事件』として載っている事件で、第二次世界大戦中、日本軍が南京市において大量の非戦闘員を殺害したとされている。
でも、あれは当時の中華民国政府がおこなった悪質な政治的謀略宣伝で、実際はそんな事実はないという。
そもそも、人口二十万人の南京市でどうやったら三十万人殺せるんだ?
実際、血も凍る大虐殺があったはずの南京市の人口は、ひと月後には二十五万人にふえている。
つまり、まったくの捏造というわけだ。
怖~~~。
この謀略で大活躍したのは、ふたりの南京在住アメリカ人宣教師。
こいつらは、じつは中華民国政府関係者で、宣教師という仮面をかぶったバリバリの工作員だったのだ。
ふたりの活動の結果、アメリカ国内では反日機運が一気に高まり、ついには、日米対決にむかうことに。
てか、聖職者ともあろう者がそんな大ウソこいていいんかい?
会津じゃ、四、五歳のころから、「嘘言を言ふことはなりませぬ、ならぬことはならぬものです」ってブツブツ唱えてるんだぞ。
こんな『エセ聖職者』にくらべたら、会津のチビッ子たちの方がずっと清らかで尊いわ!
でも、よくよく考えてみたら、戦国時代に来日にした宣教師たちだって、植民地化のための地ならしとして布教活動にいそしんでたわけだし、現代でもキリスト教の名を冠したアヤシゲな宗教団体はごまんとある。
ってことは、宗教を隠れ蓑にして甘い汁を吸う輩、政府や政治家とつるんで暗躍する聖職者は、昔からいたってことか?
あ、なるほど、そういうことね……(ぶつぶつ)……。
「……の、殿!」
――!?――
「な、なんだ?」
「『なんだ』ではございませぬ!どうなさったのですか、さきほどから遠い目をされて!」
……ゔ……!
いかんいかん、つい。
「しっかりなさってください!」
「う、うむ。すまぬ」
「この者ら、まだお聞きしたいことがあるようですぞ!」
「相わかった」
げぇ、まだあるのかよ?
「ならば、早う申せ」
やれやれ、質問っていっても、全部べこコボ通信に書いてある内容ばっかじゃねぇか。
いちおう藩名冠して発行してるから、捏造記事なんてないぞ!
(多少は盛ってるけど)
なにしろ、今日は、歴史的大金星・改良版日露和親条約プラス九州初の物産展。
さらにこのあとは、(たぶん)深夜までオッサンたちとの打ちあげ。
朝からずっと働きづめで、精神・体力使いまくりの過重労働だ。
いいかげん解放してくれよ!
もう「あとはよく読んどけ!」じゃ、ダメ?
「で、では、最後にひとつだけ……」
俺のイライラを感じ取ったのか、ビビりながら許しをこうじいさん。
ったく。この程度でビビるくらいなら、カミングアウトなんかすんじゃねぇよ!
それとも、自爆 → 尋問 → 火刑 → 殉教(うっとり)……でも望んでるのか?
そんな自己陶酔に他人を巻きこむな! 迷惑だ!
とはいえ、先祖代々二百年以上こっそり信仰してきたところに、ある日突然『キリシタン特集』……モロモロはっちゃけたんだとは思うけど。
しかも、「キリスト教を創ったのはイエスじゃない!」だもんね。
真偽を確認したくなる気持ちもわからなくはないが、とにかくこれからは『巻き』でいくからね!




