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人類ガバガバ保護記   作者: にっしー
北米編
120/207

自由の身になったら

https://www.youtube.com/watch?v=imTMxluO6SI

ペルソナ5 RESULT

MD215年 9/10 11:58


 広大なグラウンドに木とコルクがぶつかり合う心地良い音が響く。

 ベルは思いっきりバットを振りぬき、その金髪と巨乳を揺らした。

 ボールは小気味良い音が虚空へ消えていく様に、遠くへ遠くへその軌跡を伸ばし……錆び付いたフェンスを飛び越えていった。

 歓声が上がる。

  

「打ったーーーーー! グングン伸びる!! 入るか……!? 入るか!? …………入ったーーーーー! ホーーームラン! 492号選手、一回の裏から先制ホーームラン!」


「うおおおおーーっ!」


「おーっほっほっほっほっほっほ! 私の優雅なスイングが目に入りまして!? さぁ、華麗にダイアモンドを踏んでいきますわよ~!」


 ベルはバットを外側へと放り投げると、ガッツポーズのまま一塁、二塁、三塁とスキップしながら回っていく。


「皆様、ご覧になりましたでしょうか! 御機嫌よう! ベスボル公式実況、ベスボルある所どんな所にも現れるウルチーです! ベスボル界に新星登場です!」


 グラウンドの上空から声と羽ばたき音が響く。

 頭は鷲、胴体は人間、だが腕や足は鳥の魔族……エイヴンが右肩に大きな撮影用のテレビカメラを担ぎながら熱弁をふるう。

 エイヴンは上空からカメラをベルへと向け、その動きを追っていく。


「現在この映像はアメリガ全土のベスボルファンの皆様へと送られております! いやー、それにしても素晴らしい! 何と彼女、ついこの間この監獄へと送り込まれた極悪人!」


 ウルチーはカメラを操作し、ベルを拡大しながら更に言葉を続ける。


「何と旧世代の異物アーティファクトを用い、海の向こうから侵入してきたそうです! そんな危険人物も、大天使様が我々に教えてくれたベスボルの力で今や立派なベスボルプレイヤーに! 素晴らしい、素晴らしいですベスボル!」


「…………結構な言われようですわね」


 ベルはベースを回りながら、エイヴンの大声に少し呆れた顔をした。

 そして上に向けていた顔を前に戻すと、彼女はホームベースへしっかりと足を着ける。


「さぁ492号改めベル選手、今ホームベースを……踏みました! 一点先制! これは予想外のゲームスタートになりましたーー!」


「す、凄いですベルさん! あんなに遠くまで飛ばせるなんて!」


「ふふっ、私に掛かればこんなものですわ! さぁ皆さん、どんどん点を取りますわよ!」


「いぇっさー!」


 ホームへ戻ってきたベルを仲間達が出迎える。

 アレーラは感極まった顔でベルの手を取り、チームメイト達は敬礼で彼女を迎えた。

 ベルは裁判が終わってからの九日間、言語の習得とこの地域の常識の習得、更には持ち前の軍隊経験を活かして味方を作っていたのだ。

 今回のベスボル参加者もまた、その時作った仲間である。


「それじゃあベルの姉御、いってきやっす!」


「えぇ、任せましたわよマイコウ!」


「ポーゥ!」


 マイコウと呼ばれた黒人っぽい白人は力強く頷き声高に叫ぶと、ムーンウォークで打席へと向かった。

 ベルはマイコウが打席に立つのを見送ると、錆び付いたベンチへと腰を下ろした。

 ベンチは、ギシギシと軋む音を立てながらベルとアレーラの体重を支えた。


「……何か、凄いですね」


「おーっほっほっほっほ! それ程でもありますわ!」


「それにしても何時の間に知り合いを……?」


「寝る間を惜しみましたわ! 後はまぁ……色々と」


 ベルは、何故か少しだけ顔を逸らしそう言った。

 アレーラは不思議そうな顔をしながら首を傾げたが、深くは追求しなかった。


「ところであの……さっき私この皮で出来た大きな手袋を貰って立ってましたけど……今、一体何をやってるんでしょうか」


「……そういえば説明しないまま連れてきましたわね」


「はい……正直何も分からないまま立たされるのはちょっと怖かったです」


「それはすみませんでしたわね、えぇ、それでは説明しますわ!」


 遠い目でアレーラはグラウンドを見ると、ベルは気まずそうな顔をした後、自らの胸を叩き大仰に言った。


「まず、今やっている競技ですが正式名称はベスボルと言うそうですわ。 何でも最終戦争直後に混乱するこのアメリガを統一するのに、血を流さないで物事を解決する方法として大天使と言うのが教え広めたのが源流です」


「へー……戦いじゃなくて運動で解決しようって事ですよね?」


「そうなりますわね、知的且つ誰も傷つかない素晴らしい案だと私は思いますわ」


「そうですね……! 私もこういった形での競い合いなら誰も傷つかなくて良いと思います!」


 アレーラは大きく頷き、グラウンドでベスボルをする味方に目を移した。

 マイコウは相手の投手が投げたボールへ向け、闘志を燃やしながら打席でバットを構えていた。


「それじゃ、次に競技の内容に移りますわ。 と言ってもそんなに細かいルールは無くて、基本は玉を棒で打つだけです」


「さっき遠くから見えましたけど……結構単純なんですね」


「えぇ、後は玉が飛んでいっている間に塁と呼ばれるマスに進軍して最終的に打った位置まで戻ってくれば点が入るという形式です」


「他に決まりは無いんですか?」


「あるといえばありますけど……精々応援は声だけで済ませるとか、持ち前の技術は使ってもいいとかその程度ですわね」


「……技術?」


 アレーラは首を捻る。

 ベルが頷き、次の言葉を紡ごうとした時に歓声が上がる。


「おーーーーっと! マイコウ選手、ベル選手に続いてのヒットです! これは凄い! 皆様ご覧になりましたでしょうか!? 魔術による軌道変化するボールを、マイコウ選手バットを瞬間的に二度振る事で無理やり当てました!」


「まぁ、あんな感じですわね」


「へ、へー…………魔術の使用とかも、良いんですね……」


「えぇ、ですのでしっかりと有用な人材を選び抜きましたわ!」


 自信満々に頷くと、ベルは両手を口に当て次の打席に立った仲間へと応援を送った。


「マイコウに続くんですのよー!! この試合に勝てば自由ですわーーー!」


「…………ふふっ」


 応援に振り返ると、サムズアップを返す仲間を見たアレーラは笑いを漏らした。

 そして、ふと疑問が頭を過ぎった。

 

「私達はこうやって直ぐに仲良くなれるのに……どうしてあの人たちはあんなに誰かを憎めるんだろう……」


 ベルとアレーラ、二人をアメリカの地へ送り出したあの男達に対する疑問が。

 その疑問の声は、試合に熱中する仲間には聞こえなかった。


────────────────────────────────────────


「ゲームセット! 点数8:3で492号チームの勝利とする!」


 審判役の天使が、Tの字型の槍を高々と空へ掲げ試合終了を告げる。

 試合相手であったモハメドは、悔しそうな顔をしながら地面に片膝を突く。


「くっ……! まさかこの俺が負けるとは!」


 悔しがるモハメドに、ベルはゆっくりと近づくと右手を差し出した。


「良い試合でしたわ、モハメド……貴方の事は最初は気に入りませんでしたが、試合を通してその気持ちも変わりました。 今ならもっと仲良くできる気がします」


「お前…………」


 モハメドはゆっくりと頭を上げる。


「次は負けねぇさ」


「えぇ、外で待ってますわ! またいつでも挑んでらっしゃい!」


 二人は固く手を握り合い、グラウンドは拍手に包まれた。

 こうして、アメリガでの初めての闘争は終わった。

 そして……二人は自由になり……その代わりに。


「よーし、今日からここがお前が暮らす監獄だ」


「あれ!? アレーラとベルじゃん!?」


「聞いてるのか新入り! いきなり極卒の事を無視とは良い度胸だ、こっちへ来い!」


「うるせー! おーい、アレーラ! ベルーーー!」


 赤毛の男が監獄へ収監された。


「……今何か聞き覚えのある声が聞こえたような」


「気のせいじゃないですか?」


「そうですわね! それじゃあ自由への凱旋と行きましょう! ヒアウィーゴーですわーー! おーっほっほっほっほっほっほ!!」


 そして二人は気づく事も無いまま、自由の身となった。




毎月一枚ずつ位挿絵が届きそうなので初投稿です。

その代わり給料が吹っ飛ぶがそんな事は些細な事だ……

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