表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

322/373

322 ヒビ




 ジョアナとの戦いはこれで二度目。

 あの時から、私は二人の人工勇者をたおしている。

 レヴィアとトゥーリアの魂を喰らって、比べものにならないほど強くなってるんだ。

 対するジョアナの強さは変わらないまま、コイツは私にとってかなり有利な戦いだ。

 ……一対一なら、の話だけど。


 吹き荒れる暴風と、私の逃げ道をふさぐように現れる空間の歪み。

 ノプトとの腹立つほど息の合ったコンビネーションのせいで、私は戦闘開始からずっとジョアナにダメージを与えられていない。


「あっははっ! どうしたのかしら、私を殺すんじゃなかったの?」


 宙に浮かんで高笑いしながら、風の刃を連発してくるジョアナ。

 攻撃を仕掛けようにも……、


「お姉さまには指一本触れさせない」


 距離を詰めようとすれば、ノプトの生み出す歪みに行く手をはばまれる。

 マグマも熱湯も、ジョアナに当たる前にどっか飛ばされるし。

 さっきからずっとこんな調子だ。


 先にノプトを殺そうとしても、瞬間移動でさっさと逃げられるし。

 ほんとアイツ、顔のまわりをブンブン飛び回る羽虫みたいにうっとうしい。


「うふふ、逃げてばかりねぇ。そんなんじゃ、家族の仇を討てないわよ?」


「……アンタらこそ、なまっちょろい攻撃ばっか。ソレで私を殺そうだなんて笑っちゃうね」


 辺り一帯を真空状態にしてこないのは、一度破られているからか、それともノプトとのコンビネーションが崩れるからか。

 ともかく体力が有り余っててノーダメージの今の状態なら、ただの風の刃や空間の歪みなんていくらでも避けられる。

 まるで私が疲れるのを待ってるみたいだけど、敵が無限の体力と魔力(・・・・・・・・)でも持っていない限り、持久戦でも負ける気しないね。

 ……ただ、だからこそ狙いがわからなくて不気味でもある。


(せめて、味方がもう一人いたら……)


 二人がかりで一気にノプトを殺せば、ほぼ勝ち確。

 そうでなくてもノプトの援護をおさえてくれれば、ジョアナ一人に集中できるのに。

 リーダーとか、誰か助っ人に来ないかな……。


「さぁさぁ、キリエちゃん。もっともぉっと踊ってもらうわよぉ。足が棒になっちゃうまで……ずぅっと、ね」


 渦巻く暴風のカベが周囲をぐるりと取り囲む。

 私を中心に小さな竜巻を生み出したのか……。

 続けて風壁から次々と風の刃が飛び出し、襲いかかってきた。

 こんなもの、動き回ってかわすまでもないね。


「水護陣!」


 【水神】の魔力で、体のまわりに水の防護壁を生み出す。

 ぶ厚い水のカベが風の刃を受け止め、かき消しているうちに、腕に練氣レンキを集中。

 金剛力コンゴウリキを発動して、両手で力いっぱい握りしめた。

 直後に水護陣を解除して、


「だああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 回転しつつ全力で振りぬく。

 剣の衝撃波が竜巻を一瞬でかき消して、勢いを殺さないままノプトへ襲いかかった。


「あら、驚いたわねぇ。でも……」


「無駄ね。私には当たらないわ」


 うん、だろうね。

 ノプトが瞬間移動して、私のカウンターは空振り。

 ヤツの後ろにあったお店数件を破壊するだけに終わる。

 で、少し離れたところにノプトが出現。

 余裕の笑みを浮かべてやがるけど……、


「貴殿の行動パターン、先の立ち合いで見切っている」


「……っ!?」


 その笑みが一瞬で凍り付く。

 よし、アイツの存在から気を逸らすには十分な攻撃だったね。


 背後から斬りかかった女騎士の振り下ろす、超高速の斬撃。

 再度の瞬間移動を繰り出すヒマもなく、ノプトはとっさに体をそらしただけ。

 攻撃をかわしきれず、ヤツの左腕が斬り落とされて宙を舞った。


「あぐっ!!」


 すぐに姿を消し、ジョアナの側にワープするノプト。

 そして私のとなりでは、駆けつけたイーリアが並び立って剣をかまえる。


「女騎士、またあなたね……!」


「急所は避けるか、さすがと言ったところだな……」


 これで二対二、なら個々の力で勝るこっちが圧倒的に有利。

 ノプトは片腕斬られたし。

 でもイーリア、たしか騎士団といっしょに救助活動に当たってたんだよね。


「……アンタ、任務はいいの?」


「中央区での市民の救助はあらかた終わりました。ですのでこうして助太刀に。……余計なお世話だったでしょうか」


「……いや、正直助かった」


 猫の手も借りたい状況だったし。


「……一度ならず二度までも、背後からの不意打ちだなんて。まったくあなた、騎士の風上にも置けないわね……」


「騎士たるものの本質はそこにあらずと、とあるお方から教わったものでな」


 とあるお方……、もしかしてクイナのことかな。


「しかし驚いた。本当に腕が再生しているとは……」


「うらやましいかしら……?」


 ……ん?

 なんだろ、ノプトの頭の上あたり。

 空間にヒビが入っているような……。


「ノプト、コレを使いなさいな。片腕では満足に戦えないでしょう?」


 ジョアナがノプトに、小さな袋を投げ渡す。

 ソイツを受け取ったノプトが、中から何かを取り出して飲み込んだ……ように見えた。

 なんていうか、妙なんだけど、気のせいかもしんないけど。

 何も飲んでないのに飲んだフリをした……ように見えたんだ。

 その直後に、ヤツの腕は超高速で再生。


「な……っ! ありえない! 切断された腕を一から再生するなど、魚人薬をもってしても不可能のはず……!」


「そうねぇ、不可能のはずよねぇ。でもできちゃったんだもん。私たちのお薬、魚人さんのより優秀みたいね。うふふ……」


 ……ヤツらが本当にとんでもない薬を使ったのか、それとも別のからくりがあるのか。

 ソコも気になるけど、私にはもっと気になることがあった。

 ノプトの腕が再生した瞬間、ヤツの頭上のヒビがキレイさっぱり消えたんだ。

 しかも消える直前、ほんのかすかにクイナの声が聞こえた気がした。


(ヤツら、クイナをどこかに飛ばしたみたいなこと言ってた。それがもし、ノプトの魔力で生み出した空間なら……)


 だとしたら。

 勝利のためにもあの子のためにも、まずは。


「……イーリア、まずはノプトから殺るよ」


「か、かまいませんが……。なぜ?」


「殺せばわかるよ。……たぶん」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ