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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
札幌制圧編
17/207

撤退が上手くいったら

MD215年 4月29日 AM10:57


「ちっ!しつこい野郎どもだ…なぁっ!」


 後方から飛び掛ってくるゴーレムへトカは斧の一撃を振るい、叩き落す。

 地面に叩き落ちたゴーレムは煙を噴出しながら動きを止めるが未だ複数のゴーレムたちがガラール、トカを追いかけていた。

 そしてゴーレムが機能を停止すると再び三体ほどのゴーレムが上空から閃光と共に現れる。

 逃走中もゴーレム達は倒せば倒すほどその数を増し、今や30体程のゴーレムに二人は追われていた。


「くそ、やっちまった…!」


「おい!大丈夫かトカ!」


 併走するガラールがトカへと大声で呼びかける、そのわき腹からは失血しており苦悶の表情を浮かべていた。


「あぁ、まだ何とかな…あのよく分からん波は食らっちゃいねえよ。」

「そういうお前はどうなんだ、その傷…自前で治せねえのかよ?トロールっていや再生能力持ってるのが普通なんだろ?」


 トカの言う通りであった、トロールという種族は緑色の強靭な皮膚と膂力、そして人体の再生能力を兼ね備えておりまた呪文の対象となり難いという戦闘では無類の強さを発揮する種族なのだが…


「いや、駄目だ…あの波に当たった部分の感覚がまるで無い、それどころか当たった周囲もだ。」

「こりゃだいぶ厳しい戦いになってきたな…。」


 ガラールはそう言うと蟻に括り付けた鞄から金属製の丸い玉を一つ取り出し、それから飛び出している丸いタグを噛み、引き抜く。


「これが最後の一発だ、後は奴らが今まで投げたこの音に気づいててくれる事を祈るしかねえな!」


 タグを引き抜くとそれにくっ付いていたピンも抜け、引き抜くと同時にゴーレムたちの居る後方へ玉を投げ捨てる。

 その玉が投げ込まれるとゴーレムたちは急制動を掛け、回避を行おうとする。


「対した学習速度だが…そりゃあめぇよ。」


 回避を行おうとするゴーレムの胸をガラールが小型の弓を構え、射抜く。

 その後玉が爆発し、周囲には内部に詰まっていた魂の叫び声と爆発が巻き起こりゴーレムを数体破壊していく。

 しかし大部分のゴーレムは動きを止めずそのまま走り続け、ガラールへ飛び掛る。


「ちっ!くそったれが!」


 とガラールが迎撃しようとした瞬間、光の槍の様なものがゴーレムを貫きそのまま地面へと叩き付ける。


「……やっと抜けたか!」


 ガラールが正面に目を向けると、蟻の上で両手を玉を覆うような形にしたままの倖が居た。

 更にその隣には蟻に乗ったまま臨戦態勢を整えているガリア、ジャザルの二人も居た。

 三人は森から抜け出してきた二人とその背後のゴーレムを見て目を丸くしていた。


「…ちょっと!ベイロスか何かに絡まれてるのかと思ったら…何よこれ!」


「うーむ…ゴーレムに見えますぞ?ガリア殿。」


「たいちょー!無事ー!?」


「うおおお!やっと戻ってこれた!」


 と四者四様の喜びを表現していた。


「込み入った話は後だ!さっさと逃げるぞ!ガリア、蟻のコントロールを頼む!」


 ガラールはすぐさま叫び、全員に撤退の指示を出す。


「言われなくたって……! ケツまくって逃げるわよ!」


 ガリアは目を閉じ精神を集中させ、五人が跨る蟻へ飛行の意思を届ける。

 蟻達は即座に羽を広げ、羽ばたかせ始める。


「よし…!このまま…!」


 ガラールとトカの蟻もまた羽ばたきを始めるが、ゴーレムたちが蟻が地面を離れるよりも速く追いついてしまう。

 徐々に体を浮かせ始める蟻だが、飛ばせまいと蟻の足や尾に群がるゴーレム達。


「くそ…!邪魔だ!退け!!」


 ガラールは蟻へ当たらないようにゴーレム達を叩き落すが、叩き落すたびに新たなゴーレムが飛びつき飛行を阻止する。


「うおおお!くそ!くそったれ!あと少しで逃げ切れるってのに!!」


 トカもまた斧を右手で細剣を左手で振るいながらゴーレムへと対処していくが、徐々に蟻はゴーレムによって地面へと引っ張られ、そのまま叩き落されてしまう。


「ぐおっ!」

「いってぇ!!」


 二人はそのまま蟻から振り落とされ、蟻もまた地面へゴーレムの重みで押しつぶされてしまう。

 蟻を地面へと落下させたゴーレム達は蟻の頭部へと紫色の波を胸の球体から発射し、消し飛ばし再びガラール達へ走りかかる。


「…ちっ!」


「くそ!俺のブラックタイフーンを…てめぇら!」


 地面を転がった二人は蟻が殺されたことを知り、トカは憤慨しながら、ガラールは残りの三名と合流する為に立ち上がり走る。

 ゴーレム達は走りながら胸の球体を発光させ、飛び上がっている三名にも波を放つ。


「ぬぅ、皆さん回避を!」


 波は人間が放つ矢よりは多少速い程度の速度で飛びながら三人を掠め、蟻の足先等が消滅する。


「あぁもう!何なのよこいつら…!」


「へ、変なもやもやした紫色のに当たったら私の蟻の足が消えちゃいましたぁーー!?」


 ガラールは三人へ走りながら左手で頭を掻き、右手でゴーレムを払いのけながらどうしたものかと思案する。

 このままでは何れ俺たち二人が追いつかれて捕まって殺されるか先に空の3人がやられて結局逃げられなくて全員死亡か…。


「おいトカ!」

「お前上の3人を逃がす為に此処で死んで家族が市長からの補填金貰うのと、此処でわずかな望みに掛けて5人で脱出するのどっちがいいよ!」


「あぁ!? お前何言って…!」


「どっちかって聞いてんだよ! 答えろ蜥蜴野郎!」


「そりゃお前…出来れば全員生存だが!?」


「……ったく、しょうがねえな! 全員生存は奇跡が起きないと無理だ! よって俺は足止めとして残る!いいな!」


 ガラールはそう言い切ると立ち止まり、背中から自慢のハンマーを下ろすとそれを迫るゴーレム達へ横薙ぎに振るう。

 その衝撃は凄まじく3体のゴーレムが連なり吹き飛ばされていく。


「お、おい!てめぇ!何一人で格好つけようと……!」


「止まるんじゃねえ! これが最善手だ! そうやって感情に任せてるからお前には隊長は任せられないんだよ!」

「お前は市長にこいつらのことを全部伝えて来い! その後俺を助けに来るんだ、いいな?」


 トカが立ち止まろうとするとガラールは怒鳴り、トカへと指示を飛ばす。


「……お前、そんな事いきなり言われたって。」

「あぁ、くそ!くそ!!死ぬんじゃねえぞ!」


 トカは立ち止まろうとするが、代わりに自らが持っていた斧と鞄をガラールへ放り投げ、3人の元へと走っていく。


「あの馬鹿……! 一人で立ち止まって、死ぬ気!?」


「隊長……!」


「……隊長殿! 貴方のサツホロへの献身、決して忘れはしませんぞ!」


「倖! トカの回収へ向かって! 拾ったら即撤退!」


「は、はい!! でも隊長は…!?」


「死にたいってんなら、死なせてやりなさいよ! 全員死ぬよりは合理的な判断よ!さっさと行く!」


 ガリアは倖へと指示を飛ばし、トカの回収へと向かわせる。

 倖は蟻を急降下させ、トカの元へと舞い降りる。

 トカの背後ではガラールが鬼神の如き戦いぶりを見せており、押し寄せるゴーレムをハンマーで磨り潰し、ゴーレムの放つ波で肉体に穴が開きながらも足止めを続けていた。


「トカさん!! 乗ってください!」


「わりぃ! 倖!」


 トカは蟻に乗る寸前、ガラールへと振り返り……


「……すまねえ、隊長」


 そう呟き、蟻に騎乗した。

 トカが乗ったことを確認した倖は、即座に蟻を羽ばたかせ二人が待つ上空へと舞い戻った。

 倖が戻ったことを確認したガリアは、蟻へと市長が待つサツホロへと全速で戻るように意思を伝えた。

 蟻はその意思を受け取りその場を離れていった…。


 部隊の全員がその場を離れていく最中、一人足止めを続けるガラールから目を離さなかった。


──────────────────────────────


「はぁ……はぁ……い、行ったか」


 部隊の4人が飛び去った後、8機のゴーレムを破壊したガラールはついに力尽き、その四肢には波によって修復不可能な穴が開いていた。

 そのガラールの周囲をゴーレム54機が取り囲み、数機がガラールの前へ進み出て胸の球体を発光させる。


「ここまでか……、とはいえ役割は果たした」

「……市長、報奨金幾ら出してくれるんだったか」


 ガラールは自らの最後を悟り、目を閉じ直ぐに訪れる安息を受け入れようとしたその時──


 ガオオオオオオン!という周囲を振動させる雄叫びと共に森の樹を倒しながら地面を踏み鳴らしその巨体は現れた。


 ベイロス──筋肉質な四肢と鋭い牙、全身に鋭い刃物のような棘の突起を持つそれは森林の捕食者の頂点。

 そしてそのベイロスの固めは潰れており、この森での厳しい生存競争を潜り抜けた強者の風格が見て取れた。


「おいおい……まじかよ」


 ガラールはベイロスがゴーレム達、とりわけ自身へと向かって全速で駆けてくるのを見て地面へと倒れこむ。


「ゴーレムに殺されるのもベイロスに食われるのも一緒だな…」


 と言葉を残し、目を閉じたのだった。




 その後周囲にはベイロスの破壊の爪あとと、ゴーレムだった金属だけが残っているのだった。

暇(Ry

次:市長へ報告したら

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