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323/373

323 何度でも




 この空間に飛ばされてから、どのくらいの時間がたったんだろう。

 数時間か、半日か、それとも数日か。

 音も光もない真っ暗闇じゃ、時間感覚がおかしくなりそう。


 いや、時間どころじゃないか。

 本当に今、自分が生きてるのか、存在してるのかすら、こうして声を張り上げて体を動かしてなきゃわからなくなりそうだ。


「五速……っ、だあぁぁぁぁあぁぁッ!!」


 練氣レンキと魔力を込めて、全力で放つ最強の刺突。

 山すら砕くほどの威力が結界にぶち当たって、あたりに衝撃波が吹き荒れる。

 でも、それだけだ。


「っはぁ、はぁ、はぁ……っ」


 手加減ナシの五速をかれこれ数百発。

 こんなに連発したの初めてだよ。

 アタシ、こんなに持久力あったんだな……なんて強がってみるけど、正直もう限界ギリギリだ。

 体のあちこちが悲鳴をあげている。


「ちょっと……っ、休もうかなー……。はぁ、はぁ……」


 ホントはじっとなんてしていたくない。

 体を動かしていないと、不安と恐怖に支配されてしまうかもしれないから。

 でも、脱出する前にぶっ倒れちゃ元も子もないか。

 仕方ない、少し休憩して――。


「……あれー?」


 気のせいかな?

 さっき突きを当てたトコ、少し光ったような……。


 ――ピシ。

 ピシ、ピシっ。


 ……いや、気のせいじゃない。

 ほんの少し差し込んだ、ほんのわずかな光。

 そこから小さなヒビが走っていく。


「コレ、まさか……!」


 この空間を作ってる結界に、亀裂が生まれてる?

 とにかくこのヒビ目がけて思いっきりブチかましてやれば、ここから脱出できるかも。


 ……それに、ヒビのむこうからキリエの気配を感じる。

 きっとノプトとキリエが戦ってるんだ。


「……休んでるヒマ、ないみたいだね」


 疲労で上がらない腕を無理やり上げて、絞り出した練氣レンキと魔力を両腕にまとわせる。

 切っ先をヒビにむけ、狙いを定めて。


「キリエ、今行くから……! 五速『新月カゲノツキ』ッ!!」


 渾身の突きを放った瞬間、切っ先が当たるまさに直前に。

 ヒビが、差し込む光が消えてしまった。


「なん……っ! あぅっ!」


 当然、突きも不発。

 それどころか自分の技の衝撃波に体ごと弾かれて、尻もちをついてしまった。


「いったた……。ちょーっと遅かったかな、それとも……」


 なんにせよ、今ので希望が見えた。

 なんとしてもここから脱出して、ジョアナたちが不死になったことを伝えなきゃ。


「またヒビが入るまで、何度でもやってやる。もう二度と、折れないって決めたんだから……!」



 〇〇〇



 ノプトの頭上の空間に生まれた小さなヒビ。

 アレの存在に、ジョアナも気づいていないみたいだ。


 奴らの口ぶりからして、クイナはどこかに飛ばされたはず。

 そのどこかが、この世界のどこかじゃなくて、たとえば魔力で作られた異空間だったとしたら。

 その空間を維持する魔力が、腕を斬り落とされたことで乱れた結果がさっきのヒビだったとしたら。

 さっき聞こえた気がしたクイナの声も、感じた気配にも、全て説明がつく。


(加えて、奴らの悪趣味にもね……)


 クイナのトラウマ、知ってて利用したんだろ。

 ホント、ヘドが出る。


「じゃ、ノプト狙いってことでよろしくね」


「わ、わかりましたが勇者殿、作戦は……」


「アンタがノプトの相手して。私はジョアナを引き付けるから。スキが出来たら二人で一気に仕留める」


「了解です……!」


 あんまり凝った作戦じゃないけどね。

 もともと力関係はこっちが上だし、複雑なことしてジョアナに怪しまれちゃ嫌だし。


「じゃ、行くよ!」


「はい!」


 声をかけあって、私はジョアナへ、イーリアはノプトの方へとむかっていく。


「行くぞノプト! 奥義・魂豪身コンゴウシン!」


 手加減なしだね、アイツ。

 いきなり奥義を発動して、真正面から猛スピードで斬りかかった。

 さすがに不意打ちじゃないから、ノプトも瞬間移動してかわされちゃうけど。


「真正面から斬りかかるだなんて。卑怯な真似以外もできるのね、卑怯者の騎士さん」


「なんとでもいうがいい。愛する祖国を、大切な人を守るためならば、卑怯者のそしりも甘んじて受けよう!」


「あらあら、熱いこと」


 何度も瞬間移動を繰り返すノプトと、ひたすら距離を詰めて斬りかかるイーリア。

 二人の攻防を横目で確認しつつ、私は地面に手を置いて【沸騰】の魔力を流す。


「待たせたね、ジョアナ。今すぐ蒸し焼きにしてやるよ」


「うっふふふっ、蒸し焼きねぇ……。ソレは楽しみだわぁ」


 なにが楽しみなんだよ。

 空中に浮かぶヤツの真下、地下に発生させたマグマを、一気に溶岩の柱として打ち上げる。

 ところが予想通り、空を自由に飛び回るアイツには当たらない。

 スッと真横にスライドされただけで、火柱は空振りに終わった。


「こんなもの、当たると思って?」


 小馬鹿にしてくるけど、私だって当たるとは思ってないし。

 ただノプトから気を逸らせれば十分だ。

 そうやって上から見下して油断してろ。

 間髪入れずに、立ち昇るマグマをそのまま溶岩龍の形に変化させる。


「行け、溶岩龍! アイツを喰い殺せ!」


「今度は追いかけっこ? いいわ、付き合ってあげる」


 空中を逃げ回るジョアナを、溶岩龍を操作して追い回す。

 時おり私の方に飛んでくる反撃の風刃をかわしながら、さりげなくあっちの攻防を様子見。


(離れて見てたらなるほど、ノプトの回避にはパターンがあるな……)


 攻撃の来る方向と技で、無意識に瞬間移動先を決めてるみたいだ。

 たとえば左下からのナナメ斬り上げは、かなりの高確率で右ナナメ後ろに十メートルくらい飛んでいる。

 突進からの突きなら敵の背後を取るように。

 戦闘慣れしてないヤツによくあるワンパターン行動だ。


(だったら……)


 さっき地面を溶かした時、ついでに流しといた魔力をいくつかアイツらが戦ってる場所の地面に散りばめておいた。

 そのうちの一つを動かして、次にイーリアが左下からの斬り上げを繰り出したら……。


(来た!)


 瞬間移動を終えたノプトにイーリアが追いついて、左下からの斬り上げを繰り出す。

 そいつをワープでかわして、ヤツが姿を現した瞬間。


「噴き昇れ!」


「なッ……!」


 ノプトの足元から噴き出すマグマの柱が、ヤツの右半身をとらえた。

 よし、タイミングばっちり!


「あっ、があぁぁぁぁぁああぁぁっ!!!」


 体の半分を黒コゲにされて絶叫するノプト。

 すぐさまイーリアが距離をつめ、


「御免!」


 ドスっ!!


「あっ、がぼ……っ!」


 ヤツの心臓を刺しつらぬいた。

 ただ、それでもヤツは即死してないみたい。

 最後のあがきとばかりに、空間の歪みを作り出してイーリアを飲み込もうとしてる。


「させるかッ!」


 すぐさま距離をつめて、ノプトの頭をわしづかみ。

 【沸騰】の魔力をありったけ叩き込んでやった。


「あ゛、あびゃ……っ!」


 パァンッ!!


 一瞬だけノプトの顔面がいびつに歪んで、沸騰する血肉をまき散らしながらはじけ飛ぶ。


「あらあら、ノプトがやられちゃったわねぇ……」


 ジョアナすら手を出せないほどの一瞬の攻防。

 アイツがやけに余裕なのは気になるけど、ともかくその次の瞬間。


 パリィィィィィ……ン!!


 ノプトの頭上の空間が弾けて、黄色い髪の女の子が飛び出してきた。




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