331 連携
あたしとペルネが今いるのは、王城一階のダンスホール。
騎士団の指揮とケガ人の治療は、主にここで行われてる。
つまりここが本陣、と言っても過言じゃないよね。
なんせ一国の女王様が二人も並んで座ってるわけだし。
兄貴の仲間だっていう魚人のラマンさんを筆頭に、お医者さんや治癒術師の人たちががんばってくれたおかげで、ぎゅうぎゅうだったダンスホールもすっかり元の広さに落ち着いた。
そんな中、伝令の兵士さんがあたしのとなりに座ってるペルネの前へと走ってくる。
「ペルネ陛下、報告です。中央区の生存者はこれ以上確認できずとのこと。救助に当たっていた騎士団が城へと帰還しました。西区画の騎士団は連絡が途絶えている模様」
「西区画が……」
不穏な報告に、ペルネの表情が少し曇る。
でも、さすがは女王様。
すぐに不安をひっこめて、次の質問に移っていった。
「東区画の方は? スティージュの騎士団がむかったはずですが……」
「なにぶん指揮系統が異なるものでして、詳しい動向は把握できておりませんが、健在なのは確かです」
「そう、ですか……」
「指揮権、統一してもらえばよかったのにね。大兄貴ってば頭が固いんだから」
情報不足で困っちゃってるペルネを見かねて、つい横から口を出しちゃった。
ホント、緊急事態なんだから、もっと柔軟な対応とればいいのにね。
「仕方ありませんよ、ストラさん。指揮下に入るということは、一時的にでもデルティラードの風下につくことを意味します。今後のスティージュのために、ギリウスはそれをよしとしなかったのでしょう」
「……うん、まぁ。それはわかってる」
国同士の関係って難しいもんね。
あたしだって、気をつけなきゃいけないことはわかってるよ。
「じゃあさ、様子を見てきてもらうのは? ソレならいいんじゃない?」
「えぇ。ではそのようにお願いできますか?」
「はっ、ただちに!」
ペルネの命令、っていうかお願いを受けて伝令さんが走っていった。
そのタイミングを見計らったみたいに、白い髪の子どもがこっちへ走ってくる。
えっと、この子は……。
「お姉さん、ちょっといい?」
「あなたは……、ケルファちゃん、だっけ」
たしか、兄貴といっしょにお城へやってきた子だよね。
不愛想で近寄りがたいイメージだったし、実際これまで一度も話しかけてくれなかったんだ。
なんか嬉しいから、ここは優しく対応してあげよう。
「なにかな? お姉ちゃんになんでも言ってごらん」
「気持ち悪い。お姉さんそういうキャラじゃないでしょ」
うぐっ、こ、このお子様め。
あたしの何を知ってるってんだ……!
「ふふっ」
ペルネまで笑ってるし。
もう、顔が沸騰したみたいに熱い……。
「……こほん。で、なんの用事?」
「そうだ、お姉さんって兄さんの妹でしょ。兄さん――あぁ、バルジさんの情報、なにか入ってない?」
兄さん……?
って、兄貴のことだよね、たぶん。
言い直してくれたけど、この子普段から兄貴のこと兄さんって呼んでるんだ。
「うーん、兄貴かぁ……。キリエたちといっしょに飛び出してって、王都中を駆け回ってるんだもん。さすがのあたしもわかんないや」
「……そう」
なんか露骨にがっかりされた。
この子、兄貴のことが心配なんだろうな。
「心配ないない。きっとそのうち戻ってくるからさ」
「……お姉さん、家族なんでしょ? 心配じゃないの?」
今度はにらまれた……。
さっきから裏目ってるな、あたし。
もっとしっかりしなきゃ。
「……心配してないわけじゃないよ。でもさ、行かないでなんてわがまま言うわけにもいかないし。だったら心配するより、信じて待ってた方がいいじゃん」
「信じる……。それって、家族だから?」
「うん、あたしは信じてる。兄貴はきっと無事に戻ってくるって。これまでもそうだったから」
死んじゃったって思って、死んだことも受け入れたのに、アホ面下げて帰ってきちゃってさ。
ホント……嬉しかったんだから。
それになにより、今回は大兄貴もついててくれるし。
きっと、前みたいなムチャはしないって信じてる。
うん、信じてるから。
△▽△
大急ぎで飛んできた甲斐あって、なんとか間に合ったみてぇだな。
ギリギリのタイミングで間に割り込んで、ディバイへの致命的な攻撃を防いでやれた。
にしても今の攻撃、ディバイの氷魔法にそっくりだったな……。
「バルジ、助かった……。だが気をつけろ……。ヤツのギフトの名は【鉄壁】……。その力の一端はおそらく、盾に受けた攻撃を吸収・保存……。そして任意のタイミングで威力を倍増し跳ね返す……」
「おうおう、厄介なことこの上ねぇな」
今の俺には【大樹】の勇贈玉のおかげで魔力が宿っている。
そのおかげで感じてたんだが、なるほど、どうりで魔力もディバイにそっくりだったわけだ。
「おや、キミは……っ。知っているよ、バルジ・リターナー君だね……っ!」
「俺をご存じたぁ嬉しいねぇ、二代目勇者ゼーロット……!」
わかっちゃいたが、こうしてむかい合うと気分がわりぃ。
なんせ、声も見た目も完全にユピテルそのまんまだからな……。
「ボクは知らなかったさ……っ。ただ、この体の持ち主がね……っ。そちらの彼と違い、キミのことは悪からず思っているようだよ……っ」
「すまねぇな、俺はてめぇと仲良くお話しにきたわけじゃねぇ」
「ほう。ではキミの用件も、そこの彼と同じかな……っ?」
「おうよ。その体、ユピテルに返してもらうぜっ!」
盾に攻撃を受けられたら厄介だ。
迂闊な攻撃はできねぇな。
ここは連携でいかせてもらおうか。
一気に間合いをつめ、右手の長剣をふりかぶる。
だがコイツはフェイクだ。
ヤツが盾をかまえた瞬間、俺は攻撃を止めて飛び上がった。
「ディバイ!」
敵の頭上を飛び越えながら、ディバイに声をかける。
「あぁ……。フロストバインド……!」
あっちも俺の考えを読んでたみてぇだな、さすがは相棒。
ディバイの放った冷気が地を走り、ゼーロットの足を氷の塊でおおいつくした。
「む、これは……っ」
動きを封じられたヤツの背後に着地し、背中をめがけて剣をふりかぶる。
ユピテルの体だ、殺すつもりはねぇが、ひとまず戦闘不能にはなってもらうぜ……!
「あぁ、悲しいな……っ」
「なに……っ!?」
ヤツの足を拘束していた氷が一瞬で砕け散る。
バリアにもなるほどの硬度を誇るディバイの氷から、ちょいと力を入れただけで抜け出したってか?
冗談キツイぜ、バケモノがよ。
反転したヤツは、俺の剣の軌道上に盾をかまえる。
「この程度では届かないよ……っ。キミたち二人の連携でも、このボクは倒せない……っ!」
「そうかよ。じゃあ三人ならどうだろうな」
「なに……?」
俺の方をふりむいてガード姿勢を取ってるお前には、見えてねぇんだろうな。
屋根の上から飛び出した大男が、ドデカい大剣を上段に振りかぶって落ちてきてんのがよ。
ズガァァァァァァァァッ!!
練氣をまとった大剣の一撃が、ゼーロットの背中に命中。
ヤツの体を民家の中へとブチ飛ばし、石畳に小さなクレーターを作り出した。
「ナイス連携! さすがだぜ、ギリウスさん。俺よりパワーあるんじゃねぇの?」
「茶化すな、バルジ。まだ終わってはいないぞ」




