不和を解く方法を見つけたら
MD215年 5/8日 AM9:11
「ぐすん……何もあそこまで怒らなくともいいではないか……」
札幌市庁舎執務室にて、芽衣子はいじけていた。
「当然の結果です、これからはあまり気楽な外出は控えてですね……」
いじける芽衣子へエンリコが更に説教を重ねようとした時、ドアをノックする音が執務室に響く。
「申し訳ありませんが今は取り込み中で……」
「いいや! 入ってきて良いぞ! むしろ入ってきて!!」
エンリコが入室を拒否しようとするが、それをかき消すように芽衣子が大声で入室を許可する。
「失礼いたしますわ。」
「し、失礼します……」
「入室許可、ありがとうございます」
「失礼いたします」
芽衣子が許可を出すとドアが開き、入り口から最初に2名の人間と遅れて一体のロボットが入室する。
ロボットの方は入り口が低すぎて頭を下げながらの入室であったが。
その3名の入室を見たエンリコは芽衣子の前から脇へどける。
「む、お主達じゃったか」
「となるとその……あー、金属の方が外交官かの?」
「ペスと申します、ですがゴーレムという呼び方でも結構ですよ、市長」
「お気遣いは無用です」
芽衣子がペスの呼び方に困り温和に呼ぶが、ペスが即座にそれを訂正する。
「いやいや、外交官に当たられる方をゴーレム呼びは流石に不味いからの」
「ペス殿じゃったか、儂はサツホロの市長を務めておる芽衣子じゃ」
「儂の事は芽衣子ちゃんと可愛く呼んでもええぞ?」
と芽衣子が頬に両手の人差し指を当て笑顔を作って可愛い子ぶると、執務室に冷めた空気が流れる。
「……ごほん! では私達はこれで失礼しますわ」
その空気を最初に裂いたのはベルだった。
「お、おぉ……そうじゃな……」
「此度はアレーラ、ベル両名共に急な仕事を押し付けてすまなかったの」
「後で謝礼でも送るとしよう」
「い、いえそんな……! 謝礼だなんて私……」
とアレーラが困惑するが、ベルが割って入る。
「まあまあ、いいじゃありませんの」
「感謝の気持ちを受け取る事も大事な事ですのよ?」
「そ、そう……かな?」
「うむ、役割を果たした者には相応しい褒章を与えねばならんからな」
「遠慮せず受け取るが良いわ」
「えっと……じゃあ、はい」
「有り難く戴きますね、市長様」
とベルと芽衣子両名に受け取れと言われ、アレーラは頷く。
「では、私達はこれで」
「何かあればまたお申し付けください」
そう言うとベルは芽衣子、ペスへお辞儀をして退出していく。
「し、失礼します!」
それを見たアレーラもベルの見よう見まねで、お辞儀をしながら退出していった。
扉が静かに閉まると、芽衣子が口を開く。
「……さて、まずはこのサツホロへようこそ外交官殿」
「少々座りにくいかもしれぬが、そちらのソファへどうぞ」
と芽衣子はペスへ執務机の前にあるソファへの着席を促す。
「お気遣いは不要と申したはずですが」
「他国からの外交官を立たせたままとあっては、こちらの沽券に関わる話なのでな」
「それに立ったまま話されるのも話しづらいもんじゃ」
「こちらの為と思って着席をしていただけぬかの?」
ペスは芽衣子の提案を最初は断るが、芽衣子は再び着席を促す。
芽衣子の言葉にペスは多少の思案を行うが、歩き出しソファへと着席する。
「……では、失礼します」
ペスがソファへと座ると、芽衣子も自らが座っていた豪華な椅子から降りペスの向かいのソファへと移動し始める。
「エンリコ、客人へ茶と菓子を」
「はっ、畏まりました」
エンリコは芽衣子からの指示を受け、隣の部屋へと退出する。
芽衣子はエンリコへ指示を出すと、ソファへと腰掛ける。
「うーむ…やはりナーガの儂にはこのソファっちゅうのは座りにくいのう」
座り心地が悪いのか、芽衣子は何度も体をずらす。
「ま、そんな事はどーでもいいんじゃが……」
「どうじゃった? サツホロを見て回った感想は」
芽衣子は体の位置を直し終わると、ペスの顔を真っ直ぐと見据えて話す。
「どう、とは?」
「言葉通りの意味じゃよ、見て回った気持ちを聞きたい」
「……そうですね、これは私の意見ではなく客観的な分析となりますが」
「技術レベルが戦前に比べ著しく劣っています、また様々な魔族が入り乱れていますが円満な関係を築いている事には驚きます」
「戦前であれば魔族同士の差異で小規模な衝突やいがみ合い等も起きていましたので」
「ふむ……、技術レベルが劣っておるのはまあしょうがないとしても」
「お主の目から見て、円満な関係が築けていると見えたのであれば嬉しいの」
「はい、しかし逆に私を見る目は厳しいものがありました」
「恐らく先日の戦闘の影響だとは思いますが」
芽衣子はペスの意見に喜ぶが、その後に続いた単語には溜息を吐く。
「そうなんじゃよなぁ……、其処が問題なんじゃよなー」
「今後協力していくにしてもそんな感じでは進軍中や普段から問題が起きかねん」
「まあ其処に関しては後日詰めるとするかの」
其処へ扉が開く音がし、エンリコが二人分のお茶の入った湯のみと茶菓子を持って入室してくる。
エンリコは二人の間にある机に湯飲みと菓子を置くと芽衣子の脇へと控える。
「うむ、すまんのエンリコ」
芽衣子はその湯飲みへと手を伸ばすと、お茶を飲み始める。
「ではそろそろ本題へと入るかの、この間そちらへ出した要求じゃがどの程度飲んでくれることになったんじゃ?」
「はい、まず物的、人的損害についての補償ですが物的損害はこちらのソーレン……作業用ゴーレムが補修を行います」
「人的損害についてですが一時的にこちらのソーレンをお貸しする事にしようかと、しかし数に限りがある為建物の補修と兵士転用への割り振りについてはそちらに一任致します」
ペスはエンリコが置いた湯のみを眺めた後、話し始める。
「女王蟻を失ったことによる代替戦力の補填についてですが、これに関しては蟻の生態を解析してからにしたいというのが我々の見解です」
「蟻の生態? 何でそんなものを調べる必要があるんじゃ?」
「必要な事だからです、何か問題でも?」
蟻の生態を調べたいという言葉に芽衣子は疑問を投げかけるが、ペスは事務的な態度で答える。
「……いや、そちらが必要であるというなら問題は無い」
「はい、ありがとうございます」
「では議題3の外交官に関してですが、以後は私が勤めさせていただきます」
「改めまして宜しくお願いいたします」
ペスはそう言うとソファに座ったまま芽衣子へ頭を下げる。
「そして議題4と5の白化現象と虐殺についてですが、行った理由としましては汚染物質の除去の為です」
その議題に入ると芽衣子の眉がぴくりと動く。
「汚染物質?」
「はい、生物へと病を媒介する物質が付着していた為にソーレンと巨大戦車を用いた浄化活動を行いました」
「病……? そんなものは初耳じゃが、それにそんなものがあったとして何故お主達がそんな行動を?」
「それに答える権限を私は持ち合わせていません、私はあくまで行動の理由を説明しただけです」
「ぬぅ……」
芽衣子の問い返しにペスは再び事務的な会話で返し、芽衣子が眉を顰める。
「では残りの議題ですが……」
そうしてペスと芽衣子は残りの議題についての話し合いを続けていく。
──────────────────────────────
「そういえば、貴女はこれからどうしますの?」
市庁舎の階段を下りながら、ベルは後ろを歩くアレーラへ声を掛ける。
「え? これから、ですか?」
「特には予定はありませんが……」
「あら、そうですの」
「でしたら私に付き合いませんこと?」
「私、これから南口へ置いてきた馬を回収してから知り合いへ訓練を付けに行くんですの」
「訓練、ですか?」
訓練と聞いて、先日の戦いでソーレンに襲われた事がアレーラの脳裏に蘇る。
「えぇ、訓練は皆でやった方が捗りますもの」
「参加しなくても見ているだけで学べる事もありますし……どうかしら」
「でもいいんですか? 私、この間魔術を教わったばっかりですし脚を引っ張ったら……」
アレーラの言葉を聴いて、ベルは笑い出す。
「おーっほっほっほ! 何を仰いますの! むしろ初心者だからこそ訓練するんですのよ?」
「貴女が嫌だと言うなら無理強いはしませんけれど」
「……いえ、行きます」
「やらせてください!」
アレーラは拳を強く握る。
以前ソーレンに襲われた時、芽衣子が操る蟻が助けてくれなければ一緒に居た少年も私もどうなっていたか分からない。
ならばせめて、自分の周りの人は自分の力で助けられるようになっておきたい。
アレーラはそう思った。
「ふふ、貴女ならそう言うと信じていましたわ」
「今日教える相手もきっと喜びますわ」
「……?」
「おーっほっほっほ! 何でもありませんわ!」
「では行きましょうか! 私達の輝かしい強さの美を求めて!」
ベルは高笑いをし、二人は共に市庁舎から出て行く。
──────────────────────────────
「うーん……遅いなあの士長」
訓練場では赤毛の男が一人、訓練用の木剣を握って立ち尽くしていた。
「ぶえーっくしょい!」
「……寒い」
ベルとアレーラが馬で駆けつけるのはこれから10分後のお話。
暇つぶし以下略
次:部隊編成を始めたら
シャドウバースのネクロマンサー微妙…微妙じゃない?お前どう?




