310 朗報を届けに
ケニー爺さんが残してくれた資料のページの最後は、希望の言葉で締めくくられていた。
次のページからは、魔力変換装置の図面と勇贈玉から力を集約させる方法が書かれている……みたい。
難しすぎて私にはよくわかんないけど。
とにかく、今の私にとって最高の贈り物だ。
ありがとう、ケニー爺さん。
「……お前の反応を見るに、信じるに値する情報のようだな」
「うん、『星の記憶』の話も出てたし間違いない。……あ、『星の記憶』ってのはパラディの国家機密ね」
「そ、そうか……」
あ、ギリウスさんがちょっと怯んだ。
知ってはいけない情報を知ってしまった感がただよってる……。
「……と、とにかく。さっそくこの資料、ピレアポリスの研究施設に届けなきゃ」
当然ながら、こんな装置を作れるのは世界中であそこだけ。
魔力変換装置の設計図は盗まれちゃったし、むこうにとっても必要不可欠なモノだもんね。
「明日トーカに頼んで魔導機竜飛ばしてもらうよ。お疲れのトコ悪い気がするけど……」
「いや、それには及ばない」
「ん?」
「お前に来客だ。三日前からずっと待っているぞ」
……私にお客って誰だろう、まったく心当たりがないな。
ギリウスさんが使いのメイドを走らせて数分後。
その人が『来客』を連れて部屋の中へともどってきた。
「ギリウス様、お連れしました」
「ごくろう。客人も、長い間待たせてしまってすまなかったな」
現れたのは、大柄なオーガ族の女の人。
パラディのシスター服に身をつつんだ、私もよーく知ってる人だ。
「お客って、グリナさんだったんだ」
「……反応薄いぞ、キリエ。メロたちなんて幽霊でも見たような顔で驚いてくれたってのに」
いや、さすがにそこまで驚かないでしょ。
知り合いを幽霊と見間違えるって、いったいどんな状況だったんだろう……?
「ところでグリナさん、その首飾りについてるのって……」
「【月光】さ。ソーマが死んだあと、ヤツの前任者が使い手に選ばれたんだけど、その人もう歳でさ。わたしを色々なトコに連れまわしてワープできるようにさせた挙句、大司教様に直訴しやがった。あのジジィ……」
……大変なんだな、グリナさんも。
【月光】持つってことは、各国のお偉いさんのとこに使者として行かされるってコトだもんね。
そんな大役、ベルナさんもきっと信頼して任せたんだろうけどさ。
「で、わたしがわざわざ出張ってきた理由だが……」
「もしかして、エンピレオの魔力変換装置について? なにか進んだの?」
「違う違う、そっちはさっぱりだ。最近王都周辺で多発してる魔物の大量発生についてだよ。ウワサが大司教の耳に入ってな」
「この件については、この国の騎士団やスティージュの騎士団とグリナさんで話し合った。しかし発生源の赤い岩を見つけたとて、やはり勇者がいなければ根本の解決にはならない」
「ま、そういうこった。アンタにも動いてもらいたくって。パラディとしても協力は惜しまないからさ」
ふーん……。
でも、この盆地で赤い石はどこにも見つかってないわけで。
その発生源、エンピレオ本体なんじゃないか?
「変換装置の方は、人手はなんとか確保できたけど、資料がまったく足りないってさ。『星の記憶』の資料を元に一から設計し直すから、もしかしたら年単位でかかるかも……」
「あぁ、そんなに待たなくてよくなったよ。図面なら手に入ったから」
〇〇〇
資料に目を通したグリナさん、すっごく驚いてた。
まあ当然だよね、喉から手が出るほど欲しかったものが降ってわいたんだもん。
すぐパラディに持ち帰ることになって、私も同行することに。
ベアトの実家に行くんだもん、せっかくだからあの子にも声をかけて、私たち三人はピレアポリスへとひとっとびした。
「……っ!」
「……スゴイね、【月光】」
数秒前まで王都ディーテのお城の中にいたってのに、今は聖地ピレアポリスの大神殿の中、大司教の部屋の前。
わかっていても、私もベアトも改めてビックリだ。
「月が出てる間しか、使い物にならないけどな。さ、入ろう」
グリナさんが大司教の部屋をノックすると、大きな両開きのトビラが自動的に開いて私たちを出迎えた。
そうして通された部屋の中には、大司教の服を着たベアトのお母さんが。
「大司教様、ただいま帰還しました」
「あら、シスター。ずいぶんと時間がかかりましたが、何かありましたか?」
「その件に関連しまして、彼女たちを連れてまいりました」
グリナさんが一歩下がって、私たちが代わりに進み出る。
……というか、久しぶりのお母さんとの再会に、ベアトがたまらず飛びこんでいった。
「……っ!」
「あら、ベアト……!」
『おかあさん、あいたかったです!』
「うふふ、私もよ。ではシスター。報告をお願いできるかしら?」
ベルナさんがソファーに座って、ベアトをひざまくらしながら、グリナさんが王都でのことを説明。
私も魚人の里での出来事を話して、【地皇】と【施錠】の勇贈玉も返却しつつ。
そして忘れちゃいけないのが、ケニー爺さんの残した資料。
最後にこれを渡して、しっかり目を通してもらった。
「これはまさしく、天からの贈り物という他ありませんね。ケニーさん、数代前の所長でしたが、ここまでの研究を独自に進めていたとは……」
「ケニー爺さん、そんなに偉い人だったの……?」
ここの研究者だってコトは知ってたけど、まさかトップだったなんて……。
「彼は非常に優秀な研究者でした。しかしフィクサーが権力を拡大する中で次第に居場所を奪われていき、この地を去ったと聞いています」
「そうだったんだ……」
そしてデルティラードに流れ着いて、そこでもブルトーギュのせいで居場所を奪われて。
最後には私の村に流れ着いたんだ。
「この資料はありがたく使わせていただきますね。ところでキリエさん、今日はお泊りになっていきませんか?」
「んー、私はどっちでも……」
泊っていきたいの、どっちかっていうとベアトの方だろうし。
「……。……ぅっ!」
ふるふる。
ベアトが首を横にふった。
「ベアト、泊まっていかないの?」
「……っ」
『キリエさんがいないと、リフさんがさみしがってしまいます。それにわたし、キリエさんとふたりでねますから。どこにとまってもおなじです』
「……そう。大きくなったのね、ベアト」
「……っ」
ベルナさんに頭をなでられて、嬉しそうに目を細めるベアト。
本当はお母さんと一緒にいたいだろうに、ガマンしてくれたんだ。
「ではせめてお茶だけでも。どう? お母様もベアトに会いたがっているわ」
「そのくらいならいいよね、ベアト」
「……っ!!」
こくり、と今度は元気よく首を縦にふる。
よかった、この子自分より他人のことを優先するところがあるから。
……いや、やっぱり今回も他人のコト優先した結果なのかな。
お母さんたちが寂しがらないようにって。
ベアトのそういうとこ、好きだけど危なっかしいとも思う。




