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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
東京侵攻編
69/207

状況が動き始めたら

MD215年 6/16日 20:10


「歓迎するよ、長老級変異種、天津零時と……予想外の君」


 永村はそう告げるとガラス越しの向こう、空間管理鍵──通称バルザイから開放された二人に笑顔を向ける。

 その笑顔を見た石元は、何度も瞬きをしながら自分が置かれた状況の把握に努めていた。

 そしてもう一人は呼吸を整えながらゆっくりと立ち上がり永村、山坂の顔を忌々しげに見つめる。


「あ、貴方達は……? それにエクィロー……? アマツレイジ……?」


「あー……まあ君は巻き込まれただけっぽいし混乱するのも無理は無いか、でも大丈夫」


 永村はそう言うと、石元へ再び微笑を向ける。


「今回は君じゃなくてその奥の魔族に用事があるからね」


 その笑みを見た石元は、どこか背筋が冷えるのであった。


──────────────────────────────


MD215年 6/20日 15:37


「ではその様に城の者にも伝えておきなさい、少し帰りは遅くなるでしょうが私は無事に帰ると」


 徳川はそう東京の伝令へ伝えると、伝令は頭を下げながら天幕から退出していく。

 そして少し疲れがあるのか、近場の椅子へ座ると自らの右肩を左手で揉みながら顔を顰め、水差しからコップへ水を注ぐ。


「……いつもなら石元が何も言わずとも入れてくれていたのですが」


 そして上を見上げる。

 天幕の外からは薄く日光が差し込み、徳川は目を細める。


「石元……」


 徳川は、天照を庇い消えた石元の事を想い、目じりに涙を浮かべる。

 そんな時、天幕の外から女性の声が響く。


「徳川さん、入室しても宜しいかしら?」


「……ッ! え、えぇ、大丈夫です」


 突然の呼びかけに驚き、徳川は急いで涙を拭くと入室許可を出す。


「では、失礼致しますわ」


 入室許可を出された声の主は、挨拶をしながら入り口をくぐる。


「お怪我の具合は如何かしら、徳川戦さん」


 入ってきたのは豊かなブロンドの縦ロールの髪、豊満なスタイルと美人、そして残念な痴女スタイルのベル・バスティーユだった。

 彼女が入ってくると、徳川はいつもの真面目な顔をしながら頷き、ベルへ返事を返す。


「貴方達の治療が的確且つ迅速だったのですっかり元通りです、敗戦の将にここまでの手厚い治療、礼を言います」


 徳川は数日前、札幌の兵士に弓矢で貫かれた足を見せると椅子から立ち上がりベルへ頭を下げた。


「……顔を上げてください徳川さん、私達は為すべき事を為しただけですわ、これから共に手を取り合うのですし、ね?」


 そう言ってベルは徳川へ頭を上げる様に頼むと、徳川へと近寄り、彼女の手を握る。

 

「貴方の気持ちは有り難いと思っています、しかし……」


「しかしもカカシもありませんわ、お互いあの管理者を名乗る者達に負けた身ですもの、色々と協力していかないと」


 ベルに手を握られた徳川は顔を上げ、ベルの顔を見る。

 彼女の手の温もりが何となく彼女の人となりを徳川へと伝えたのか、徳川は自然と笑みを作る。


「ふふ……」


「あ、あら? 私、何か可笑しなことを言いまして?」


「いえ、何も」


「でしたら、どうしてそんなにおかしそうな顔をしていますのー!?」


──────────────────────────────


 天幕の中に、ベルの声が響く中、その外ではアデルと伊織、そして札幌の軍を率いていたギトが互いに集まっていた。

 その三人の周囲には夏と間違えるような異様な熱気が満ちており、三人は半ばサウナの中と言った環境で筋トレを行っていた。


「301、302、303……」


「402、403、404……」


「998、999、1000……! よし、拙者が一抜けでござるな! 今晩のおかずは戴きでござる!」


 三人は互いに腕立て伏せを行っていたが、規定の回数に到達したのか伊織が一番乗りで腕立て伏せを止める。

 そんな伊織をギトとアデルは両者様々な顔で見る。

 ギトは純粋な敬意、アデルは化け物を見るような顔で。


「ば、化け物かよ……まだ初めて10分も経ってないってのに」


「いや、素晴らしいですな! アデル、我々も負けてはいられんぞ! ぬおおおおお!」


 ギトはそう言うと腕立て伏せをする速度を上げ始め、アデルもギトの熱意に呆れながら腕立て伏せを再開する。

 そうして二人が規定の回数に到達するのには20分以上の時間が掛かるのであった。


──────────────────────────────


 そしてアデル達が筋トレをしている中、アレーラは一人廃ビルの屋上に立っていた。

 ビルの屋上からは海が見え、潮の香りがアレーラの鼻腔を擽る。


「村に居た時は嗅いだ事の無い匂いだったなぁ、この匂い」


 アレーラは手すりへ寄りかかると、海をじっと見つめ昔の事を思い出す。

 ほんの二ヶ月前、彼女は北海道の片田舎で村長や友人と共に平和な生活をしていた。

 だがその平和も突如崩れる事となる、管理者達の凶行によって。


「…………」


 突如現れた管理者達が操る機械は、アレーラを除く村の住人全てを虐殺し、あまつさえ村の守り神であったツリーフォークすら手に掛ける。

 その後彼女はかつて札幌と呼ばれていた都市サツホロへ助けを求め、結果としてサツホロは管理者達との戦争に負け、傘下へ下る事となる。

 そして、今回の戦い。

 彼女は疑問に思っていた、何故管理者の人たちは戦いを求めるのだろうかと。


「あの人は、仕事だって言ってた……」


 札幌が管理者達に負けた後、アレーラは山坂、田崎に何故自分の村を襲ったのか尋ねた事があった。

 その問いの答えは『仕事』の一言である。

 その言葉を思い出すだけで、アレーラの身が震えた。


「アデルさんやサツホロの皆さんを助けるのは構わない……でも、私みたいな人を増やす手伝いはこれ以上は」


 アレーラの頭の中には、今回の戦場の様子が思い浮かんでいた。

 天照捕獲の為に戦場に出たアレーラは、その凄惨な現場を見てここ数日眠れていなかった。

 ある程度実戦の経験がある札幌の兵士達ですら、戦場の光景を見て愚痴をこぼしていた。

 

「今回みたいな戦いが起きて、沢山の人が死んじゃうんだとしたらやっぱり止めないと……」


 だがどうすれば良いのだろうか。

 彼女は非力な存在である、現在はサツホロの兵士という形ではあるが実際の所、野生の熊と遭遇するだけで殺されてしまうレベルである。

 それを考えると、アレーラは下に居るアデルやベルの様に笑顔を作る気にはならなかった。


「はぁ……」


「何か悩み事か?」


「えっ!?」

   

 突然声を掛けられアレーラは振り向く。

 そこには身長174センチ、黒髪スポーツ刈りの白衣の男が立っていた。

 アレーラはその顔に見覚えがあった、そう、あれは……。


「えっと……あの、あなたは……前にサツホロで?」


「山坂と一緒にな、そういやあの時はちゃんと挨拶してなかったか、俺は田崎、田崎龍次だ」


 田崎はそう言って、アレーラへ右手を上げる。

 そしてふと、何かに気がついたのかハッとした顔をする。


「そういえば君の名前聞いてなかったな、何て名前なんだ?」


「あ、あの……アレーラ・クシス、です」


「お、そうか! んじゃアレーラ、何か悩み事でもあったのか? 深刻そうな雰囲気で立ってたから気になってよ」


 アレーラの名を聞き、田崎は朗らかな笑みを作ると再びアレーラへ聞き返した。


「えっと、その……」


 そこでアレーラは言いよどむ、田崎は見た感じ明るく、山坂よりは話が通じるタイプに見える。

 だが実際はどうなのだろうか、彼もまた管理者の一人とサツホロでの演説で見た。

 ならば……私達を『仕事』と言い、虐殺を行ったあの山坂と何が違うのだろうか。

 ここで自分の悩みを打ち明ける事は、今後彼女やサツホロ、あるいは他の誰かに迷惑を掛けないだろうか、彼女はそう思った。


「さ、最近体重が増えちゃって……どうやって減らそうかな~って……あははは……」


 なので誤魔化す事にした。

 あからさまな作り笑顔で田崎へ返答する。


「あ~、体重かぁ……女の子は色々大変だもんな! 俺は役に立てねえわ!」


 すると、田崎はそれを信じたのか納得したように頷く。


「あ、あの……それじゃ私、仕事があるので」


 そして、アレーラは早めに話を切り上げると田崎の横をすり抜け屋上から出て行こうとする。

 そのすれ違い様、田崎は呟く様に、だがアレーラへ聞こえるようにはっきりと言う。


「戦いは終わらんぞ、少なくとも……現状の魔族が全滅するまではな」


「! ……失礼します!」


 田崎の言葉に、アレーラは目に涙を浮かべながら走り去る。

 扉が勢いよく開けられる音がし、走り去っていく彼女の足音を聞きながら田崎は遠い目で海を見つめていた。

 先程のアレーラの様に。


「やれやれ、女の泣き顔には弱いんだよなぁ俺は」


 そして左手で頭を掻くと、再び海を眺めるのだった。


──────────────────────────────


「なにぃ!? トウキョウの軍勢を打ち倒した挙句神様捕まえて配下にしたぁ!? 儂初耳じゃけど!?」


「はい、今初めてお話した情報ですので」


 札幌市庁舎、その執務室で札幌を治める芽衣子は目を丸くしていた。

 元々ナーガである彼女だが、今回の丸くなりっぷりは凄まじいものだった。


「それでその件で芽衣子様に東京へと来ていただきたいと思っています」


「おー……おぉ!? 南方へと!?」


 芽衣子は執務室の自分用の椅子を回転させると、自らの秘書であるエンリコへと顔を向けた。

 エンリコは額に手を上げながら、やれやれと顔を横に振る。


「いやー仕方ないのー! 仕事じゃからなー! 儂実は行きたくないんじゃが仕事ならのー! トウキョウとかぜんっぜん行きたくなかったんじゃけどなー!」


 と満面の笑みを見せながら、更に椅子を高速で回転させ始める。

 そんな芽衣子を見ながら、白金の体を持つロボット、ペスは連絡事項を告げていく。

 出発する日時や予定、話す内容についてなど。

 だが芽衣子の頭の中は最早東京一色になっており、殆ど聞いていないのであった。


「では、連絡はしましたので私はこれで」


 ペスはそう言って芽衣子へ頭を下げると、執務室を出て行こうとする。

 

「ん? おぉ、もう行ってしまうのか? もう少しゆっくりしていっても……」


 全く話を聞いていなかった芽衣子も、流石に出て行こうとするのには気づいたのか椅子を止めるとペスを呼び止めようとする。


「申し訳ありません、これから田崎様の所へと飛ばねばなりませんのでこれ以上の時間を割く事は出来ません」


「う~む、そうか……折角トウキョウについて色々聞こうと思ったんじゃが」


「芽衣子様、遊びに行くのではなく私達は……」


「わかっとるわ! ちょ~っと旅行……じゃなくて出張先について調べるくらいええじゃろが!」


「本音が出てます、本音が」


「……ふっ、では私はこれで失礼します、後日またお会いしましょう」


 エンリコと芽衣子のやり取りを見て、ペスは再び頭を下げると部屋から退出していく。

 そんなペスをじっと見つめ、芽衣子の動きが固まる。


「芽衣子様、聞いていますか?」


「ん? あぁ、うむ……なぁエンリコ」


「お小遣いは出ませんよ」


「違うわ! 今、ペスが出て行く前……あやつ笑わなかったか?」


「え?」


 芽衣子の質問を、エンリコは一笑に付す。


「ハハハ芽衣子様、流石にはしゃぎすぎでは? ゴーレムが笑う等と聞いた事がありません」


「むぅ……そうかのー、絶対今笑ってたと思うんじゃが」


 エンリコの返答に、芽衣子は頬を膨らませ文句を言い……そして今後のトウキョウ旅行について再び考え始めるのだった。


「楽しみじゃなー! トウキョウ旅行ーー! 蕎麦食うんじゃー儂ー!」



誕生日プレゼントにポケモンを友人から買ってもらったので一週間ぶりの初投稿です


エンリコ・バーン  白白


絆魂(このクリーチャーがダメージを与えた場合、あなたはこのクリーチャーのパワーに等しい数のライフを回復する)


伝説のクリーチャー:人間・秘書


2/2


「面白みも無くて融通効かないんじゃが?」

 ───芽衣子

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