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91 侵入者




 はやる気持ちをおさえて、気付かれないように。

 今すぐ後ろから斬りかかりたいのを我慢して、レヴィアの後ろを見失わないくらいに距離を離してついていく。


「……なあ、アイツ、タルトゥス軍って本当か」


「うん、前に戦って腕すっ飛ばされた。すぐにベアトがくっつけてくれたけど」


「うでっ……!? い、いや、すぐに治療すればくっつくこともあるか……」


 腕をくっつけられること、そりゃ驚くよね。

 ただ、アレは切断されてすぐじゃないとムリなんだ。

 カナタさんの腕がどうなってるかにもよるけど、ちょっと力になれそうにないな……。


「……すまない、変な声出しちまった。気付かれてない……かな?」


「大丈夫、みたいだね」


 一人でまっすぐ廊下をスタスタ、こっちをチラリと見ようともしない。

 他人に心底興味なさそうだったからな、アイツ。

 そのくせワケ分かんない逆恨みしてきて。


 なんだっけ、私を殺せば姉の仇に一歩近づく、だったっけ?

 どういう意味かさっぱりだよね、ホント。


「……っ!? あ、あれ……?」


 まばたきしたほんの一瞬で、突然レヴィアの姿が消えた。


「トーカ、アイツどこ……?」


 まっすぐな廊下なのに、普通に歩いてたはずなのに、まるで最初からそこにいなかったみたいに、どこにも姿が見当たらない。


「キリエにも消えたように見えたのか……?」


 トーカにも見えなかった、と。

 なにが起きたのか、考えられる可能性は一つだけ。


「……今のはきっとレヴィアの持ってる【ギフト】の能力。高速移動の力を使ったんだ」


「……つまり、敵はアタシらの尾行に気づいていた、と?」


「気づいてはいないんじゃないかな。最初から高速移動を使うつもりだったから、まわりを気にせず歩いてたんだと思う」


 さて、困ったな。

 つまり私たち、完全にレヴィアを見失ったぞ。

 どうしよっか、これ……。


「なーに深刻そうな顔してんだ」


「あてっ」


 考え込んでたら、トーカに背中をかるーく叩かれた。


「だ、だって、見失っちゃったし……」


「見失っただって? アイツが高速移動できるんなら、どうして廊下をのんびり歩いてた」


「そんなの、短い距離しか動けないからでしょ」


 王都で戦った時も、高速移動はほぼ一瞬だった。

 いっつも自由に高速で動けるなら、今ごろ私はお墓の下だ。


「そう、自分で答え言ってんじゃん」


 あぁ、そっか。

 短い距離しか移動できないってことは、ここはもう礼拝堂のすぐ近く。

 レヴィアはたった今、礼拝堂で隠し階段を出現させているはずだ。


「急ごう、まだ間に合うかも!」


 だったらここで、ウダウダ言ってる時間はないよね。

 場所ならベアトから教えてもらってる。

 私たちは一目散に、礼拝堂へと走り出した。



 礼拝堂の扉をそっと開けて、中の様子をうかがう。

 誰もいない、ちょっと不気味なうす暗い聖堂。

 レヴィアの姿もどこにもない。


 トーカとうなずき合って、隠し階段があるっていう奥の祭壇、その裏側へ。


「……っ、ダメだ、少し遅かった」


 その時にはもう、床が静かにスライドして階段を閉ざす瞬間だった。

 こうなったら面倒だけど、仕掛けを探して解くしかないか。


「だから、あきらめるには早いって」


 こんな時でも余裕を崩さないトーカ。

 背負ったリュックの中から砂鉄を飛ばして、閉じようとしているわずかなスキマへ。

 そこで砂鉄をミニゴーレムに変えて、つっかえ棒代わりに。

 見事にスライド床を止めてくれた。


「ちょっと苦しいかもだけど、我慢してくれ」


 屋内じゃ砂鉄がないからって、リュックに詰めて持ってきたのがさっそく役に立ったね。

 けど、はさまってもがいてるミニゴーレム、ちょっとかわいそうだな……。


「ナイストーカ。さすが年上、頼れるね」


「だろ? お姉さんにもっと頼っていいんだぞ?」


 親指を立てて笑うトーカ。

 ベアトの方はやっぱり心配だけど、ついてきてくれてよかった、のかな。


「頼りにしてるよ。……さて、ここからが本番だ」


 階段の下には、いったい何が待ちうけているのか。

 気を引き締めていかなくちゃ。


 レヴィアとバッタリ会わないようにちょっと時間を開けてから、半開きのスライド床をこじ開けて、強引に階段へ。

 パラディの闇へいざ潜入だ。




 薄暗い階段を降りて、隠された地下一階へ。

 そっと顔をのぞかせて、誰もいないか確かめる。


「……よし、誰もいない。けど、なんだこれ」


 大神殿の地下、たいまつがかかげられた石造りの廊下みたいなのを想像してたんだけど、全然ちがった。

 薄い緑色のきれいな壁と、大理石みたいにピカピカな床。

 ランプともちがう不思議な照明が、びっくりするほど明るく廊下を照らしてる。


「トーカ、こんなの見たことある?」


「いんや。けどなにがあっても驚かないね」


 そうだね。

 なにしてんのかさっぱりなパラディの、一番怪しい場所だもん。


「……行こう」


 しばらく待っても誰も来ないし、足音を殺して、慎重に出発だ。


 そっと歩いて入り口を離れて、ひとまず隠れられそうな部屋を探す。

 ……っていっても、つるつるの壁が続くばっかりでドアなんて見当たらない。

 時々壁にプレートみたいのが貼ってあるだけ。


「なあキリエ、あまりにも何もなさすぎないか?」


 たしかにちょっと妙だ。

 ここ、ホントに目的の場所なのか?


「たしかにちょっと不安だけど。まずは見つからないうちに、隠れる場所を——」


「侵入者だッ!! 追えーッ!!!」


 突然の大声。

 ビクぅっ、と肩が跳ねた私たちの横を、誰かがすごい勢いで走りぬけていった。


「……え、なに今の?」


 侵入者って、もしかして私たちのことじゃないのか?


「ヤツはいたか!」


「その角を曲がった! 今度こそ捕まえろ!」


 やっぱりそうだ。

 けど、このままじゃどうせ見つかっちゃう。

 トーカとうなずき合って、さっき誰かさんが逃げた方へ一緒に走り出す。


「ゴーレム、来い!」


 逃げる私たちの姿が見えないように、トーカがゴーレムを三体並べた。

 またまたナイス。

 バリケードや時間稼ぎだけじゃなく、【機兵】はタルトゥス軍のブルムが持ってることになってるから、混乱の元にもできるはず。


「な、なんだコイツら!」


「まさか、魔導機兵ゴーレムか!? どうしてこんなところに……!」


 廊下のむこうから走ってきた追手が、案の定とまどってる。

 そのあとすぐに、戦闘が始まったみたいだ。


「オートで戦う設定にしてあるから、壊れるまで戦ってくれるはずだ」


「ホント、助けてもらってばっかだね」


 潜入の先輩として、そろそろ私もいいトコ見せなきゃな。



 さて、侵入者さんが逃げた方へ走ってきた私たち。

 ところが逃走の果て、辿りついたのは袋小路の行き止まり。

 侵入者さんの姿もナシ。

 追いかければ追いつけて、なんか情報もらえると思ったのに。


「どうしよう……。トーカ、どうしようか」


「もうさ、壁溶かすしかないんじゃない?」


「思いきりいいね、仕方ない」


 よし、それしかないなら——。


「嬢ちゃんたち、そんなトコでぼんやりしてたらみつかるぜ?」


 うわっ!?

 壁がスライドして、スキマから手が!?


「なにボサっとしてんだ、早く来な」


 男の人の声がして、ちょいちょいと手招きしてる。

 ……さっきの侵入者さんだよね。


 いつでも反撃できるように警戒しつつ、トーカといっしょにその中へ。

 私たちが部屋に入ると、侵入者さんがしっかりと閉めてくれた。


 扉、壁と見分けがつかないようになってたんだ。

 思えば、廊下のところどころにプレートが貼ってあった。

 アレが扉の目印だったわけか。


「まずは礼を言う。助かったぜ、嬢ちゃんたち」


 侵入者さんは背の高い、男の人だった。

 青みがかった短い髪で、腰には剣と短剣の二本を……って。


「え……、リーダー……?」


 間違いない、リーダーだ。

 死んだって聞いてたのに、どうしてこんなトコに……?




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