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365 有名人は大変ッス




 デルティラード盆地の中心に築かれた一大都市、王都ディーテ。

 『獅子神忠ピレア・フィデーリス』によって壊滅状態となったこの街も、元の姿を取り戻しつつあった。

 住んでる人の心までは元通りとはいかないだろうけど、それも時間が元に戻してくれると思う。

 私の心をベアトが癒してくれたみたいに。


 あの時の続き、王都観光をするために武具店を出た私たち。

 今回はリフちゃんもいっしょだ。

 寂しがりなこの子を一人置いていくわけにいかないからね。

 生活圏の東区画はざっと回って、ひとまず繁華街の中央区へとやってきた。


 直ったばかりの真新しい建物が並んで、私が初めて訪れた時みたいに大勢の人々が行きかう大都会。

 私とエンピレオがこのあたりで戦ってたなんて、ちょっと信じられないくらいの復興具合だ。


「さて、どこからまわろっかな……」


「ノープランで出てきちゃったッスからねー。リフちゃん、希望あるッスか?」


「えっと、えっとぉ……」


 リフちゃん困ってる、っていうかオロオロしてるな。

 人の多さに圧倒されちゃってるみたいだ。


「ベアトはどこか行きたいとこ――ベアト?」


 ベアトの意見も聞こうとしたら、どこかをじっと見つめてた。


「何見てるの?」


「……っ、ぇ、と、ぁそこ……ですっ」


 ベアトが指さした先、通りから外れた広場に大勢の人だかりができていた。

 その広場の中心に、なにか銅像みたいなものが立ってるのが見える。


「なんだろ、アレ。あんな広場、前にはなかったような……」


「行ってみるッスか? 生まれ変わった王都の最新スポットかもしれないッス」


「だね。まずはあそこに行ってみようか」



 広場に入って人ごみをかき分けて、広場の真ん中にたどり着いた私たち。

 そこに建っていた銅像に、私は言葉を失った。


「こ、これは……、中々よくできてるッスね……」


「……っ!!」


「すごいね、お姉ちゃんだ!」


 そうだねリフちゃん、私だね。

 ベアトも目を輝かせてるし、クイナ、体のラインとか細部までまじまじと見るな。


 えっと、なになに?

 王都の災厄をはらった英雄、勇者キリエ?

 いや、その通りだけどさ。

 誰だ、人の銅像を本人に無断で立てたヤツ。


「……ん? アレって勇者キリエじゃない?」


「え、どこどこ!? あの子? ウソ、本物!?」


「マジじゃん! なんでいるの!?」


 そして予想通り、案の定。

 まわりの人たちが私に気づいてしまった。

 こうなったら、もう面倒ごとしか起こりえないわけで。


「……みんな、逃げるよ」


「……っ!」


「そッスねー、のんびり観光どころじゃなくなりそうッスし……」


 ベアトをひょいとお姫様だっこして、人ごみをジャンプでひとっとび。

 クイナもリフちゃんを抱えて私に続く。

 そのまましばらく突っ走って、人の少ない広場の外れまでやってきた。


「……はぁ、なんで私の銅像なんて立てられてるのさ」


「仕方ないッスよ。ジブンの銅像だってあちこちにあるッスし、勇者ってそういうもんッス。ましてやキリエ、歴代勇者で一番の大活躍ッスから」


「仕方ない、で済ませられないってば」


 これじゃあおちおち外も出歩けないって。

 それにしても、いったい誰が私の銅像なんて……。


「およ? あれは勇者のキリエさん?」


「やば、また……」


 また気づかれた……と思いきや。

 今度はただの、久しぶりに会う顔見知りだった。


「あー、やっぱりー! おねえちゃん、こっちこっち!」


「どうしたビュート、かしましいな」


 建材を肩でかついでいた隻腕の魔族の女の子。

 でっかい荷物を地面に置いてから、むこうにいた同じく魔族の女の人を元気よく手招きする。


「おぉ、キリエ殿、それにベアト殿。ご無沙汰しております。ご活躍は耳に入ってますよ」


「リアさん、それにビュートさん。どうして王都に……?」


 コルキューテが誇る将軍二人が、王都で土木作業みたいなことをしてるなんて。

 意外な場所での意外な遭遇にびっくりだ。


「タルトゥス討伐に戦後の支援、ペルネ女王には多大な恩義がある。なればこそ、可能な限りの支援をせよとのセイタム陛下のご命令です」


「あたしはおねえちゃんのお供! おねえちゃんが行くとこなら、どこにだってついてくんだから!」


 ぎゅーっとリアさんの腕を抱き寄せるビュートさん。

 相変わらず仲良しだな、この二人。


「えっと、じゃあさ。あの銅像についてもなんか知ってたりする?」


 こんなところで作業してたんなら、なんか知ってるかも。

 そう思って聞いてみる。


「あの像ですか……。実は市民の団体から、ぜひとも救国の英雄の像を立てたいと要請がありまして……」


「……それで、立てちゃったんだ」


「いえ、要請と同時に完成品が持ち込まれました。なので無碍むげに断るわけにもいかず……」


 なんでそこまでやる気出しちゃったの……?

 いや、私に話を通されたら絶対に断ってやるから、正しい対応ではあるけども。

 ま、いっか、ベアトが目をキラキラさせてたし。

 あの子が喜んでくれたなら。


「……こほん。して、そちらのお二人はキリエ殿のご友人でしょうか」


「うん、そんなとこ。こっちがリフちゃんで……」


 ……あ、リフちゃん人見知りしてる。

 クイナの後ろに隠れちゃってるや。


「それでこっちがクイナ」


「えと、よろしくッス」


「あぁ、よろしく。……む、クイナ……?」


 握手を交わそうとして、リアさんが何かに引っかかった様子で動きを止める。


「クイナ……。まさかあなたは、キリエ殿とともにエンピレオと戦った、伝説の騎士勇者――」


 あ、詳しい事情知ってたんだ。

 リアさんもイーリアと同じく、セリアが名前の由来だ。

 いわばあこがれの英雄なわけで……。


「……ジブンはクイナッスよ」


「いえ、しかしあなたは――」


「クイナッス。セリアは――騎士勇者セリアは、二千年前に死んだ人物。今の時代に生きてちゃいけないんスよ」


 生きてちゃいけない、そう口にしたクイナからは自責の念みたいなものを感じた。

 今自分が生きているのは、死んでしまったクイナという女の子のおかげ。

 だからその子のぶんも人生を生きなきゃいけないって。

 でも、それってなんだか悲しいな……。



 リアさんたちが作業に戻っていって、クイナはパンと手をたたいた。


「さーて、観光再開ッス。お次はどこへ行くッスかー?」


 笑顔を浮かべてはいるけれど、どこか空元気な感じにも見える。

 ここは私が友達としてなにか言ってやるべきなんだろうけど、なんて声をかければいいんだろう……。


「……クイナのおねえちゃん」


 くいっ。


 これまでクイナの後ろに隠れてたリフちゃんが、クイナの服を引っぱった。


「リフちゃん? どうしたッスか?」


「あのね。えと……。リフ、むずかしいことはわかんないけど、おねえちゃんはおねえちゃんだと思う……よ?」


「リフちゃん……」


 あの子の言葉はつたないながらも、本質を捉えていたと思う。

 それが証拠に、クイナは笑顔を浮かべてリフちゃんの頭をひとなでした。


 ……よし、必要以上に暗くしちゃいけないよね。

 この話はここで終わりにして、話題転換するのが最善だ。


「……あのさ、次は装飾品のお店いかない?」


「装飾品? こりゃまたなんで」


「変装したくってさ……。また囲まれたらいやだし」


 メガネとかマスクとか、とりあえず顔を隠せるものが欲しい。

 これは本当に、切実に。


「あー、有名人は大変ッスねー。これから普通に暮らすのも一苦労じゃないッスか?」


「それは大丈夫。ペルネ女王がリボの村の復興を進めてくれててさ。終わったらベアトといっしょにそこに住むつもり」


「王都からお引越しッスかー。さみしくなるッスねー……」


 クイナの言う通りだね……。

 これから先はみんなとも気軽に会えなくなる、か。

 ……いや、そうだ。


「じゃあさ、提案なんだけど。クイナたちもリボの村の住人になっちゃわない?」




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