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317 不死兵襲来




 異形の肉塊……。

 『獅子神忠ピレア・フィデーリス』の不死兵団か……?

 お偉いさん連中が色めき立つ中、ペルネ姫は冷静に伝令さんへと問いかけた。


「詳細な報告をお願いします。まず敵の侵入経路、それから現在地を」


「し、侵入経路は不明、突如として王都の各地に出現しました……! 現在敵は、王都各地にて市民を襲っており、すでに多数の犠牲者が……!」


「市民の様子は?」


「逃げ惑う民衆が、一部は王都の外へ逃げ、一部はこの王城へ殺到しています!」


「……報告、大儀でした」


 すごいな、ペルネ姫。

 こんな報告聞いても顔色一つ変えていない。

 すぐにこの場の全員へ指示を出しはじめた。


「まずは住民の受け入れを最優先に! 城門は開け放ち、逃げ込んでくる市民は一人残らず受け入れなさい!」


「はっ! そのように伝えます!」


 指令を受けた伝令が走り去っていく。

 続いて騎士団長、それからイーリアに指示が飛んだ。


「デルティラード騎士団はただちに部隊を編成し、市民の救助にあたりなさい! いいですか、目的は交戦ではなく救助。必要以上の深追いは避け、一人でも多くの民を救うことに尽力するのです!」


「はっ、ただちに向かいます!」


「ギリウスたちスティージュの騎士団も力を貸してくださいませんか? 我らのみでは手が足りないのが現状です」


「元より。このまま指をくわえて眺めるつもりはありません」


「そして敵の迎撃ですが……。キリエ様、そしてバルジ様。どうかお願いします」


 最後に出されたのは指示、というかお願いだった。


「ディバイ様という方も、相当の手練れと聞き及びます。あなた方三人で王都を飛び回り、敵の数を減らしていただきたいのです」


「遊撃部隊、という訳ですね、女王陛下」


 うわ、リーダーが敬語使ってる。

 ものすごい新鮮というか違和感バリバリというか。

 ともかく、


「断る理由なんてないよ、言われなくても行こうと思ってたし。ね、リーダー」


「もちろんだ。俺にとってもディバイにとっても、無関係な話じゃねぇしよ……」


 リーダー、ユピテルのこと言ってるんだろうか。

 不死兵以外の敵が出てきてるかどうかはまだわからないけど。

 それを言うなら、ジョアナだって来てる可能性あるんだよね……。


「ありがとうございます。非戦闘員は住民の受け入れ、および負傷者の手当ての準備を! では各々、奮戦を期待します!」


 最後に勇ましい号令がかけられ、その場にいた全員がすぐさま動き出す。

 もちろん私も。

 剣一つで飛び出せるぶん、他の人より身軽だからね。

 さっさと行ってきますか。




 部屋に戻ると、ベアトが不安げな顔で問いかけてきた。

 マドの外、王都の住民がお城に押し寄せてきてるからね。

 悲鳴と怒号もここまで聞こえてくる。

 不死兵が襲撃してきたことを伝えつつ、真紅のソードブレイカーが収まった鞘を腰に装備。

 これだけで大体の準備は完了だ。


「ベアト、行ってくるね。お城の中は安全だと思うから、リフちゃんたちといっしょにいてあげて」


『はい。ラマンさんやおいしゃさんたちのおてつだいしてます』


「……治癒魔法は使わないでよ?」


『わかってますよ。おくすりつかったり、ほうたいをはこんだりするだけです』


 うん、さすがにちゃんとわかってるよね。

 寿命の問題を知ってしまった今、治癒魔法を使うのがどういうことか、よーくわかってるだろうし。


「……それじゃ、行ってくるね」


 最後に鞘をつけたベルトをキュッと引っ張って、マドをガチャリと開けたとき。


「……んぅ」


 くいっ。

 控えめにそでを引かれて、ちょっと待っての意思表示が来た。

 なんだろ、そう思ってベアトの方をふりむくと、


 ちゅっ。


 ほっぺに、ベアトのくちびるが触れた。

 ちょっと背伸びして、顔を真っ赤にしながらの口づけ。


「……勝利のおまじない?」


『いまは、しょうりのおまじないです』


「……そっか、うん。わかった」


 今は、そうなんだね。

 ベアトの頭を軽くなでて、それから……、たぶん自然に頬がゆるんで、微笑むことが出来たと思う。


「いってきます」


『いってらっしゃい』


 最後に短く言葉を交わして、私はマドから飛び出した。



 バルコニーを足場にどんどん飛び降りて、城壁の上へジャンプ。

 そのままお堀にそって正門の方へ走っていくと、正門前広場の様子が見えてくる。


 避難民であふれかえった広場に騎士団の人たちが立って、お城の中へと誘導してるみたいだ。

 ケガをしてる人もたくさん、親とはぐれて泣いてる子どもの姿だって見える。


 城門の外で不死兵と応戦してるのは、普通の兵士さんたちだ。

 デルティラードとスティージュの騎士団は、まだ出撃できてないみたい。

 人数が多いと、私みたいに身軽にはいかないか。

 そんなことを考えてると、お城の方から飛び出してきた二人の影がとなりに着地。

 私とほとんど一緒の速さで並走できるのは、この人たちくらいだよね。


「よぉ、キリエちゃん」


「リーダー、それにディバイさん。準備早いね」


「言って俺らも身軽だからよ。ほら、ラマンからの差し入れだ」


 リーダーが魚人印の小袋を投げ渡してきた。

 確認するまでもなく、あの人特製の回復薬だね。


「ありがと、助かる」


 不死兵以外の強敵がいたとしても、これで多少はムチャができる。

 お礼をしつつありがたくポケットに入れさせてもらった。


「しっかし、ひっでぇありさまだな。人も街も……」


 時刻は夕暮れ、王都からは悲鳴や破壊音が響いてくる。

 さっきまで平和だった街が、今やすっかり地獄絵図だ。


「胸糞わりぃ奴らだぜ、つくづくよ……!」


 リーダーの瞳に宿るのは静かな怒り。

 正義感とか義憤とか、そういうのがこの人の主な動力源なんだよね。


「リーダー、冷静にね。もちろんディバイさんも」


「なぜ……、俺に振る……」


「んー、なんとなく?」


 本当になんとなく、普段のディバイさんとは違うように見えた。

 気のせいならいいんだけど。


 ともかく、不死身といっても所詮ザコ。

 無力化する方法はいくらでもある。

 まずは三人で城門前の敵から掃除させてもらいますか。




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