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92 三夜を越えてから




「リーダー? なんだそりゃ」


 え、冗談……だよね……?

 リーダー、ポカンとした表情カオしてる。

 まるで今、はじめてリーダーって呼ばれたみたいに。


 それに、私ともはじめて会ったみたいな。

 ……あ、そっか。

 顔隠してるからわかんなくって、警戒してるんだ、きっと。

 ベールとフードを取っ払って、素顔を見せればわかってくれる。


「ほら、リーダー! 私だよ、キリエ! もうとぼけなくてもいいから……」


「キリエ……? なあ嬢ちゃん、俺のこと知ってるみてぇだが、そのリーダーってのはなんだ?」


「リーダーはリーダーでしょ!? 私たちのリーダーで、兄貴分でしょ!?」


「ちょっとキリエ、落ち着きな。あと声でかい、少し落として」


「あ……、ごめん……」


 少し感情的になりすぎちゃったかな……。

 リーダーが生きてて、けど私のことわかんないみたいで、思考回路がぐちゃぐちゃになってたみたい。

 頭を冷やして、深呼吸して気持ちを落ち着けてから、改めて質問だ。


「……ねえ、あなたは間違いなくリーダー、だよね? レジスタンスのリーダー、バルジ・リターナーだよね?」


「……すまねぇ、俺ぁ何も覚えてねぇんだ」


「覚えて、ない……?」


 覚えてないって、自分の名前も?

 スティージュのことも、ギリウスさんやストラのことも?


「記憶が、無くなってる? どうして……」


「わかんねぇ。俺の最初の記憶は、ものすごい高熱で死にそうになってたトコからだ」


 リーダーが語ってくれた、今の自分のはじまり。

 それは高熱にうなされながら、馬車に揺られる記憶。

 何度も死にかけて、やっと熱が引いた時、自分が記憶を持ってないことに気づいたんだって。


「ワケもわからねぇまま、一ヶ月の旅のあと、俺はここに連れてこられた。そして、実験がはじまったんだ」


「実験……?」


「あぁ、ここのヤツらはそう呼んでいた。実験っつっても、ひたすら魔物と戦わされるだけだがな。一日に何回も、ドラゴンやキマイラから、触手だか肉塊だかわかんねぇようなヤツらまで殺し続けた」


 けど、リーダーは勝ち続けた。

 ここにいる連中もビックリするくらい、強かったんだって。

 私の知ってるリーダーって、そんなデタラメに強いわけじゃないはずだけど。


「そんな日々が一週間くらい続いたころ、いい加減うんざりした。ワケわかんねぇヤツらの言いなりになって、ワケわかんねぇまま命張ってんのが、どうしても我慢できなかった。自分でも不思議なくらいムカついたんだ」


 ……うん、記憶をなくしても、やっぱりリーダーはリーダーだ。

 理不尽な暴力や圧力に真っ向から立ちむかう反骨精神。

 記憶を失っても、根っこは同じなんだ。

 なんか、ホッとした。


「それで脱走したんだね」


「あぁ、詳しい事情はよくわかんねぇけど、気に入らねぇヤツらの悪事を暴けないかって思ってな。出入り口なら知ってっから、逃げたあともこうして潜りこんで、色々探ってるってワケだ」


 つまりリーダー、ここの情報を色々と知ってるってことか。


「さて、俺のことはいったん終わりだ。あんたらの方、改めて説明してくれ。二人とも、俺の知り合いなのか? 俺はどこの誰なんだ?」


「……えっと、まずは」


「ちょい待ちキリエ。いっぺんに説明しても、この人が混乱するだけだと思うぞ。順番に、小出しにしていきな」


 そっか、一から十まで全部説明しようとしちゃってた。

 トーカのアドバイス、さすが年長者って感じだよね。


 最初に私とトーカの自己紹介をしてから、まずは名前、次に家族、出身地、と小出しにして、思い出せないか聞いていく。

 けど、リーダーは首を横にふるばかり。


「すまねぇ、やっぱり何も思い出せねぇや……」


「そっか……。けどさ、生きててよかったよ。ストラ……妹さんね? ストラにも元気なとこ見せてあげて。すっごく落ち込んでたからさ」


 リーダーが生きてるって知ったら、ストラもギリウスさんも、スティージュのみんなもきっと喜ぶはず。


「そうしてやりてぇのは山々だが、今ここを離れるわけにはいかねぇんだ。実験のために捕まってた何人かを、助け出して街中にかくまってる。アイツらを放って遠くにゃいけねぇ」


「……わかった、しかたないか。ストラたちには私の口から伝えとくね」


「ありがとよ、キリエちゃん」


 名前を教えただけなのに、今まで通りの呼び方をしてくれた。

 記憶は失っても、やっぱり同じ人なんだね。


「で、ここからは私たちの質問。さっき情報を集めてるって言ってたよね。大臣——グスタフ・マクシミリアンがどこにいるか知ってる? 小太りで、温和そうだけどすぐキレる中年なんだけど」


「グスタフか、ソイツなら知ってるぜ。『人工勇者』の実験をしてる責任者の一人だ」


「『人工勇者』……!?」


 なんだそれ。

 そんな物騒なワード初耳だぞ。


「なにそれ、人工勇者って。詳しく聞かせて」


「おうよ。勇贈玉ギフトスフィアって知ってるか?」


「知ってるよ。トーカも持ってる」


 私の言葉に合わせて、トーカがネックレスを持ち上げた。

 キラリと光る黒い光に、リーダーがうなずく。


「ソイツの力を使ってなにかすると、人工的に勇者が作れるような、そんな研究だ」


「勇者、なの? ただ【ギフト】を使えるだけじゃなくて、なにかを殺すたびに強くなる、本当の勇者?」


「いや、加護は受けられねぇみてぇだ。だが【ギフト】の方は、自分の手持ちの他に勇贈玉ギフトスフィアも使える。元々強いヤツがそうなりゃ、手のつけようがねぇかもな」


 そんな技術が完成したら、ただでさえ強大なパラディが、もう誰も手出しできなくなるじゃん。


「トーカ、思ってたよりずっと状況、悪いみたい」


「だな。変な気を起こさずに大人しくしてればいいんだが、その可能性も低いだろうね」


 タルトゥスとつるんで、勇贈玉ギフトスフィアまで与えるようなヤツらだ。

 悪だくみしてるに決まってる。


「……けど、こんな大掛かりな計画、潰すには準備不足だよね。今は知れただけでもよしとしよう」


 持ち帰ってジョアナに相談してから、改めて潰すか放っとくか考えよう。

 アイツ、パラディの人間だし、その辺頼りになるだろうから。


「思ったより冷静だな、キリエ」


「私は正義の味方じゃないからね。自分の目的が最優先。ねえリーダー、お願い。グスタフの居場所、私に教えて」


 スティージュに帰る前に、最低限こいつだけは殺っておかなきゃいけない。

 私の村を襲うように、カロンに直接指示を出した大臣、グスタフ。

 生きてることを後悔するような生き地獄を、たっぷりとおがませてやる。



 ●●●



「騒がしい、なにかあった?」


「……レヴィア、か。また例の侵入者だ。対応に人員が裂かれて、迷惑この上ない」


 デルティラード王国元大臣、グスタフ。

 研究机に腰かけながら、音もなく背後に現れたレヴィアに動じもせず、紅茶をすする。


「そう、また侵入者か。興味無いし、あなたたちで対処すればいい」


「もちろんそうさせてもらう。だが、一つ気になる報告があってな。お前にも無関係ではない報告だ」


「……一応、聞いておく」


「いつものネズミとは別の侵入者がいる。数は不明だが、そのうちの一人が魔導機兵ゴーレムを呼び出した、と」


「ゴーレム……? どういうこと? 【機兵】は今、ブルムが持っているはず……」




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