337 四位一体
一気に勝負を決める、ヤツはそう豪語しやがった。
まさか、最大級の大技でもぶっ放すつもりってか?
「【鉄壁】による防御戦術と持久戦……っ、それこそがボクの真骨頂……っ。だけどね、攻撃手段もないわけじゃない……っ」
あぁ、どうやらその通りみてぇだな。
ヤツはやたらとでけぇ盾の上部に剣を差し込み納めた。
どうやら鞘みたいになってるようだ。
「どうやら余裕がない……、うぐ……っ、ようなのでね……っ。キミたち三人、一撃の下に消し飛ばしてあげよう……っ」
盾に収まった剣の柄を両手でにぎり、体の前でかまえる。
すると、丸みを帯びていた大盾のフォルムがスマートに、先端部分がとがった形へと変化した。
そのフォルムは盾というよか、まるで剣だ。
ソイツの柄をにぎったまま、ヤツは魔力をみなぎらせる。
「ゼーロット、貴様なにを企んでいる!」
「なぁに、ちょっとした奥の手を、ね……っ。【鉄壁】の盾……、何者にも砕かれない硬度……っ。それを攻撃に転用した時、無敵の矛が誕生する……っ」
ヤツの魔力を受けて、盾がみるみるうちに巨大化していった。
そのデカさときたら、まわりに並ぶ二階建ての民家の屋根を軽く越えてやがる。
「それが……、貴様の切り札か……」
「ポリシーに反するシロモノだけどね……っ。剣ではなく盾、斬れはしないがこの硬度、キミたちをまとめて叩き潰すには充分さ……っ。キミたちには手加減をしない……っ。最高の力で葬らせてもらうよ……っ」
ソイツを肩にかついで、ヤツは練氣を体から放出し始めた。
この上威力を底上げするつもりか……!
「いざ、ボクの奥義――う、うぐ……っ!」
なんだ……?
ゼーロットの野郎、いきなり苦しみはじめやがった。
体をおおった練氣も急激に消え失せていく。
「ぐ……っ、早くしろ……っ! 私が、抑えている間に……っ!」
「ユピテル! お前、体のコントロールを――」
「早く……っ!」
……そうだな、グズグズしてるヒマはねぇ。
ユピテルがゼーロットの動きを妨害してくれてる間に、大急ぎで準備しなきゃな。
あのドデカい盾をへし折る奥の手をよ。
「礼を言うぜ、ユピテル! もう少しだけ耐えてくれ!」
両手の剣とソードブレイカーを鞘に納め、俺は地面に手をついた。
そこから【大樹】の魔力を流しこみ、地中に生み出した木の根を急激に成長させる。
「ぐ……っ、はぁ、はぁ……! あと少しで……ッ!」
慣れない魔力の大量使用にふらつきながら、なんとか完成だ。
地面から突き出してきた柄をつかみ、一気に引き抜く。
俺の身長の軽く五倍以上、超特大の木製ソードブレイカーだ。
ユピテルに体をコントロールされてちゃ、魔力による鉄壁防御もできねぇはずだ。
コイツで盾を絡め取って、その間にギリウスさんが決めてくれれば――。
「……っふぅ。ようやく押し戻せたよ……っ。では、終わりにしようか……っ」
「なに……っ!」
引き抜いた瞬間、ゼーロットの勝ち誇った声とともに特大の盾が振り下ろされる。
ユピテルの意識が押し返されちまったのか……!
練氣で固めるヒマもないまま、俺はとっさにソードブレイカーのクシで盾を受け止めた。
ズガァァァァッ!!
「ぐぅぅぅっ!!」
足が石畳にめり込み、体中の関節がギシギシと悲鳴を上げる。
このままじゃ、ものの数秒で押しつぶされちまう。
その上ゼーロットの意識が全面に出てる今、ギリウスさんが攻撃を仕掛けても無効化されてお終いだ。
せめて練氣を使う余裕さえありゃ、時間を稼げるんだが……!
「これまで、か……ッ!」
「俺の弟は、こんなところで諦めるほどヤワな男じゃないはずだが?」
ガシッ、と肩に大きな手が力強く置かれた。
そこから練氣が体の中に流れ込んでくる。
「ギリウスさん……!」
この人、練氣を練る余裕がない俺の代わりに……。
しかも他人の練氣だってのに、妙に体に馴染みやがる。
兄弟――だからだろうな。
「……ありがたく使わせてもらうぜ。奥義・魂豪炎身!」
分けてもらった練氣を全身にまとって、赤く燃え上がらせる。
身体能力を大幅に上昇させるコイツがあれば、ゼーロットの馬鹿力にも対抗できる。
これで形勢は――。
ピシ、ピシ……っ。
「な……っ! ソードブレイカーが……!」
「んんっ、どうやら強度の限界、みたいだねぇ……っ」
体は持ち直したが、今度は得物の方が持たねぇ。
細かなヒビが走って、今にも砕け散りそうだ。
にわか仕込みな俺の【大樹】じゃ、ユピテルのようにはいかねぇのか……!
「ならば……、強度を持たせてやればいい……」
瞬間、ソードブレイカーの表面が氷でコーティングされる。
誰がやったか、言うまでもねぇな。
「助かったぜ、相棒!」
「俺の魔力、全てを乗せた氷だ……。コイツは、そう簡単には砕けん……」
ディバイの氷はヘタな結界魔法よりも硬度がある。
コイツで防御は完璧だが、最大の問題はゼーロットだ。
「あぁ……っ、最後まで見せてくれるね……っ。絆の強さ、協力することの素晴らしさ……っ」
盾をへし折ろうにも、攻撃を仕掛けようにも、ヤツの【鉄壁】が健在な以上どうにもできねぇ。
ユピテルが意識を取り戻さなきゃ、潰されるまでの時間を引き伸ばしただけで終わっちまう。
「……ユピテル! ユピテル、聞こえてんだろ!」
「ムダだよ……っ。彼の意識は先ほど押し込めた……っ。もう全く、意識に対する干渉を感じないよ……っ。その証拠に――奥義・魂豪鉄身」
ゼーロットの体が鋼鉄色の練氣に包まれた。
その瞬間、ヤツのパワーが大幅にアップ。
またもや押し返されはじめる。
「く……そ……っ!」
氷がピキピキと小さくひび割れ、そのたびにディバイが魔力を送って修復を繰り返す。
練氣の方も、ギリウスさんから常に送ってもらわなきゃ間に合わねぇ。
「う、がはっ……!」
「ディバイ!」
キズが開いたのか、止血にまで魔力を回す余裕が無くなっちまったのか。
ディバイの胸の氷が砕け、大量の血が噴き出す。
「大、丈夫だ……! バルジ、お前はヤツに集中しろ……!」
「けどよ……!」
「集中しろと、が……ッ、言っている……!」
「……あぁ、わかったよ。その代わり死んだら許さねぇぞ!」
……とは言ってもよ。
このままじゃ俺ら三人まとめてペチャンコだぜ。
「美しい……っ、尊いね……っ。でもさ……っ、もう終わりにしようよ――ぐッ! う、うぐ……ッ、これは、まさか……っ」
ゼーロットがよろめき、練氣が消失。
押し返すパワーも比べものにならねぇくらい弱くなった。
これならいける!
「う、おらぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
渾身の力を込めて、思いっきりソードブレイカーに捻りを加え、ねじり切る。
パキィィィィッ!
瞬間、【鉄壁】の硬度を持つはずのヤツの盾が粉々に砕け散った。
コイツぁつまり、ヤツの【鉄壁】が無効化されてるってことだ。
「バカな……っ。まさかユピテル君、ボクの意識ではなく、魔力と練氣の流れを断って……っ」
「いまだ、バルジ……ッ! ごはッ!」
大量の血を吐きながら、ディバイがソードブレイカーにまとった氷をさらに拡大させる。
木製のソードブレイカーを芯にした、巨大な氷の長剣だ。
……ここでお前の心配するのは、お門違いだよな。
ありがとよ、お前の思いムダにはしねぇ。
「……あぁ、決めるぜ」
青く透き通る剣を肩にかつぎ、思いっきり体に捻りを入れる。
ユピテル、お前の大技、翠嵐一閃。
見よう見まねのアレンジ加えて使わせてもらうぜ。
「受け取れぇ、ゼーロット! 青藍……一閃ッ!」
ゴォッ!
空気が弾け飛ぶようなうなりを上げて、渾身の力で放つ横振りの一閃。
氷の刃の側面が、ゼーロットの体に直撃した。
「ぐ、あああぁぁァァァァァァァァァッ!!!!」
ヤツは絶叫を上げながら吹き飛び、民家に突っ込む。
きりもみ回転しながら数件のカベを突き破って、数ブロック先でようやく止まったみてぇだ。
「刃は立ててねぇ峰撃ちだ。死んじゃいねぇだろうが……」
【鉄壁】で防御できてない以上、確実に戦闘不能だ。
これでようやく、ようやく片ぁついたぜ……。




