95 姉の仇
「……っ、貴様、どうしてそれを……!」
はい図星。
状況証拠とセリフだけで言い当てちゃったの、私にしては出来すぎかな。
けど、私だからこそわかったのかも。
「なんとなくわかったから、かな。アンタの思考パターンが」
私だって、もしも仇がとっくに死んでたら、生き返らせてから殺したいって思うもん。
「かなり嫌だけどさ、似てるのかもね、私たちって」
「……一緒にするな。お前なんかと、勇者なんかと、一緒にするなァァッ!!!」
おっと、はじめてだな、コイツが声を荒げるの。
ものすごい速さで詰め寄られて、ナナメに斬りつけてきた。
顔のスレスレをかすめて、体勢が少しだけ崩される。
「お前と似ているだなんて、虫酸が走る! 黙ってボクに殺されろッ!」
「黙らないし、殺されないってば」
続けて、力任せの右の横斬り。
なんとか体勢をととのえて、バック転でかわしながら距離を取る。
「アンタの目的、なんとなくわかったけどさ。一つ腑に落ちないことがあんだよね」
コイツの強さ、やっぱりかなりのモンだ。
今の私の力でも、かなり苦戦しそうなくらいに。
「姉が勇者に殺されたっつってたけど、そん時アンタはなにしてたのさ」
「戦いの最中にベラベラとッ!」
来た、高速突進。
片足を後ろに下げる姿勢のあと、姿がぶれたその瞬間。
タイミングをはかって、横に飛び込みで回避。
ゴロンと転がり、すぐに起き上がって敵の方をむく。
「姉が殺されるってのに、アンタはなにもしなかったわけ? 【ギフト】がなくてもこんだけ強いのに? ちょっと間抜けすぎない?」
「黙れっ! あの場にボクはいなかった! 姉が死んだ戦場に、ボクはいなかったんだ!」
煽って感情をたかぶらせれば、色んなことを言ってくれると思ったけど、想像以上だね。
あと、戦い方も乱暴になってきた。
【ギフト】も使わず突っ込んできて、力任せに剣をブンブン振りまわす。
「ボクはあの時、軍人じゃなかった! だから、姉の死を知って、ボクは……っ!」
「軍をめざしたってワケか」
太刀筋も踏み込みもめちゃくちゃ。
リーダーとギリウスさんに軽く稽古つけてもらっただけの私でも、そのくらいはわかる。
そのくらい、今のコイツは動揺してるんだ。
「だけど、だけど……っ、ボクが前線に送られた時には、もう……っ」
「勇者さま御討ち死に。あんたの仇はこの世からいなくなっていた、と」
振り上げた拳を下ろせないまま、コイツはどんな気持ちだったのか。
もしもブルトーギュやグスタフ、ジュダスが最初から死んでたら、私は行き場をなくした復讐心をどうしてたんだろう。
……ダメだな、なんか共感しちゃってる。
コイツは倒すべき敵、それだけは間違いないんだから、しっかり集中だ。
大振りのがむしゃらな斬撃を、最小限の動きでかわし続ける。
無駄に体力を消費していってるし、この戦い、勝ちはもらったかな。
「だから、ボクは勇者を殺す! やり場のない怒りを、次の勇者にぶつけてやる! そう、思っていた……! けど、次の勇者は来なかった! 来なかったんだ……!」
……あれ、もしかして。
コイツの姉の仇って先代勇者なのか。
その人が使ってた【ギフト】、名前だけは聞いたことあるな。
たしか……。
「だからボクは誘いに乗って——いや、これ以上は何も言わない。ボクのさずかった【神速】で、細切れの肉片に変えてやる」
そう、【神速】。
私の一つ上の世代だし、歴代でもトップクラスの【ギフト】ってウワサだったから、ただの村娘な私でも知っている。
超高速で動きまわって、見えないほどの速さで剣を振って、本気になれば動くだけで空気が裂けるほどの——。
「……っ!? あんた、あんたの使ってるギフトが、【神速】だって!?」
「なにを驚いている。この【ギフト】を知っているのか?」
この反応、コイツは知らないのか?
先代勇者、つまりレヴィアの姉の仇。
自分の使ってるギフトが、その勇者のものだって知らないのか……?
「知っていたとしても関係ない、絶望感が増すだけだ。全力機動、いかせてもらう」
まずい、本気を出してくる。
ちょっと挑発しすぎたか……。
「練氣・月影脚、それと神鷹眼!」
気休めかもしれないけど、視力と脚力をアップ。
リヴィアが姿勢を低くして、前かがみのかまえを取った。
これまでの高速突進よりも、ずっとずっと低い重心で剣をかまえて、
「【神速】刹那之一太刀」
消えた、ように見えた。
強化した視力のおかげでブレた姿がなんとか見える、それほどの速度。
剣をかまえてこっちへまっすぐ、一直線に突っ込んでくる。
頭じゃわかってるけど、体の反応が追いつかない。
ズバシュッ!!
「あぐ……っ」
倒れ込むようにして、なんとか直撃はさけられた。
けど、右腕が深々と、骨まで届くくらいに深く斬られて、噴水みたいに血が噴き出す。
「いっ……たぁぁぁっ!!!」
敵が超高速突進を終えて、土煙を上げながら急停止。
まずい、早く起き上がらないと……!
目の前がチカチカして、吐き気がするくらい痛いけど。
「……かわしたか」
「二度も右腕、くれてやるかよっ!」
歯を食いしばって跳ね起きた。
さぁ、どうしよう。
地面からマグマを作って飛ばしても、この速さじゃ当てられない。
バリアみたいにまわりに張っても、剣圧飛ばされて破られるだけだ。
「威勢はいいね、けど——」
ズバァっ!!
「っぐぅぅぅう!!」
またも超高速突進。
今度は足、太ももを思いっきり斬られた。
「それだけじゃ勝てない」
「この……っ、調子に乗るな……っ!」
悪態ついても、どうしようもないよね。
「練氣、堅身!」
追加で体に練氣をまとって、防御力を上げる。
苦しまぎれの気休めだけど、このままじゃホントに細切れにされちゃうからね。
「無駄なことを……。これで終わらせる」
低く低く、姿勢を取って、
「【神速】終之舞」
超高速の連続突進がはじまった。
右から、左から、前から、後ろから、上からも。
全方向から斬りつけられて、ガードも回避もできないまま、体に傷が増えていく。
堅身を張ってなければとっくに死んでたくらいに。
「っ、ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
痛い、痛いけど、なんか妙だ。
狙いが雑と言うか、急所もそうでないところも関係なく斬りつけてくる。
まさか、この超高速突進。
今までずっと使わなかったのには、なにか理由があるんじゃないか……?




