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338 満足だ




 巨大ソードブレイカーをおおっていた氷が粉々に砕け散る。

 どうやらディバイの魔力が尽きたみてぇだな。

 正直なところ、俺の方も限界だ。

 魔力を解除すると、ソードブレイカーは枯れ木となって風に散った。


「……っと」


 よろめく俺の肩をギリウスさんが支える。


「よくやったな、バルジ」


「俺一人の力じゃねぇよ。ギリウスさんと、ディバイと、ユピテルの助けがあってこそだ」


 魔力切れってなぁ、こんな感じなんだな。

 息をするのもつれぇくらいだ。


 ちなみに魔力が切れたっつっても、不死兵を封じた俺の木やディバイの氷は結界魔法の一種。

 術者が死のうが魔力切れを起こそうが、それそのものを破壊されない限り解除されることはねぇ。

 そんなわけで、ヤツらがまた動き出す心配はねぇけどな。


「さて、と。ゼーロット――ユピテルの様子、見に行かねぇとな」


 全力でブッ飛ばしたからな、かなり遠くに行っちまった。

 ボロボロの俺たちじゃ、様子を見に行くのも一苦労だ。


「バルジ、一人では歩けないだろう。肩を貸すぞ」


「あぁ、ありがてぇ」


 ボロボロっつっても、俺もギリウスさんも疲労はともかく、肉体的なダメージは大したこたぁねぇ。

 が、ディバイの方は訳が違う。


「ディバイ、お前は動けるか?」


「情けない話だが、ムリそうだ……」


 大きく裂けた体のキズを手でおさえながら、カベ際に寄りかかって座るディバイ。

 魔力切れのせいか、止血の氷も出せねぇみたいだな……。


「すまないが……、お前たちだけで行ってきてくれ……」


「けどよ……」


 体の下に血だまりができ始めてるじゃねぇか。

 そんな状態のディバイを一人で置いていけるはずがねぇだろ。


「そんな顔を、するな……。自前の薬袋も、お前からもらったのも、両方持っている……。コイツを飲んで、少し休めば……、また動けるようになるさ……」


「ディバイ……」


「心配ない……。帰りがけに拾っていってくれ……」


 じっと、俺の目を見つめるディバイ。

 その眼差しの意味するところを、俺ぁなんとなくわかっちまった。


「……わーったよ。お前がそこまで言うなら」


 そこまで言うなら、もう言葉はいらねぇよ。

 そういうことなんだな、ディバイ。


「行こうぜ、ギリウスさん。ユピテルの方も心配だ」


「あぁ。……いいのか?」


「いいさ。アイツが大丈夫だっつってんだ」




 崩れた民家を乗り越えてしばらく歩くと、倒れているユピテル――いや、ゼーロットか、を発見。

 大の字にぶっ倒れていたヤツは、近寄ってくる俺たちに気づくと、こっちを見てニコリと笑いかけてきやがった。


「やぁ……っ、見事だったよ……っ。ボクの、完敗さ……っ」


「そうかい。負けを認めたんなら、さっさとユピテルから出てってくれ」


「出ていきたくなくても……っ、この体にいるのは限界さ……っ。もうじきに、ユピテル君によって追い出されてしまうだろう……っ」


 ゼーロットは懐から、光を失った銀色の小さな玉を取り出す。

 【鉄壁】の勇贈玉ギフトスフィア、か。


「ふふ……っ、またこの中に逆戻り、だね……っ」


「心配すんな。すぐにキリエちゃんがエンピレオをぶっ殺す。そしたらお前の魂も解放される」


「あぁ……っ、敵であるボクのことまで気遣ってくれるのかい……っ?」


 【鉄壁】の勇贈玉ギフトスフィアがわずかに光を発した。

 ソイツが徐々に点滅しながら、次第に輝きを大きくしていく。


「ありがとう……っ。最後にキミたちのような者と戦えて、ボクは幸せだ……っ、満足だよ……っ」


 白い歯を見せてのスマイルを最後に、【鉄壁】は完全に輝きを取り戻す。

 あの野郎、最後まで好き放題言って、満足そうに逝きやがって。


「う、うう……っ、ヤツは、出ていったか……」


 ゼーロットが抜け出た瞬間、ヘラヘラしていた表情が引き締まったものへと変わる。

 文字通り、人が変わったってわけだな。


「よぉ、お目覚めかい。気分はどうだ?」


「悪くはない……。ようやく、自分の体を取り戻せたのだからな……。礼を言う、バルジ……」


「礼なんざいいさ。思いっきりぶっ叩いちまったからな」


 おかげでユピテルのヤツ、自分じゃ起き上がれねぇくらいダメージ食っちまってる。


「ギリウスさん、俺はもういい。ユピテルの方を頼む」


 俺ぁようやく魔力が戻ってきたところだ。

 走りはともかく歩くくらいならできる。

 それにひきかえ、ユピテルはこの調子だからな。


「言われずとも。すぐに城まで連れて行ってやるさ」


 ギリウスさんが肩を貸し、ユピテルを助け起こす。

 ユピテルは痛みに顔をしかめながら辺りを見回した。


「ディバイは……、どこだ?」


「……むこうで休んでる。今からアイツも拾ってくとこさ」


「……そうか」



 〇〇〇



 ラマンの丸薬を口に投げ、かみ砕く。

 が、やはりキズの治癒が遅い。


 当然か、内臓にまで達しているほどの深手だ。

 ラマンの薬がどれ程優秀でも、その回復力は並の治癒魔法と同等程度。

 このキズは並の治癒魔法でどうにかできるレベルを越えている。


「やはり……、ここまで、か……」


 心配させまいと先に行かせたが、バルジには見破られていたようだな。

 もはや手遅れなのだということが。


 バルジと共にこの先を見られないのは残念だが、これでよかったのかもしれない。

 あの時、『三夜越え』の副作用が消えた時、俺は考えた。

 ゼーロットを殺した方が早いと、一瞬でも考えてしまった。

 どこまで行っても、俺の本質は冷酷な殺人鬼なのだと思い知らされた。

 もう一度、道を踏み外さない保証などどこにもない。

 そうなれば、バルジたちの仲間である資格すら失ってしまう。


「……いや、違うか……。バルジは……、その程度で見放す男ではないな……」


 きっと殴ってでも俺を連れ戻すのだろうな。

 バルジとはそういう男だ。


「……っぐ!」


 激痛に視界が歪み、頭にもやがかかってきた。


「そろそろ終わりだな……。だが、悔いはない……、満足だ……。『やりたいこと』を、成し遂げ……、られたんだ……からな……」


 心の中が不思議と充足感に満ちている。

 殺人鬼として血塗られた道を歩いていた頃はもちろん、バルジの仲間として罪悪感と戦っていた時にも、一度としてこんな気分にはなれなかった。


「こんな思いができるのも……、アイツの……、おかげだな……。ありがとう、バル、ジ……――」



 〇〇〇



「なぁ、ユピテル。まだ思うところはあるだろうけどよ。後で一言だけ、かけてやってくれねぇか?」


「ディバイに、か?」


「罪滅ぼし……ってわけじゃねぇだろうけどよ。アイツぁお前のために命張ったんだ。妹のこと許してやってくれ、とはとても言えねぇ。だが、一言くれぇ声かけてやってくれ」


「……あぁ、そうしよう」


「……ありがとよ。きっと――アイツも喜ぶぜ」




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